第参拾弍話 白昼夢
山のない話が続きますね。
今回は夢の話です。
「百鬼、この子預かっといてやってくれ。」
すっかり安静期間の明けた俺は、机仕事に勤しむ土方の目をかいくぐり、昼の巡回をサボって自室前の縁側で日向ぼっこをしていた。
そんな俺の下へやってきたのは高杉と見知らぬ女子を抱えたこれまた見知らぬ男。
とりあえず背後の空き部屋の障子を開き招き入れつつ、顎に軽く手を当て、そして思い出した。あれだ。今日は陰陽寮との合流の日だ。気にしなさ過ぎて忘れていた。
俺は陰陽寮の奴とはこいつらかと気絶している女子とそれを抱える男をじっと見た。
「すまんな、百鬼。お前も忙しいだろうに。」
「……いえ、大丈夫です。」
ただサボっていただけだしな。という言葉は呑み込み、視線を話しかけてきた桂へとやった。
「私達は今から土方くんと近藤さんの所へ相沢くんを連れて行かないといけなくてね。……竹田くんと一緒にこの子の様子を暫く見てやって欲しいんだが…」
「…わかりました。」
寝ててもいいのなら、と、俺は桂に返し、見ず知らずの少女(名前がわからないからそう呼ぶ)を預かった。
夕日の浮かぶ神社の鳥居の向こう。童子達が笑いながらはしゃいでいるのを、俺は宮の縁側に座って見ていた。
此処は何処だろうか。
昔よく訪れた。多摩の神社とは風景が少し違う気がする。
童子達は年長らしき少女の手を取り、夕日に染まる世界の中遊んでいる。
少女が童子の手を取り振り向いた時、目が合った。少女は一瞬ぽかんとした後、ころりと表情を変えると微笑みながら此方に駆けてきた。
赤々とした日の逆光で顔はよくは見えないが、酷く懐かしく、そして寂しい気分になり、俺は胸元の着物を強く握り締める。
駆けて来た少女はそんな俺の手を取る。
「これは夢なんだよ。」
夢?
「そう、夢。君の知らない夢。」
どう言う意味だろうか。
わからない。
「心配しないで、君はまだ知らなくていいの。」
ふわりと再び笑う気配がする。
至近距離の筈なのに顔が見えない。
「ほら、呼んでるよ。」
少女が言うと、確かに誰かが俺を呼んでいる声がした。
「また会おうね。」
そう言って、少女は俺の手を放した。
それが何故か悲しくて、俺は手を伸ばそうとした。が……
「百鬼、仕事中サボって居眠りたァ良いご身分だなァ、おい。」
俺は激しい音を立てて落ちた。
突然背後のからやってきた誰かによって縁側から蹴り落とされたらしい。
「……。」
呆然とする。
目の前にあるのは見覚えのある屋敷の裏と塀の風景。
屯所だ。
「まだ寝ぼけてんのか、百鬼。」
呆れた声の主を見上げれば、土方が何やらごちゃごちゃと色々持って立っている。
まだ回らない頭を掻いて現状確認をし、整理する。
あぁ、土方に見つかったのか。
「土方…さん。こんな所で何をしているんですか?」
「ぼけてんじゃねェよ。仕事に決まってんだろうが。」
土方の手には幾つかの紐綴じの本と巻物、紙が抱えられている。どうやら俺の寝ていた辺りにある文書室に必要な物を取りに来て戻ろうとした所、俺を見つけたようだ。
「……今度から場所を変えます。」
「仕事しろ。」
巻物が芯を立てたまま、勢いよく脳天に降ってくる。
巻物の芯は普通に痛い。
「ひっ…」
…ん?
か細く高い声が背後からして、痛む頭を抑えた俺と殴った体制の土方は振り向いた。
そこにいたのは罰の悪そうな表情をした少女。
「あ…えっと……」
何故か顔がひきつり、涙目だ。
「……土方さんがそんな怖そうな顔するからですよ。」
「絶対、違ェだろ。」
その前に、この少女は一体誰なのだろう。




