第肆拾話 子鬼が二匹
前回の話は直す所が大量にありますね。
そのうちぼちぼち直します。
デイダラボッチって山神様らしいですね。
「主らは阿呆か。」
不機嫌さを隠す様子もなく胡座をかき、膝に頬杖をついた百鬼が言う。
目の前には大きなたんこぶのできた頭を垂れた小鬼が二匹。
「すまねぇだ。」
「すまねぇです。」
百鬼の口からまた溜め息が漏れる。
百鬼がたまたま通った竹藪で、この小鬼が飛びかかってきたのだ。それもご丁寧に片方は金棒、片方は大鬼に化けて。
軽くいなして叩きのめしたのだが、場所が悪い。
実はこの竹藪の裏からは陰陽寮の担当区になっており、少しの妖力でもすぐに気付かれ式神だか退治専門の輩やらが飛んでくるのだ。
なので、竹藪で一悶着起こした後、百鬼は小鬼二匹の着物の襟を掴み上げて大分離れた人気のない森まで来た。(そして冒頭に戻る。)
「陰陽寮に気付かれれば、主らのような力の弱い下級妖怪などすぐに消されるのだ。だと言うのに何故あんな所で人を襲っておる。のぼり者か主らは。死ぬのか主らは。」
ここ最近これほど素で喋った覚えはないというような喋りようでまくし立てると小鬼は益々小さくなり再び謝罪の言葉を漏らした。
「……まぁ、よい。だが、次からは気を付けるのだぞ。見かけても絶対助けんからな。」
「へい…」
「はい…」
完全に小鬼が縮み込んだ所で溜め息と共に百鬼は話すのを止めた。
「それで、何故主らはあのような所で人を襲っておったのだ。……今まで報告に無かったと言うことは始めたのはつい最近だろう。」
「だ、旦那っ、聞いて下さるのですか!」
「聞いて下さるか、旦那っ!」
ふさぎ込んでいた様子だった子鬼がバッと勢いよく顔を上げた。
……何かさっきから二匹共同じことを微妙に変えて喋っているだけな気がするのだが…
百鬼はまた少し気に障ったが、話が進まない為あえて何も言わずただ頷いた。
「ならお聞かせいたしやしょうっ」
「話して聞かせやしょう!」
「あれは夏の暑い夜っ」
「そう、夏の暑い夜!」
「あっしらの暮らす村でのことっ」
「そう、山深い村でのこと!」
「とある人の子やって来てっ」
「人の子とことこやってきt」
テンポよく口上を述べるように話していた途中、二匹目を百鬼が殴って止めた。
「聞いて欲しいなら、さっさと話さんか阿呆。早く話さんと俺は何も聞かずに立ち去るぞ。」
「うわわわ、待って下され旦那っ。話します!話させて下さい!」
「聞いて下され、聞いて下されっ!」
「一々反復せんでいい。最初の奴だけではきはき、さっさと話せ。」
小鬼を見下ろしそう言うと、小鬼は首がとれそうな程首を振り、そして一匹が話し始めた。
「おら達は此処から遠く離れた北の山奥の小さな村から来ただ。山神様と妖怪仲良く、人もまだおら達が見える奴が多くおって、おら達は山神様の加護の下、割と仲良くやってただ。それが、今から大体1ヶ月くらい前、山神様の祠から御神体が盗まれたべ。」
変ななまりを交えて懐かしそうに話していた小鬼が顔を伏せる。
「山神様がいねぇぐなって、山にゃ、浪人やら悪鬼やらが住み着くようになって困った村人が沢山お願いに来ただ。何でもします。どうにかして下せぇ、ってな。毎日雨が降っても何があっても来ただ。……だから、おら達は山神様の気配を追って此処まで探しに来たべ。」
恐らく長く大変な旅だったのだろう。小鬼の着物はよく見れば至る所がほつれ、裾もボロボロだった。
だが、百鬼はそれよりも気になったことがあった。
「気配を追って来たと言ったな。ならば何故、人を襲うのだ。何故すぐに御神体を取り返しに行かない?」
「気配が途中で途切れたのだ!」
黙っていたもう一匹の方の小鬼が両手を振り上げそう言った。
「途切れた?」
「恐らく、何処かに封じ込められて仕舞われただ。あの方は社持ちの妖怪だったから。…それで、一騒ぎ起こせばそれなりに力のある人の子がやって来るだろうと思って。」
恥ずかしそうに頭を掻く二匹の子鬼。
どうやら気配が消え、自力でどうにもならなくなった為、力のある人間に助けを求めようと思ったらしい。
人に信仰され神格化した妖怪が子鬼達の言う山神。
なんとけったいな。と百鬼は思ったが、それよりも田舎から都会へやってきて危うく滅されかねないことを仕出かした子鬼達の自分の力量も計れない軽率な行動に対する呆れを感じ、鼻で笑った。
「神格化した妖怪なら、自分でどうにかするだろう。主らが気にせんでも良いわ。」
「あの方は長く生きられ老いておられるのだ。」
「それに早くしねぇと、村の人間が信仰を止めてしまうやもしれねぇだ。」
……話を聞くに、どうやらこの小鬼達は『あの方』と呼んでいる山神を慕っているらしい。
必死に身振り手振りを加えて訴える子鬼達のその様子が、遥か昔暮らしていた大江山のとある鬼を彷彿とさせ、百鬼は心が落ち着かなくなるのを感じた。
そして、それがとめようが無いと気付くと大きく溜め息をついた。
「しゃぁないの。俺が探すのを手伝ってやろう。」
「本当か人の子!」
「真か、人の子!」
嬉しすぎて話し方が元に戻ってしまっている。
喜ぶ子鬼にちらりと一瞬百鬼は視線をやり、もう一度「あぁ」と返して立ち上がる。
子鬼達は手を取り合い万歳をすると、勢いよく立ち上がった。……が、足がしびれてすぐに転けた。
暫く立とうと悶える子鬼を眺めていた百鬼だったが、なかなか立てない様子を見かねて二匹を小脇に抱えて歩き出す。
「主ら、人里まで出て来れたということは人に化けられるな?」
「へい、化けられますぜ、旦那!」
「化けられますとも、旦那!」
そう言って、二匹の子鬼はそれぞれ幼い人の子に化けた。
同じ顔立ちの兄と妹、と言った感じに合わない江戸っ子口調だ。
如何にも嘘臭い。童子の姿だがあまりにもお粗末だ。これじゃ、すぐ変に思われてしまう。
「姿はそれで良いが、喋り方は直せ。」
違和感を消す為にすぱんっと言い、二匹……二人を抱えたまま百鬼はどんどん歩く。そして、林の出口のあたりまで来た時ふと足を止め二人を見下ろした。
「ところで主ら、名をなんと言う?」
キョトンとしている童子二人も百鬼を見返す。少しして意味を理解したのか、はっとすると兄に化けた方が答えた。
「霧だ。」
「霜だ。」
妹に化けた方も答える。
「霧に霜か、俺は百鬼だ。黒野百鬼。……ここを出たら出来る限り余計なお喋りはせんようにな。」
名を聞き、名を名乗ると百鬼は一度目を閉じて深呼吸すると林を出た。
あ、前回何も言わなかったんで今言っときます。お坊さんに、恨みは、あり、ま、せん。




