第弐話 面倒
書きやすいのでこの話は短編で漫画も描いているのですがまったく口調が違いますね。
どういうこっちゃ。
「百鬼、お前も懲りないよな・・・」
軍議に遅刻したということで、土方から直々に正座を申し渡された俺は足を崩して座る隊士たちの中で物好きな斉藤と共に軍議の間中ずっと正座をしていた。
終わった後、案の定俺はしばらく立ち上がれず。どうにか立とうと四苦八苦しているところに呆れた表情で一番組の隊士である藤崎乙夜がやってきた。
乙夜は一応俺と同い年で今年、17。入隊は『新撰組』から『いろは』になってすぐくらいで、確か長州藩の出だったと思う。
「いい加減軍議くらいちゃんと出ろよ。今週、遅刻何回目?」
「・・・五回。」
「はっ、あと二回で今週も皆勤賞じゃん。」
「先週も、先々週もだっけ?」と笑いながら茶化してくる乙夜にチラリと目をやり、隊旗を支えに何とか立ち上がるが、足の感覚がまだ殆ど無い。
「もうそろそろ、義弟といえど土方さん百鬼のこと斬るかもよ?士道不覚悟で。この前も局中法度破って脱走した奴、見せしめにうちの組長が土方さんの命のもと、斬り捨てたらしいし。次は百鬼って噂だよ?」
「・・・誰の噂だよ。」
局中法度違反は切腹なので、いきなり斬り捨てられることはないだろうが、流石にそんな噂で斬られてはたまらない。
「・・・夜の巡回はちゃんとしてる。」
「昼はしないでどっかで寝てるけどね、今日は何処で寝るつもりだ?」
「八条の熊野神社の境内?」
適当に答えて、歩き出した。
「隊旗、無くすなよー!」
後ろから聞こえてきた乙夜の声に片手をあげて返事をすると、隊旗をしっかりと握り締めて屯所の出入り口へ向かう。
日がだいぶ上って来たからか日の光がぽかぽかと温かい。
絶好の昼寝日和だ。
所は熊野神社境内。
なんてところでは無くて、伏見稲荷の千本鳥居のもっと奥にある楠の上。地面に近くもなく遠くもないある程度の高さの場所に、俺は惰眠を貪るために来ていた。
寝心地の良い太い枝の上まで行くと、京の街が一望できた。
景色にあまり興味はないが、遠くに見える山々とその麓の街の違いに思わずふきそうになり、微笑を浮かべる。
「なんじゃ?こんな所でお早い昼寝か、お館様や?」
くすくすと笑う声が頭上から降ってきて一気に気分が萎える。この声は俺の聞き間違いでなければあの愉快犯だろうと顔を上げれば、案の定そこには金色の毛並を持つ狐が一匹こちらを見下ろす形で丸まっていた。
「何の用だ、妖狐。」
「んな物騒な目つきで見つめんといて下さいな、酒呑童子どの。」
「言葉づかいを統一しろ、うっとうしい。」
「相変わらず口を開けば口のお悪いことで、お元気そうで何よりですわ百鬼殿」
世間話をしに来たらしい、おかしな狐をどうにか無視したくなってきたので、その後も「最近はいかがでざんしょ?」やら「何やけったいなことになってまへんの?」やら言葉に統一性のないふざけた喋り口調をわざと披露する狐に返事を返さない。
「・・・悪かったよ、きちんとこうやって喋ってやっから無視しないでくれ、俺様、悲しくなってきた。」
微睡みはじめたくらいでやっと口調を戻した狐に、眠い中ゆるりと視線を向けてやる。
「・・・最近は相も変わらず。ただ少し魔道に落ちる妖怪が増えてる気がする。」
「んー、うちの頭の系列じゃねぇ奴らだな。流れモノだろ。」
気になっていたことを言うと、妖狐から流れだと聞かされ、眠さと興味の無さが伴って、そっけなく「あっそ。」と返す。瞼がもう既に重くて仕方ない。
「・・・帰らねえのか、大江山に。あそこも我らが里と同じく次元の狭間に存在する土地だろう?・・・帰りたければ何時でも帰れるぞ。」
「まだ、妖力が戻ってねぇ・・・あと、面倒臭い。」
意識がどんどん白い闇に呑まれていき、狐の言葉がふわふわと浮いて聞こえる。本格的に眠くなってきてしまったなと落ちていく中で思う。
「・・・はどうす・・・お・・・鬼殿?・・・お・・・」
何言ってんのかわかんねェよと微睡む中無意識に旗を抱え直して思う。
フェイドアウトしていく視界を何も考えず見つめている時、俺は懐かしい残り雪の匂いを嗅いだ気がした。




