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みずたまり  作者: 日向 唯
夏休み
2/9

放課後



「なぁ…」


たぶん彼はこんな風に話を切り出してきたと思う。


夕焼けにほんのり染まる空を、それまでずっと、眺めていたあたしは、その声でようやく彼の方を向いた。


「ん…?何?」

「うん…まぁ…」


教室の前の方、

教卓の前の席で彼は、自分のバックに視線を落としたまま、中を整理して、あたしの方を一切向かなかった。


「どうしたの?」


不思議になって聞き返すと、彼は何も言わず、

ぎゅっと自分の唇を噛んだ。


うつむいた顔は少し不機嫌そうで、バックの整理だと思っていた行為は、よく見ると余計に中をごちゃごちゃにしていた。


「あのさ…もうすぐ夏休みだな」


彼の声のあとに一瞬、間があって、あぁ、というあたしの声が静かな教室に響いた。


「でも明日からテストだけどね、

夏休みの前にほんと嫌だ」


あたしがそう言うと、彼は少しイライラしたように、自分の髪をくしゃくしゃにした。


「…そうじゃなくて」


ようやくその時、彼があたしを見た。


真っ黒な髪…同じ色の瞳と、

いつもふざけてばかりなくせに、その時の彼の目は、いままで見たことないくらい真剣で、思わずあたしも彼をじっと見返してしまった。


鞄から手を離すと、彼はあたしの座っていた机の、すぐに隣の机に座って、またうつむいて、ぎゅっと唇を噛んだ。


うつむいた横顔が綺麗で、いつも話してる彼ではないみたいで、あたしはいつも以上に緊張していた。


「テストなんかどうでもいいんだよ…ばか」

「…赤点採ったら、補習あるじゃん…夏休みに」


とぎれ、途切れに言い返すと、彼は困ったようにあたしを見た。


「じゃあ赤点は採んな」

「…そっちこそ人に言える立場なの?」

「お前と違って数学はできるからな?」

「…松田なんてきらい」

「それは困る」


一瞬時が止まったような気がして、

あたしは驚いた顔で、彼をじっと見てしまった。


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