第参拾壱話 月浪蛍
こっそり色々改変してます。
今日の私は厄日だと思う。
溜め息をつきながら青く晴れた空を見つめた。
私、月浪蛍は殿方が苦手です。
幼馴染みの彼以外に声を掛けられれば固まってしまい意味の無い言葉ばかりが口をついて出て来てしまい会話にならず。目があっただけで逃げ出してしまう。
そんなごくふつうの陰陽寮勤めの女子です。
そんな私が今日が厄日だと思い詰める理由。それは、約ひと月前のある私の人生史上最大最悪の転換日。
今でも夢に見てしまいます。
紙に書かれた網状の棒と記入用紙に適当に書いた『蛍』の文字。上層部の方々が選抜した人数40名の中で、当たるのは1人。
あぁ…あの日ほど、私の名前が憎らしく思えたことはきっとこの先ないでしょう。
名前を呼ばれた後、私はその場に座り込んでしまいました。
何で私が殿方しかいないというあの『いろは』に陰陽寮特派員として行かなければならないの…全部あのあみだくじとそれを考えた楽観主義の上層部の方々のせいだわ。
…いえ、人のせいにするのはよくないよね。恨むなら私の運の無さを恨むべきなのよ。
憂鬱な気分で行きたく無いところへ隣を歩く彼とゆっくりと歩を進める。
「大丈夫かいな、蛍。気分悪いんか?」
彼は彼で理由を知っているだろうに、からかうようにそう言ってくる。昔からこんな人だとは知っていたから気にはならないが、口をついて出る溜め息は変わらない。
「んな、不安そうな顔せんくてもええやん。確かに噂では、田舎上がりのごろつき集団やとか、血も涙もあらへん人斬り集団やとか言われとるけど、実際良い人等かも知れへんよ?」
田舎上がりのごろつき集団……
血も涙も無い人斬り集団……
そして、殿方だらけの職場。
「……私、」
「ん?」
「……やっぱり、帰りますっ」
「うえっ?!」
私には無理ですっ、そんな救いの無い職場は!そう叫びながらもと来た道を戻ろうとするが、彼……相沢恭次郎様に腕を掴まれ逃げるに逃げられない。
「恭次郎様、放して下さいっ、放してっ!」
「落ち着きぃな!!あ、いえ、大丈夫です。ホンマ、ただの兄弟喧嘩みたいなもんですって!あははは……お、お願いやから、蛍ちゃん、一旦落ち着いて!」
恭次郎様の声にはっと我に返り周りを見回すと、通りを歩く市中の方々の視線を一身に受けていた。
恥ずかしいっ!
私は謝罪の意を込めて周りの方々に頭を下げると、恭次郎様の腕を取り、走り出した。
「ほ、蛍…ちゃん。いきなり走り出さんとってぇな。」
二人揃って全力疾走してしまい、何処かの屋敷の門前まで来てやっと止まると、荒い息を吐いた。
「ご、ごめんなさい……」
心臓がどくどくと激しく脈打ち、体の温度が幾分か下がる感覚がする。
先程の自身の痴態を思い出すと今すぐ何処かの穴に入りたい。
「全く……でも、不安煽るようなこと言ってもうたわいも悪いんやし。ごめんな。」
「恭次郎様……」
「あはは、陰陽寮で仕事しとるわけや無いんやし、恭ちゃんでええんよ?」私は少し躊躇った後、小さくコクりと頷いた。
恭ちゃん。私達がまだ小さかった頃の恭次郎様の呼び名だ。
この名は、小さい頃に戻れたようでとても好きだ。呼べば、ふわふわとして暖かいものに包まれたような気分になれて、心地いい。
私たちは子どものように笑い合う。
このひと月憂鬱で、直前でも逃げたくなる程嫌な任務だけれど、よくよく考えると、恭ちゃんとの任務はこれが初めてだ。
……恭ちゃんが一緒なら、何でも出来る気がしてきたっ。
「おぅおぅ、お熱いねぇ、お二人さん。えぇ?」
「まさに鴛鴦夫婦ですね。」
「桂さん『おしどりふうふ』って、何ですか?鴛鴦だから……あっ、仲のいい『めおと』ってことか!」
突然聞こえた殿方の声に私はその場に固まった。
「ん?お宅等一体……あぁ、『いろは四十七隊、屯所。』何や、着いたんか。どうもこんにちはぁ」
あまりに驚いて固まり、動けなくなってしまった私を置いて、恭ちゃんがにこやかに誰かと挨拶を交わしている。ふ、振り向けない……どうしよう…
混乱で景色がぐるぐると回り、視界がぼやけ、心臓が早鐘を打ちながら次第に周りの声が遠く離れて行く。
「陰陽寮から派遣で来ました、相沢恭次郎言います。こっちは、月島蛍言うて……て、蛍?大丈夫か?ほーたーるーっ!」
恭次郎様が名前を呼ぶ声を最後に私の意識は静かに闇に呑まれていきました。




