第拾玖話 月夜
今回多少短いです。
次回はまた回想かな。
「やぁ、やぁ。ご機嫌いかがでざんしょ、お館様。」
「……うざい。」
狐がやってきたのは夜も中頃、俺が縁側て月を見ていた時のことだった。
相変わらず意味の分からない言葉使いで機嫌を尋ねてくるので素直に返した。
「そんなこと、おっしゃらず。ほら、土産に稲荷の狐が作った祝い酒をお持ちしました。」
口にくわえていたのは懐サイズの酒瓶。それを器用に差し出してくる。
正直、こいつは舐めてんのかと機嫌が更に悪くなった。
「…手前ェ、俺が今、酒飲んだら一時的とは言え鬼の姿に戻ること知っとるだろ。」
だが、酒は好きなので一応受け取り懐に入れた。
眺めるくらいこれから受けるであろう心労には良薬だろう。
「へへっ、鬼に戻って大江山に帰るのも良いと思うんですがね。」
狐が悪びれもなくしらっと言ってくる。
「今は無理だな。此処はまだ帰るには面白いことが多すぎる。」
悪戯な笑みを狐に向ければ、狐は困ったように眉間に皺を寄せ、首を傾げた。
わからないと言った表情だ。
「まぁ、そのうち一度、様子は見に行く。」
そう言って狐に手を振ると、納得はしていないようだが引き下がることにしたようで軽くその場でくるりと宙返りをすると、煙と一枚の葉を残して消えた。
後に残ったのは虫の声と風の音で、手持ち無沙汰になった俺はもう一度丸い月を見上げた。
月は昔と変わらず温かい光を地上に見せていて、どこか安心する。
やらなければならないことも、これから起こる面倒ごともどうでも良く感じてしまうのは何故なのか。俺にはわからないが、ただただそれは今の時間と共にずっと謳歌していたいと思える。
それを成すには、片付けなければならない大きな問題があるけれど。




