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酒呑童子奇譚  作者: みたらし団子
第四章 屯所問題
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第参拾参話 月下

意味不明ですね、相変わらず。

長らく更新していませんでしたが、まぁ、気にしない。




夜、普段は幹部のみの会議に隊士が全員集められた。

場所は朝礼と同じ大部屋。隊士は皆一様に色めき立っている。

理由は一つ、陰陽寮との合流もとい新隊士の入隊である。

ざわざわと騒がしい室内には様々な憶測が飛び交うが、百鬼はそんな騒がしい野郎共の事など意にも介さず顔に『眠い、寝たい、寝させろ』の三語を並べ立てうつらうつらとしていた。暫くすると、局長である近藤が見知らぬ者を連れてきて、歓声が上がる。

「皆、話は聞いているだろうが、陰陽寮との合流で二人新しくうちに入ることになった。」

がたいの良い近藤の横に立っているのは近藤と変わらない身長の青年と、穴をあけたかのような身長差のあるまだ16、17くらいの少女。

隊士は皆一様に息をのんだ。それもそのはず。いろはは浪士組時代からずっと女人禁制、男の沼だったのだ。

言わば少女は紅一点。

少女をガン見で怯えさせている隊士を眺めて土方は陰陽寮の人事に『何考えてんだ』と苦言と溜め息を漏らした。

「相沢恭次郎、22歳。特技はお爺ちゃん、お婆ちゃんと仲良くなること、一番幸せなことは食べることでーす。」

手をひらひらと振りながらふざけた調子で相沢が挨拶をすると、何人かが値踏みをするような目を向け、小さな歓声が上がる。

「つ、月浪、蛍、17歳です。特技は式神を扱うことで、好きなことは散歩です。よ、宜しくお願いしますっ」

怯えつつも挨拶する月浪に一気にその場の興奮は高まり、先程とは規模の違う歓声が上がる。

月浪は唇を噛み締め、悲鳴を上げることを我慢しながら内心『怖くない、怖くない』と自分に言い聞かせていた。

横でそんな月浪の様子を相沢は苦笑いしながら見ている。

「相沢くんと月浪くんは同郷の幼馴染だそうで、小さな頃から陰陽寮で腕を磨いてきたそうだ。今夜はもう遅いから、何かわからないことがあれば明日の朝聞くように。」

近藤が解散をかけると説明があるからと二人を連れて局長、副長が連れ立って出て行く。

最後、土方が出ようとした時、ふと何かを思い出したかのように土方は振り返った。

「テメェら、わかってんだろうな。」

鬼の形相。不機嫌げに寄せられた眉間の皺は何時もの2割り増しで眼光はそれだけで人が殺せそうな程鋭い。

青ざめて顔を逸らす者、逆に恐怖のあまり目が逸らせなくなり固まる者と反応は多種多様だったが、この睨み一つで隊士は一様に、月浪蛍に手が出せなくなった。














私は寝床に潜り込んでも眠れずにいました。

昼頃に一度寝てしまったこともありますが、一番の理由は明日から始まる新しい生活が気になったからです。

殿方の中で働きながら定期的に陰陽寮へ連絡をする生活。考えただけでも気が重くなります。

部屋の中の闇が一層不安を煽り、耐えきれず起き出し夜風の心地良い縁側に出ました。

大分暖かくなった気候で、鈴虫が鳴き始めた庭はとても趣があり、欠け始めの月は暖かな光を地上に降らしています。

その光景は夢の中なのではないかと疑う程美しく、私の荒波のような心中を静かに落ち着かせてくれました。

部屋から予備の草履を持ち出し庭に降り立つと足元をそよ風が吹き抜け、私は少し散歩することにしました。

ご迷惑にならないよう出来るだけ静かに息を殺して屯所内を散策すると、月明かりに小さな池や眠っている草木が趣深くあることがわかり、段々と楽しくなり、もう少し歩こう。もう少し。とそれなりに広い屯所の奥へ奥へと歩いていってしまっていました。

ふと、人の気配を感じて顔を上げると、建物の影に誰かがいます。

月明かりを避けるように座っているその人はそこだけうっすらと色を残してかろうじてわかる程度。

普段の私なら、こんな怪しい方に声など掛けませんが、余程風景が美しく、誰かと共有したかったのでしょう。

ごく自然に私は声をかけていました。

「こんばんは。」

「……。」

ピタリと彼は動きを止め、こちらをゆっくりと見ます。

薄い和紙を通しているように相変わらず顔は見えませんが、どうやらお酒を飲まれていたようでした。

「お邪魔ですか?」

「…別に。」

本当にどうしてなのか分かりませんが、普段、恭次郎くん以外は怖くて仕方のない筈の殿方の。それも見ず知らずの人の声が全く怖くなく、それどころか彼の低い声は先程まで魅入っていた風景のように心を穏やかにしてくれました。

不思議に思いつつ、屋敷の裏側、月の光の差し込まない暗闇に紛れている彼をもっとよく見ようと見つめていると、彼がクスクスと笑い始めました。

「どうかなさいましたか?」

今までほぼ反応のなかった彼の突然の反応に少し驚いて首を傾げます。

「いいや。昼間、高杉達に話しかけられてぶっ倒れた割には大分大胆なことをする娘なのだな、と思っただけだ。」

笑いながら返された答えに私は一気に赤面しました。

「あ、ああ、あれは!突然話しかけていただいて、こ、心の準備が…その、ですねっ…。」

あたふたと慌てる私に彼はまた笑いを深めました。

「主、面白いな。」

笑いが収まらないのか、少し引きつった声で彼は私にそう言います。

「主、男が苦手なのか?」

「…はい、お恥ずかしながら。」

「別に構わん。が、それなら何故いろはに来た。」

「ははは、その…あみだ」

「ん?」

「あ、あみだくじです。」

「…は?」

顔を伏せたまま正直に答えると、素っ頓狂な声が彼から聞こえてきていたたまれなくなり、事の経緯を一から説明した。

すると、今度は大爆笑された。

「わ、笑わないで下さい!私には死活問題なんですっ」

もう私は涙目です。

「悪い悪い。と、いうことは主は陰陽寮一のくじ運の持ち主というわけだな。」

私からすれば人生一のくじ運の無さです。

そう思って俯くと、少しの沈黙の後、頭に温かい感触がのりました。

驚いて顔を上げると、影の中から腕が伸びて私の頭を優しい手つきでわしわしと撫でていました。

「皆、時に喧嘩も人斬りもするが、信念をしっかり持った根は良い者が大半だ。主が何を恐れ、危ぶんでおるかは知らんが、おそらく『いろは(ここ)』は主にとって良い影響を与え、何かを変えるだろう。他者との出会いとはそういうものだ。」

そう言うと、彼は手を影の中にまた引き戻しました。

影の中に仕舞われた手を暫く眺めながら、彼に言われた言葉を口の中で繰り返し呟くと、何故だか明日が楽しみになってきて、私は勢いよく立ち上がりました。

「夜分遅く、突然お声掛けしてしまい失礼しました。何だか、気が楽になったようです。ありがとうございました。」

影に向かって一礼すると、私は元来た庭を引き返した。





あ、そういえば、お名前を聞き忘れました…。








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