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酒呑童子奇譚  作者: みたらし団子
第二章 犬神
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第拾参話 童子

展開の早さはまぁ、気にしないでください。


いい加減、土方がブチ切れそうな空気を放ち始めた今朝。(昨夜の事件もあって)釘を刺されたので今日は渋々、番組の見回りに同行していた。…と、言っても一番後ろを旗を抱えて淡々と歩くだけだ。商家や長屋、怪しい空き家などあっても気をかける気は端からない。

「おい、壬生狼!」

「…。」

誰かが新撰組時代の俗称を呼んだ気がして足を止めた。

周りを見回すが誰もいないので無視して歩き出そうとすれば、膝裏に衝撃。

「え、あ、おいっ、大丈夫かぃ、百鬼!」

俺の様子に気がついた奴…確か伊上いがみ、が駆け寄ってきた。

が、だからと言ってこの痛みは治まる訳じゃなく。俺は往来のど真ん中でうずくまることは無かったが、足をガクガクさせて撫でさすっていた。

「やってることと、表情のバランス悪くなってるよ。」

無表情で膝裏を撫でて明らかに痛そうな様子は周りから見て明らかだろう。

「もうちょっと痛そうな顔したらどうだぃ?」

そう言われても。

無表情で膝裏をさすって青い顔をしている俺を伊上は苦笑いしながら案じてきた。

「ところで、君は?」

「え…」

「何で百鬼に膝蹴りしたんだぃ?」

それは俺も気になり、顔を上げ童子を見た。

やっと見た童子はみすぼらしい姿をしており、背中に布に入った…おそらく刀。を差していた。

刀は持っているが恐らく、農民の子だろう。

童子は俺への蹴りが思いの外、深く入ったことに驚いたのか伊上に話し掛けられて少し慌てている。

「お、俺が、よ、呼んでんのに反応しなかったから…」

おどおどとしている童子が面白い。

俺は治まってきた痛みに一度屈伸をすると、童子を見下ろした。

「名前は?」

「なっ、き、聞いてどうする!」

「ははは、何もしやしないよ。私は伊上源次郎。君が蹴りを入れたコレは黒野百鬼だ。」

コレとは何だ。

伊上は笑いながら童子に自己紹介をし、俺を紹介した。童子は一瞬張った警戒を解いて、しかし、緊張した様子の小さめの声で「…竹田村の菊人」と呟いた。

「菊人くんか。私らを呼んだってことは、何か目的があったんじゃないのかぃ?」

伊上が混じり気の無い笑顔を竹田に向ける為、竹田もやりにくそうに苦い顔をしていた。

しかし、伊上の解いを聞くと元の目的を思い出したかのように目に光を宿し、鋭い表情になった。

そして、吐き出された言葉に俺も伊上も呆気に取られることになった。

「俺を壬生狼に入れてくれ!」






「無理に決まってんだろうが。」

その後、壬生狼に入れろと往来で騒ぎたてる竹田に結局押し切られた俺と伊上は、ひとまず屯所へ移動し、竹田を道場で待たせて察しのついている答えを聞くため土方のもとへと報告しに行った。

まぁ、案の定な答えだ。

「やっぱり、そうだよねぇ。」

たはは、と笑う伊上はどうしたものかと困り顔になっている。

竹田を屯所に連れてきたのは、わかりきった答えを言うことを先延ばして場をおさめる為で、端っから答えが決まっているなどわかりきっていた。

年齢は若く、農民の出で武器は布入りの刀一本。実践経験など有るはずも無い。そんな奴を隊に入れても犬死にがいい方。下手したら他の隊士に被害が及びかねない。俺でも入れたいとは思わない。

が、俺には一つ引っかかっていることがあった。

「土方さん。…一回見てやってくれませんか。」

「?!」

俺からの進言に、隣で伊上が目を見開くのがわかった。

「…あぁ?何で、んな餓鬼を見てやんなきゃなんねぇんだ。」

土方が言う。俺もそう思う。時間の無駄だ、無駄なのだが、気になるのだから、しょうがない。

俺は土方の目を見たまま意味ありげにつぃっと目を細めた。

「…。」

暫く睨み合いのような状態になり

…先に折れたのは土方だった。

「…チッ、一回だけだ。伊上!近藤さんと桂さん…あと、総司を呼んで来てくれ。」

「へぃ。」

俺と土方のやりとりを見守っていた伊上が一礼し、部屋を退出して行く。

「で、どういう了見だ。使えそうにねぇ餓鬼を見ろってェのは。」

溜め息と共に土方が髪をかきあげ言う。

伊上の気配はもう遠く、このあたりにはもう誰もいないことを確認し、俺は笑う。

「あやつ、面白い気を持っとる。…ただの人間じゃあり得んわ。」

「…妖怪か?」

「いいや、妖怪でも物の怪でもない。どちらかと言うと、霊の類だ。」

クスクスと笑ってやれば、土方は訝しげな顔をする。

「まぁ、主も何と無く理解して伊上に命じて幹部連中を呼んだのだろう?」

悪戯をする前のように笑みを深めて言えば土方は溜め息をこぼし、まぁな、と素っ気なく返してきた。

その答えに満足して、俺は立ち上がる。

「さて、彼の半端な気の者が我が眷属か、はたまた別の何かか。見極めようではないか。」





これが、主軸の小さな歯車を回し始める起爆剤になるとは、

この時、誰も、俺でさえ思いもしなかった。



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