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酒呑童子奇譚  作者: みたらし団子
第三章 悪鬼
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第弍拾肆話 怪奇遭遇

設定がぐーるぐーる


何話か手直ししました。






こんばんは。

今日は男の子が一緒に行くの?

そう、守らなきゃいけないのね。

うん。わかってる。君は昔からそうだから、私は何も言わない。

でも、私の願いは知っているでしょう?


私の願いは……






「よっとっ」

原田が振った槍が鋭く毒糸を吐く蜘蛛の胸元を凪ぎはらう。

傷を受けた蜘蛛は奇声を発し、飛び退いた。

「おーい、竹田ーそっち行ったぞー」

塀にもたれて呑気にしていた高杉が蜘蛛の動きを追いながら言う。

見れば、蜘蛛は飛びながら竹田へ糸を吐いた。

「うわっ」

「…。」

すかさず竹田の前に立ち、旗の柄で糸を叩き落とすが、糸に触れた旗の柄が少し溶けた。幸い旗布の部分は無事だったが、短くなった柄では殴打することは出来ない。俺は心の中で舌を打ち、再び飛んできた糸を竹田を抱えて背後にかわし戦線を離れた。

「ありがとうございます。」

脇に抱えた竹田が礼を言うのをちらりと見ると、蜘蛛の様子を見つつ竹田を高杉の近くで下ろした。

「見た目に見合わずよく動くな、あの蜘蛛。」

横に並べば高杉が蜘蛛から目を離さず言ってくる。蜘蛛は10尺程の大きさがあるにも関わらずよく動き、間合いの長い原田の槍を素早くかわしていた。

「外殻が硬い。」

「坂本がいりゃぁ短筒があったんだがな。仕方ねぇ、原田と乙夜に任せようぜ。柄の短くなった棒じゃ歯がたたねぇだろ?」

高杉は傍観体制を解く気はないらしく、視線を追えば原田と乙夜が蜘蛛を挟み打ちにしている。

「……。」

お前は行かないのか、という視線を向ければ、高杉は肩をすくめた。

「刀は研ぎに出して持ってねぇし、臨時の武器は縄、切られて使い物になんねぇよ。」

そう言って両端に分銅と苦内が付き、縄の切れた飛び道具を見せてくる。

溜め息しか出ない。

と、原田達の方は決着がついたようで蜘蛛が仰向けで身体を丸めている。

「うわー、本当に図体でかくなっただけだな。」

関心した様子の高杉と黙りつつも「おー」と言っている竹田。

「ちょっと、高杉さんっ。百鬼と竹田くんも見てないで手伝えよ!」

ぜいぜいと荒い息をしながら乙夜が怒っている。

まぁ、そうなるわな。

手を振っている高杉に溜め息をついて俺は乙夜のいるところへ歩き出した。

その時だった、ズンと何か重い物が体にのしかかるような気配がしたのは。

みしみしと骨の関節が軋み、俺はその場に固まる。同時に付いてこようとした竹田に片手で来るなと制すと、後ろで困惑したような声が聞こえた。だが、それどころではない。冷や汗が流れ、気持ち悪い。

何だこれは。

「百鬼どうかしたのか?」

突然汗を流しながら固まり、顔色を悪くした俺に乙夜が蜘蛛の近くに座り込んだまま訝しげに見てくる。

「…何か、いる。」

「え?」

わからない。ただ、気配はするのだ、と、道の向こうから鈴の音が聞こえ、顔を上げた。

見れば、そこにいたのはよくいる三毛猫で、ただ何かがおかしい。

何がおかしいかと聞かれればわからないとしか答えられないが、あまり良くない気配がすることは確かで、俺の脳内は警鐘を鳴らし始めた。

それは危険回避ではなく、見ていたく無いといった嫌悪。

「何だ。どうした、百鬼。…猫か?」

「あ、本当だ。珍しい、三毛猫ですね。」

「『みけねこ』…猫?」

高杉と、乙夜と竹田の声が遠く聞こえる。

ちょこんと座っている猫は此方を見て、首を傾げていたが、暫く見ていると突然一声鳴き、ニヤリと笑った。

気配が急激に色濃くなり、俺の本能が本格的に危ないと告げ、猫の正体を理解した。

あれは、化け猫だ。

だが、気付いた時にはもう遅く、俺の体は変化した猫の巨大な尾に吹っ飛ばされた。

「百鬼っ!」

「なっ」

塀に体を強かに打ち付け、大分凄い力で飛ばされたらしく塀の一部を巻き込んで商家の庭に飛び込む。崩れて降ってきた土塀の残骸が体の上に山になった。

一層強くなった匂いの正体が禍々しく変色した妖気だと気付き、早く起き上がらないとならなければと力を全身に込めたが、尋常じゃない痛みが脳天を突き抜けすぐに崩れ落ちる。

激しく咳き込むと、肋にひびが入ったのか軋んで痛い。


朦朧とした意識の中、崩れた土塀の向こうに化け猫と今にも爪に襲われそうな竹田が見える。

守れと言われたが、俺の体が動かなければ沖田も此処にはいない。原田達も自分の身を守ることで精一杯らしく其処まで気が回っていないらしい。

「(本当に、人の体は面倒なことこの上ない……)」

荒い息の中、妙に冴えている部分がそう呟いた。

投げ出している手を引き寄せ、胸元に触れる。独特の匂いも液体の濡れる感覚もないということはまだ、あれは割れていないはずだ。

この時、命令に従わなければだとか人命を守らなければだとかなどという理性的なことなど考えてはいなかった。

面倒事を避け、目的のみを果たそうとするいろはの百鬼としてではなく、酒呑童子としてのただの根源的な本能。

そんな物に突き動かされ俺は動かない体を無理矢理動かす為に、今後、いろはどころか国の存在すら揺るがしかねない行動に出た。

……手が、小瓶に触れる。

「(あとで問題になるな……まぁ、土方が何とかするだろう。)」

取り出し、少し眺めたあと蓋を開けた。

向こうでは竹田の背後に猫の爪が迫っている。

俺は戸惑うことなく昨夜、狐から貰った祝い酒を喉に流し込んだ。









「あぁ、主様。…帰られたのですね。」

屋根の上で月を見上げながら寂しげに狐が呟いた。






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