第拾壱話 名前=回想録2=
前回の続きで、ちょこっと回想。
試衛館時代の土方とちびっこかった百鬼の名前の由来の回想です。
ちなみにこの頃は、百鬼は6歳くらいだと思ってください
「お前、名前何て言うんだ?」
夕飯を食っていると、土方がじっと見てくるので、煩わしくなった。
何だ、と聞くと土方は唐突に名を聞いてきた。
「人は我を酒呑童子と呼んでおる。」
「それは、名か?」
答えると訝しげな目をして土方は首を傾げた。
確かに言われてみれば、世間一般の言う名前とは少し違う気がして俺も首を傾けた。
「酒呑童子ってのは大酒飲みの鬼だから酒呑童子って呼ばれてたんだろ。じゃあ、名前ってよりは名称じゃねぇか?」
土方が箸を置いて腕を組み真面目に考え出した。
「そう言われても、知らん。俺は昔から酒呑童子だの主様だのとしか呼ばれておらんかった。疑問に思ったことは、部下から人に酒呑童子と呼ばれていると聞かされた時以来だ。」
俺も箸を置き、むむ…と二人で思案する。
「って、ことはお前は名無しってわけか。」
「まぁ、そうなるのではないか?」
名無しと改めて言われると何故かもやもやとする。自己紹介の時に困る。と、いうか。
「何故、主は俺の名を聞いたのだ?」
一番の疑問を聞いてみる。
「姉さんが、お前を正式に養子にしたいから聞いて来いっつったんだよ。出自は簡単に誤魔化せるが、流石に名前は適当なのにすると後々困るからってよ。」
「成る程な。」
流石、土方の姉上だと納得した。きちんとしてらっしゃった。
しかし、酒呑童子や酒呑、主様じゃ名前とは思えないし、怪し過ぎる。
どうしたものか、と腕を組み土方を見た。
「あ」
「あ?」
良いことを思いついた。
「主が好きに決めればいい。」
「は?」
「主だ、主。」
にぃっと笑い、わかっていない様子の土方に言う。
「土方が呼びやすい名を俺に付ければいい。それで万事解決だ。」
ぽかんとしている土方にそう言い、俺は夕飯に再び箸を伸ばした。
「俺が?」
「そうだ。」
「勝手に?」
「あぁ。」
口元をひきつらせる土方を尻目に俺は土方から夕飯の魚をかっさらいつつ淡々と告げた。
所謂、丸投げだ。
「で、百鬼になったと。」
「あぁ。呼びやすく呼ばれやすい名であろう?」
とある稲荷神社の御神木で寝ていると、狐がやってきて名の由来を聞かれたので、寝っ転がったまま、淡々と百鬼という名になった経緯を答えた。
狐は適当だなぁと言っているが、俺はそう思っていない。
「あの土方を困らせ、悩ませられたのだ。十分いい名だ。」
当時と同じような悪戯な笑みをうかべ返答すれば、「いい性格してるなぁ」と言われた。
「…ところでだ。主、沖田と会ったそうだな?」
「あら、知ってらっしゃったので?」
「沖田から聞いた。」
起き上がり足元にいた狐真を見る。
「あの話、どういうことだ?」
「そのままの意味ですよ。…このところ東の妖怪どもが騒がしく、悪鬼となる妖怪も何故か増えている。明らかに異常だ。」
「…。」
流れだと思ったんですがねぇと、狐が付け加えるように呟く。
昨夜ののっぺらぼうも確かに変だった。
いくら、人の姿をとっているとは言え、鬼である俺を吸収すること無くいとも容易く投げ飛ばすとは…
とある考えが浮かぶ。
「紛いもの…か。」
「えぇ、恐らく。」
狐の細い瞳が開かれ、じっと見つめてくる。
「誰かが作為的に妖怪を悪鬼にしている可能性がある。」
意図せず、心臓が早鐘を打ちだした。嫌な考えだ。
「方法はわからないが、こ毒のような呪術だとおもうね。」
ふわふわと揺れている狐の尾が彼も考えての発言だということを告げている。
俺は静かに瞳を閉じた。
「陰陽寮か?」
「それもわからない。が、可能性はあるね。」
本当に胸くそ悪い。と狐が悪態をつくが、俺も同感だった。
ふっと目を開け、狐を見据える。
「…気は付ける。何かあったら知らせろ。」
「御意。」
返答を返すと、狐は一度飛び上がり、青白い狐火に包まれ目の前から消えた。
俺は再び寝っころがり、木の枝と葉の間に見える青い空を見上げた。
憎たらしいほど青い空は土方に会った頃も、まだ大江山にいた頃も、その前も変わらずにあり続け、悩み事を吹き飛ばしてしまう。
吹き抜ける風が段々とぬくもりを帯びてきて、もう少しすれば夏かとまだ遠い季節を近く感じ、俺は目を閉じた。




