第拾伍話 犬神童子
俺の言葉をかわぎりにして竹田が打ち込んでくる。木刀のぶつかりあう乾いた音が道場に響く。
此方からは打ち込まず竹田の打つに任せて受け流し続けた。
上部への打ちを姿勢を屈めて軽くかわし遠く間合いを取る。追いかけて来た竹田の上部への打ちを再びかわしまた間合いを取る。
と、避けた瞬間勢いよく振り向いた竹田が木刀を振り上げてきた。
が、髪に軽くかすった程度で特に問題ない。
そんな攻防を繰り返していると時々におう人とは違う匂い。
これは…
勢いよく振り下ろされた木刀を払い飛ばし、息の上がっている竹田の腹部に蹴りを入れると竹田が軽く吹っ飛び道場の床板に叩きつけられた。
一瞬息が止まったのか激しく咽せている竹田を見下ろして先程におった匂いについて考える。
試合が始まり、暫くしてからし始めた匂いは竹田の汗とは違う。ただ段々と濃くなり、今は、鼻の良い者ならば普通に嗅ぎ取れる程度になっている。
濃くなる匂いが確信となり、自分の推測は大体当たっているな、と荒く息をしながら立ち上がり、木刀を握る竹田を見ながら思う。
しかし、自分の推測に疑問が残る。俺の考えが完全に当たっているのなら、竹田は何故、人の領分に来たのか、そして、いろは47隊に入りたいと言い出したのか。…わからない。だから、
「おい、百鬼。」
木刀を頭上に上げ右上段をとると、土方が眉間に皺を寄せ、此方を睨んでいるのが目の端で見えた。
俺のすることを察している筈だが任せているのか呼びかけるだけでそれ以外何も言っては来ない。
「うわあーっ!!!」
竹田が雄叫びを上げて木刀を突き出してくる。俺は間合いの差を利用し、その脳天に向かって手加減無く木刀を振り下ろした。
風を切る音、鈍い音、床板を叩き割る音が地響きのように空気を震わせ砂埃を上げさせた。
「わーお。すっごいね、相変わらず。」
沖田の楽しそうな声を聞きつつ目は床下に沈めた子どもを見ていた。
扉をすべて閉じた道場はなかなか砂埃が収まらない。だが、常人より遥かに良い鼻は確かにその匂いを強めていた。
その証拠に、爪の鋭く伸びた手が俺の首を掻き切ろうと勢いよく伸びて来た。
「っ…」
予想はしていたが、その時を計っていたこともあり、一瞬だけ反応が遅れた。
何とかかわすことは出来たが、頬に鋭い痛みを感じ床に数滴赤い液体が飛び散った。
乱暴に頬を拭い、次第に晴れていく砂埃をジッと見つめる。
「なっ…」
砂埃の晴れた先を見て、近藤が驚きの声を上げた。
それもそのはず。そこに立っていたのは竹田だが竹田では無いそれ。
瞳は瞳孔を細めて金色に光り、顔には隈取りをしたかのような赤い紋様。そして獣のような体勢で此方を睨みつける。
「…犬神」
再び垂れてきた赤い雫を舐めて、俺は呟いた。




