第弍拾陸話 紅髪の鬼
ちょっとわかりにくいかもしれないです。
何で、あいつが…
月明かりに照らし出されたその姿を見た瞬間。俺の体は固まり、動かなくなった。
あいつだ、あの鬼だ。
紅い髪に二本の角。人をあざ笑うかのような不適な笑み。
親に投げ込まれた穴の中で見たあの惨状が脳裏にうかぶ。
「おい、藤崎。」
暫く呆然としていたが、突然、がっと腕を掴み引き寄せられて我に返った。
高杉さん。
見ると、原田さんが竹田を抱え上げ門の陰に移動している。
そのまま高杉と門の陰に移動し、様子を伺う。
「ちっ、本当どうなってやがる。妖が立て続けに3体も出るなんてよぉ」
ちらちらと百鬼の飛ばされた方向を気にしている竹田を原田さんが羽交い締めにして抑えつけ、そう呟いた。
だが、俺はそれどころではないんだ。鬼を睨み付け、やっとだ。やっと見つけた。と何度も瞬き心中で確認する。
いろはに入隊して2年以上。尻尾すら一度も見せなかったあの野郎が目の前にいるのだ。刀に添えた手に力が入るのはしょうがないことだろう。
今日、俺は13年間探し続けた故郷の仇とやっと再会した。
化け猫がふらりと立ち上がったのを見て、俺はこの状況に歓喜していた。
久しぶりに戻った鬼の姿はとても体が軽く、今すぐにでも駆け出したいくらいだったし、目の前の化け猫は相手に不足無い。
しかも、今夜は満月で夜風がとても心地好いい。最高だ、が、気分を強制的に害する要因が、一つ。化け猫からする、腐った物を混ぜたような匂いだ。
不愉快だ。と、思う。
「(これは狐の言っとった可能性。どうやら否定出来そうにないな。)」
飛びかかって来た化け猫を軽くかわし、槍を回しながらじゃれるように飛び回る。
ちなみにこの槍は先程、蜘蛛の毒糸で短くなった隊旗を妖力で変化させた物だ。
化け猫とじゃれながらちらりと高杉や原田を見ると、固まっている竹田と乙夜を門の影に引き込んでいた。
目のあった高杉に良い判断だとにぃと笑えば、驚いた顔をする。
…あぁ、今の俺は鬼だった。
心で舌を出しながら蹴りつけてきた猫の前足の爪を少し短い槍の柄で受け止める。
槍は短く持っていたが、勢いを殺しきれずミシリと軋む音がする。
「なかなか面白いな、主は。」
臭いには顔をしかめるが、気分は高揚して思わず笑いが漏れた。
下を見ると、高杉共は門の影で竹田を抑えつつ此方を伺っており、少し行った通りの先にはちらちらと提灯の明かりが見えていた。
交代に帰らんから、何かあったと踏んだか。
あまり多くに姿を見られるのは得策ではないかとため息を付き、俺はもうこのじゃれあいを終わらせることにした。
「すまんな。主に恨みは無いのだが、もう終いだ。」
ふっと笑い、槍を化け猫目掛け一閃に凪ぐ。
途端上がる烈火の炎は、天まで届きそうな火柱を上げながら化け猫を包み込み、その巨体を焼く。
不気味な唸り声を上げながら燃える化け猫はそれでもなお攻撃してくるが、俺はそれを槍を一振りして弾き飛ばし、再び土塀に降り立った。それが最期。
後に残ったのはやせ細り息絶えた三毛猫の死骸で、俺はそれを見送ると早々にその場を後にしようと地面を強く蹴った。
背後から乙夜が怒声を張り上げているのが聞こえるが、俺はそんな奴に一瞬だけ不適な笑みを向け、その場を辞した。
恨みと思惑、悲しみと願いが交差するが、朝は容赦なくやってくる。
増援に駆けつけた六番隊、一番隊、は組の協力により商家と通りの件は迅速に処理され、怪我人もすぐに屯所へと運ばれた。
そして、いろは四十七隊幹部に伝えられた赤い髪の鬼の出現は、乙夜と高杉、原田の証言と調査という名目で合流前に途中介入してきた陰陽寮の見聞により、「酒呑童子」であると後日、正式に公表された。




