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酒呑童子奇譚  作者: みたらし団子
第四章 屯所問題
42/60

第参拾玖話 掃除

時間がないのでさっとアップ。

また書き直すとおもいますが、誤字脱字はごめんなさい。

第伍話あたりを書き直しました。




屯所の移転はやはり坊主共の反発を受けたが会津や長州の働きかけにより何とか上手くことを運び、只今絶賛掃除中だ。

「く、黒野くん。」

木板の階段を拭くふりをしながら軽く休憩(と言い張る)をとっていると、廊下を軽く駆けながら着物をたすき掛けた月浪がやってきた。

「どうかしましたか。」

「え、えっと…お疲れ様です。あの、幾松さんからこれを預かって来ました。」

最近の月浪はまだオロオロとした雰囲気を多少感じるが大分いろはに慣れたらしい様子を受け、時々俺にも話しかけて来るようになった。

今日の移転に伴う寺院の大掃除では幾松と共に炊事や洗濯、掃除の監督をしているらしい。

「掃除、どんな感じですか。」

「あ、えっと……北側はほぼ終わったんですが、南側が苦労しているみたいでした。」

草が多くて…と苦笑いする月浪はどうやら他の隊士とも多少上手くやっているらしい。

「わかっていると思いますが、あまり人気のない所へは行かないようにして下さい。」

そう言って視線を外すと再びぼぉっと階段から何とも無く景色を眺めだした。

「……あの…」

遠慮がちに月浪が話しかけて来た。

「……何。」

何時も通り答え、目だけで月浪を見た。

「……黒野くんは何でいろはにいるんですか?」

突然だった。

「あ、お気を悪くなさらないでくださいね!別に悪い意味で言った訳じゃなくて……えっと…その、気になったというか…。」

言葉がもじもじと段々尻しぼみになっていく。

言うべきか言わざるべきか悩んでいる感じだ。

「…正直、いろは四十七隊の評判は悪いです。浪人の集まりで隊則は厳しくてちょっとでも規則に触れればすぐに切腹だって聞いてましたし、ならず者の集まりだって。思っていました。」

目をそらせたまま月浪が冷や汗を流してそう言う。

「でも、実際はとても優しくしてくださって、親切で。」

何で、評判が悪いんでしょうか?と呟く月浪。

「……そのうち解る。」

「え?」

ぶっきらぼうに言ってやる。

人も妖怪も知らないものを恐れる。それは立派な防衛本能だ。

だがそれは同時に差別を生む。

来たばかりの月浪や相沢は何故、いろはが嫌われているか知らなくても良い。

どうせすぐに解るのだ。

「あ、いた。おい百鬼!またサボりやがって。て、月浪さんっ」

「あ、はいっ……えっ、サボってたんですか!?」

「……休憩です。」

乙夜がやってきて一通り終わったら片付けをするようにと伝えられ、俺達は箒を持って移動する事にした。

歩きながら他愛もない話をする。

さっき高杉と坂本が桂に怒られていた。だとか、田中が私物の整理をしていたら他の隊士に春画を持って行かれただとか本当にどうでもいいごく日常の話。

そんな中、箒を担ぐ俺に乙夜はふと気づいたように首をひねった。

「あれ、百鬼お前、旗どうしたよ。」

今日、俺は普段持ち歩いているいろはの隊旗を持っていない。

「修理中」

「は?」

「この間。」

「……あぁ、そういや短くなってたな。だから、手持ち無沙汰で箒、担いでんのか。」

成る程、と頷く乙夜。

と、俺達の会話を聞くだけだった月浪が首を傾げた。

「この間?」

「あ、月浪さんは知らないんだっけ。」

月浪が声を上げたことで、俺を押しのけ乙夜がバッと食いつき、話し始める。

何か、嬉しそうなんだが。

仕方なく少し後ろに下がってやる。

「こいつ、この間化け猫の悪鬼に猫パンチ食らって商屋の壁に大穴あけたんすよ。」

「えっ、だ、大丈夫だったんですか?」

「……大丈夫じゃなきゃ、ここにいない。」

「だな。」

そう言って乙夜がニッと笑うと、月浪もほっとしたのかつめていた息を吐く。

だが、何かに気付いたのかすぐ、顔色を曇らせた。

「……この間って、もしかしてあの酒呑童子の事件ですか?」

その一言で、空気が一気に張り詰めた。

誰も答えないことが肯定となり、月浪は意を決して口を開いた。

「……酒呑童子が13年前にしたことは寺子屋でも陰陽寮でもよく聞かされました。でも、何でそれが今になってこの江戸に……」

俺は半歩下がって黙ったまま、ちらりと乙夜を見た。

凍えそうな冷たい表情。しかし、目には強い決意の色が映っていた。

それは酒呑童子という一匹の鬼に対する圧倒的な憎悪からか、それとも単に親兄弟達の為の敵討ちか。

わかりはしないが、ただ背中を冷たい何かが駆け上がり、俺は目を細めた。

「酒呑童子があらわれたなら、悪鬼が増えたことにも納得がいくね。」

「え……?」

底冷えする声音で独り言を呟くように乙夜が言う。

「だって、そうだろ。酒呑童子は魑魅魍魎の大将で史上最強最悪の鬼だ。悪鬼や妖怪達を操って、人の世を火の海にすることなんて簡単なはずだ。」

後ろから見ると手を爪が食い込む程強く握り、歯を食いしばっているのが解る。

「そんなこと、二度とさせるか。」

声がその場に響き渡る。

乙夜は、故郷を焼き親兄弟も村人達も奪った酒呑童子を恨んでいる。そんな非道の鬼がまたあらわれ、日常を奪おうとしている。

そんな酒呑童子本人は実は横にいて、見に覚えのない罪を着せられ恨まれている。

何とも、皮肉なことだ。

「……。」

思わず足を止めてしまう。一番後ろを歩いていた為、2人とも気付かずどんどん離れて行くが、その距離が人と妖怪の間にある大きな崖のようで思わず苦笑いした。

俺がいないことに気が付いたらしい乙夜が俺を呼ぶ頃には、もう既に何時もの乙夜に戻っており、先程の寒い何かはもう無くなっていた。

「おい、何立ち止まってんだよ。早く片付けをねぇと終わらねぇだろうが」

普段通り接してくる乙夜と相変わらずな月浪。

俺もまぁ、この手の茶番も嫌いではない。と、心中で小さく笑い、駆け足で二人を追いかけた。




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