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酒呑童子奇譚  作者: みたらし団子
第二章 犬神
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第拾漆話 犬神童子の回顧

いきなり竹田の視点で始まります。


次の話はすっごいややこしくなると思われます。




「主、犬神憑きだな?」

目を覚ました俺に開口一番、頬に布を貼り付けた男が話しかけてくる。

それも俺が一番気付かれてはならないと隠して来たことだったこともあり、俺は一瞬で飛び起きた。

現実を半分も理解できていない俺が、両手両足を拘束される。なんて非現実的な事象に即座に対応など出来るはず無く飛び起きた拍子に顔面から布団に突っ込んだことは説明するまでもないだろう。



俺の一族は長年、山の中で人目を避けて生きていた。周囲の麓の村人から犬神憑きと呼ばれ避けられていたが、数匹の山犬と共に豪快な父のもと、家族仲良く暮らしていた。

村人の呼ぶ、犬神憑きとは恐らく山犬を連れているからだと俺は思っていたが、それが破られたのは、3年前。

俺の背中に出たひっかき傷のような痣が始まりだった。

三本の痣が出始めた時、俺は高熱に三日三晩寝込み、生死をさ迷った。

次に熱も冷め目を覚ました時、俺は俺の中に違和感を感じていた。

鼻が異常に良く、体が軽い。音に敏感で小動物の足音が聞こえてる。力も異常に強くなり、そして、何か自分の中にいる気配がしていた。

他人と違うことに不安を感じ、母と父に泣きついたのが1年前。そして父から聞かされたのは、俺達が村人から犬神憑きと呼ばれる本当の理由。

犬神憑きとはとある呪術に使われた人間の成れの果てで、呪いの一種である。我が家は犬神筋の家系で、代々次の当主に犬神の証があらわれる。

俺の背中の三本痣はその証だと言う。

「家を出て、犬神にこの世界を見せてやるのだ、菊人。」

そう父に言われたのは、今から半月程前。代々伝わるという刀一振りと旅道具を渡して家から豪快に笑いながら送り出す父親はきっとうちの父だけだろう。俺は道すがら楽天的で豪儀な父を軽く恨んだ。


そんな訳で家を出された俺は、生きるための食い扶持と、あわよくば犬神から解放される方法を知ろうと山越え谷越えわざわざ都まで出てきたのだ。

そこで、浪士が妖怪退治をしている場面に出会い、そう言えば壬生狼という浪人集団の話を親元にいる時も聞いたなと思い出して、入隊試験を受けることにし、ちょうど良く大通りにいた隊士達の一番後ろを歩いていた眠そうな顔をした優男に声をかけ、蹴り飛ばした。


「成る程な。長い説明ご苦労さん。」

「いえいえ、突然押しかけてしかも、腹が減っていて機嫌が悪かったとは言え、何とも傲慢な態度をとり、その上で無理を申し上げたのは俺ですので。」

目覚めるとすぐ腹の虫を鳴かせた竹田はもう数日飯を食っておらず多少機嫌が悪かったらしい。幹部が再び集まった部屋に土方が持って来させた茶漬けをかき込むと、居住まいを正してまず謝罪をしてきた。初期の印象とは違い、呆気にとられていた俺達はさらに首を傾げる事態となったが、話を聞けば育ちが良いこともあり、子どもながらなかなか丁寧で誠実であった。

「だが、そうか。君は犬神憑きなのか…」

近藤がそう呟けば竹田は少し萎縮する。

「や、やっぱり駄目ですか。」

「ん、何がだい?」

「いや、あの…採用というか…入隊試験というか…やっぱり、俺、化け物だし……黒野さん大通りでいきなり蹴り飛ばしたし。」

俺を大通りで蹴ったことと本人の身の上の話をしているらしい。

最悪斬られる。とまで想像がついているのか、顔は蒼白だ。

「いや、正式に隊士として迎えるつもりをしているが。」

「うぇ!?」

近藤がさも当たり前と言った風体で答え、竹田は有り得ないと瞳を見開いた。

「え、何、嫌なの。嫌なら斬るけど?」

「あ、いえ嬉しいです!」

沖田が放心している様子だった竹田をからかえば、また元気な返事が返された。

「お前は一番隊と副長補佐の預かりとする。正式な配属は追って伝えるから大人しく待っとけ。」

「はいっ。」

最後の大人しくの所が強調されていたことに、竹田は気付いているのだろうか。

「ところで、竹田くん。君の犬神憑きの件なのだが、わかっているとは思うが、他の隊士に知られないようくれぐれも気をつけてくれ。犬神憑きと妖怪は違うとは言え、同義として捉える者もいるからね。」

「は、はい。」

近藤から釘を刺され、再び萎縮した竹田だったが、ふと気になったのかおずおずと手を挙げた。

「どうかしたのですか?」

近藤のよこに座していた桂が首を傾げる。

「いや、あの…一番隊って何処ですか?」

……

おのぼり様だった。

「ここの上から二番目。一番隊組長、沖田総司。…僕の隊のことだよ。竹田菊人クン?」

にこにこと笑う沖田が手を軽く振り答えた。

竹田は軽く驚いたのか、「へ?」と間抜けな声を出している。

「試合の前に近藤さんが言ったじゃん。"ここにいる幹部の前で一試合して欲しい"ってさ。」

「…ぜ、全員幹部…て、いうことは…」

機械的な動きで此方を見た竹田。

「そ。君を昏倒させたソレも、幹部。副長補佐の黒野百鬼。」

沖田がくすくすと笑う。

人をもの扱いするなと、とりあえず沖田は軽く睨む。

竹田は半分魂が抜け、口を開けて呆然としている。



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