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酒呑童子奇譚  作者: みたらし団子
第三章 悪鬼
33/60

第参拾話 近藤邸にて=回想録5=

今まで気まぐれに回想編を書いていたのですが、今後、回想録をどんな風にいれるか迷っています。

何か案があったりリクエストがありましたらお気軽にお申し付け下さい。






「何しておるのだ、近藤。」

土方と近藤邸に泊まった。土方が風呂に入っており暇なので、庭を散歩していた俺は明かりの点いている近藤の部屋を覗いた。

「ん?あぁ、百鬼か。」

紐やら紙やら筆やらの散乱した机に向かっていた近藤が、此方を向き、俺を確認すると手に持っていた本を下ろし、人の良い笑みを浮かべて笑った。

「って、髪まだ濡れてるじゃないか。拭いてやるから、こっちに来なさい。」

「……。」

土方より先に風呂に入った俺は確かに髪がしっとりと濡れている。童の姿なので、昔より長くは無いが面倒臭い為、適当に拭き、後は初夏の少し暖かい夜風で乾かそうと思っていたのだ。質問の答えではなくお節介が返ってきたことに少しむすっとしつつ、だが断る理由も無いので大人しく草履を脱いで部屋に上がる。

近藤の側まで寄ると、俺の首に巻いてあった手拭いを取り、近藤が少々荒っぽく髪を拭きはじめた。

わしゃわしゃとかき混ぜられる長い黒髪が目元に落ちてきて鬱陶しい為、時々激しく首を振ると、近藤が笑う。

「犬かお前は」

比喩された言葉にすっと不満げな視線を投げれば、また近藤が笑った。

と、視線の端に近藤が先程まで読んでいたらしい紐閉じの本が入った。

「五行式?」

見える範囲で本を読んで みると、どうやら陰陽道の術式書らしい。

「それは知り合いの先生からお借りしている陰陽道の指南書だ。」

「習得でもするのか?」

「駄目か。」

首を静かに横に振る。

学を得ることはいいことだ。特に最近は悪鬼が人里にも出るという。習得すれば弱くても悪鬼などから身を守る護身術程度にはなる。

「俺は別に何とも思わん。が、妖怪の中には陰陽術を毛嫌いしている者も多い。」

「そうなのか?」

何でもないように言えば、近藤が驚いたような声が聞こえ、俺は顔ごと視線を上にあげた。

「陰陽術も多種多様にある。妖怪を封じる物、滅する物、縛る物。誰かを呪う物。中には法則すらねじ曲げることが出来るがそれ相応の対価を払わねばならない所謂、禁術と呼ばれるものも存在する。」

淡々と話をすると、近藤が興味深そうに頷き返してくる。

「正直、前者三つは力不足な妖怪が悪い。力のある妖怪なら跳ね返せるからな。しかし、俗に呪術と呼ばれるものは違う。呪術はあまりに理不尽で、昔からよく使われている、生者、善良な妖怪、生き物などを媒体にし、使役する呪術は大部分の妖怪からとても嫌われている。」

「生者や妖怪、生き物を使った呪術……」

「蟲毒や憑き神といった術だ。失敗すれば術は己に返ってくるし、主が将来妖怪と仲良くやり、五体満足で生きたいと願うなら知識はあれども用いらぬ方が良い。」

じっと目を見上げて言い切ると、近藤が唾を飲み込むのがわかった。

「まぁ、呪術など所詮『人を呪わば穴二つ』だからな。何を調べて学んでおるかは知らんが、極力危険なものや嫌な気配のするものには手は出さんようにな。」

固まったままの近藤から視線を外し、机に乗った書き写しや本に目を通す。

特筆されている文と開かれている部分を見ると、どうやら今は妖を封じる術を学んでいるようだった。

……あ?

「近藤よ。ここの術式、間違えてとる。此処は影ではなく陰だ。」

「わ、わかるのか?」

術式の試し書きに間違いを見つけ指摘すると、近藤は固まった状態からすぐさま立ち直り、俺越しに机を覗き込んできた。

「昔の友人に狐でありながら陰陽師だった奴がいてな。そいつが俺に陰陽術を教えて本まで献上してきたことがあったのだ。」

あ、また見つけた。

というか、本に乗っている術式自体違う。たった数百年で形が大分変わっており、これではもう使えないというものが多数あるようだ。

おそらく伝わる間に術式を他家に奪われないよう偽物を作ったらそれが広まり自己解釈が入り乱れて変っていったのだろう。

「近藤。これは全て借り物か?」

「あ、あぁ…そうだが…」

顎に手を当て、考える。

何故、突然近藤が陰陽術の勉強を始めたのかは知らないが、近藤には土方達同様に今までの恩がある。

少し手伝うか。

「近藤。主が陰陽術を学ぶなら、俺が手伝う。時々、読みつつ訂正を入れていってやるから、全て写せ。」

「いいのか?」

「俺も最近暇なのだ。張り合いがいのある妖怪も人もおらんし、楽しいこともなかなか起こらんからな。」

単なる暇つぶしだと遠慮がちな近藤に告げ、取り敢えず今までの分を訂正していくことにした。

土方とその姉様に教えてもらい大分思い出した字を近藤の字を見ながら書き込んでいき、大幅に違うところは墨で塗りつぶす。

その横で近藤が文と術式を写していく。

時々、術式を指摘して説明し、議論しながら二人で黙々と進める。

こんな作業を、俺と近藤は土方が俺を探しに来るまで続けた。










部屋にやってきた竹田の耳に付けられた藍色の紐と雫型の水晶の飾りを見ながら俺はそんなことを思い出していた。

首に巻き付いた赤い紐を意識し、そんな時代が近藤にもあったな……としみじみと思う。

土方について回りつつ近藤邸に行く用事があったり土方が遠出をする際に預けられ、添削をしていた。

おかげで俺の字は上達し、近藤も少しずつ術を使えるようになって行った。

首に巻かれた朱紐は俺達が浪士組として京に上がる前に妖気を隠す為にと近藤が作ったものだ。

受け取った時、なかなか良く出来ていると関心したのを覚えている。

「百鬼さん。俺、何処の隊に配属されるんでしょうか。い、一応、一番隊が良いって桂さんには伝えたんですが……」

「……一番隊以外。」

「えぇ!?」

緊張した面もちの竹田を弄りながら揺れる飾りを目で追った。

そうしていると、何故だか一週間後の陰陽寮との合流に確証もない安心感が出てきた。









陰陽寮のキャラを登場人物に追加しないとなぁ・・・

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