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ごちゃごちゃ言わず身をもって抗議する

⒕ごちゃごちゃ言わず身をもって抗議する


生徒会も決着して2年生の2月に修学旅行に行くことになっていた。北海道、ニセコ高原への3泊4日のスキー旅行。青空高校では、いままで広島、長崎、東京と観光中心の修学旅行を行ってきたが、体験を通じてもっと思い出になる旅行をということで、今年からスキー旅行になった。

 赤木も最初は、この旅行をとても楽しみにしていた。

ところが、あることをきっかけに、急に冷めてしまった。

スキー旅行にいくことが発表されてから、いつしかクラスは、

「スキーウエアをどうするとか、どこに買いにいくとか」

という話題で持ちきりになった。中には

「修学旅行前に、練習のために北海道までスキーに行く」といい出した者が、数人いた。

そんな話を横から聞いていて、赤木は思った。

(こいつら、あほか…)

修学旅行は、ファッションショーか。なんで、新しい服を買わなあかんのや。なんでスキーの練習に行かなあかんのや。

そんなことを考えていると、赤木はだんだんと腹がたってきた。

そしてついに

「先生、俺なあ、修学旅行かへんわ」

と担任の大橋先生にいってしまった。

大橋先生は、突然の出来事に鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。

それから大変なことになった。

「うしが修学旅行かへんてゆうてるらしいで」

校内にはあっという間に波紋が広がった。

 

次の日、赤木は職員室に呼び出された。いわれた時刻に職員室に入っていくと、そこには、担任の大橋先生と、学年主任の安井先生が待ち構えていた。

「赤木よ。なんでお前ほどの男がそんな訳の分からんこというんや」

主任の安井先生は赤木を自分の前に座らせて不思議そうに尋ねた。

「先生、訳の分からんことちゃうで。ちゃんと訳があるんや」

赤木がそう答えると

「そうか。ほな訳をゆうてみい」

安井先生は赤木の顔を覗き込んだ。

「先生、修学旅行の目的は何や」

逆に赤木が先生に質問した。

「そやなあ。みんなで一緒に旅行にいっていい思い出を作ることかな」

「それやったら、みんなが参加しやすいようにせなあかんのと違うんか」

「そりゃ、そのとおりや」

「そうやろ」

「でもなあ、このままやったら、いやな思いをして参加せなあかんやつもおると思うで」

「なんでや」

先生は意味が分からないという顔をして尋ねた。

「先生は、クラスのみんながスキーウエアをどうする。早よ買いにいかなあかん。練習をしにスキー場へいかなあかん。といっているのを知っとるか」

「いや、知らん」

「ファッションショーと勘違いしとる。金持ちは、ええけど、貧乏人はかわいそうや。せっかくの旅行にひけめを感じながら行かなあかんやつも出てくるんやで」

赤木は語気を強めた。

それを聞いて二人の先生は、困った顔をした。

が、しばらく間を置いて

「お前の考えは分かった。でも考え直してくれ」

という言葉を繰り返しただけだった。

「先生、悪いけど、俺の考えは変らんわ。他人の気持ちが分からんような金持ちは好かん」

赤木は、そういうと席を立った。


赤木が職員室から帰ってくると、大石が心配して待っていた。

「お前の気持ちもわかるけど、お前が行かへんかったら寂しいやん。一緒にいって楽しもうな」

大石は赤木を誘った。

大石は、体は大きいが、意外に人に心配りができた。本当は、こいつらと一緒に行ったら楽しいやろうなと思いながも、赤木はこの旅行自体筋が通らん、と思っていた。

「すまん。俺は行かれへん」

赤木は申し訳ないと思いながらも、誘いを断った。

 

その後、こっそりと担任と学年主任の先生が赤木の自宅を訪れていた。

赤木が帰宅するなり母親がいった。

「今日なあ、先生が二人来たってな。お宅の息子さんが、修学旅行に行かないといっている。経済的な理由でお母さんが行くなとおっっしゃてるんですか。とゆうてねん」

「それでな。そんなことはないです。でもあの子が、そうゆうてるんやったら、よっぽどの理由があるんやから、あの子のいゆようにしてください。とゆうたったで」

さすがや。ありがとう。

赤木は母親の対応に感謝した。

顧問の鬼塚先生もこのことに関しては一言もいわなかった。

赤木にはこれはありがたかった。赤木は、何となく鬼塚先生にはさからえんやろなと思っていたからだ。

ただ、青空高校では、それ以後『うしは変人や』という評判がたった。

 

みんなが修学旅行に出発した日、赤木は教室にいた。教室には健康上の理由で修学旅行に参加できなかった一人ともう一人、修学旅行に抗議した変人一人と合わせて3人がいた。

もう一人の変人は陸上部の阿川で、中学時代は100メートルハードルの記録保持者だ。そう体が大きいほうではなく、こじんまりとした体つきをしている。普段はどちらかというと無口なタイプだった。

「お前なんで修学旅行に行かへんかったんや」

赤木が隣に座っている阿川に話しかけると

「学校は、修学旅行の行先についてみんなの意見を聞くというとったやろ。そやのに意見を聞かんと、勝手に観光旅行からスキー旅行に変えよった」

「先生は、みんなスキーに行きたいに決まっとるから、意見なんか聞かんでええ。というとったけど、九州とかの観光の方がええやつもおるはずや」

阿川はぶっきらぼうに答えた。

「そうか。お前は観光旅行の方がよかったんや」

赤木が分かったように念を押すと

「いや。べつにスキーでもええ。学校がみんなの意見を聞かんと、かってに決めたことが気にいらんだけや」

意外な答えが返ってきた。

変なやつがいた。

でもみんなから見ると俺も変なやつかも知れない。

赤木は、阿川を見て、そう思った。


午前中は、自習の時間だった。

監督の先生が一人ついた。その先生を赤木は今まで見たことがなかった。他の学年の先生らしかったが、見た目がとても貧相だった。先生は具体的に何を指示するわけでもなく、ただ教壇の机に座っているだけだった。赤木にはこの先生が、いやいや教室に来ているように思われた。まるで、お前らが修学旅行に行かないものだから、余計な仕事が増えた、と言わんばかりに。

退屈な時間が過ぎていった。


やっと午後になった。

さすがに黙って監督することに疲れたのか、午後は何をしてもいいというので、赤木は一人グランドでタイヤ引きをやることにした。足腰を鍛えるために古タイヤにロープをかけたものを腰に引っ掛けて引っ張るのだ。

これが、結構ハードで、100mを2往復もすると息が切れる。

一息つくとまた走り出す。誰もいないグランドでタイヤを結んだロープを腰にぶら下げて、もうもうと砂ぼこりを立てながら一人走っているのだから、滑稽だ。

数人の1年生が校舎の窓からもの珍しそうにじっとその様子を眺めていた。青空高校には修学旅行に抗議して、タイヤを引っ張っているこんなやつもいる、ということを下級生に見せておきたいという気持ちが赤木の心のどこかにあった。

赤木は、窓の1年生に手を振りたい気分だった。

 

こんな調子で4日間が過ぎた。

4日後、修学旅行から帰ってきた大石が登校してくるなり、真っ黒に雪焼けした顔で赤木に土産を差し出した。

「これ、土産や」

見ると、どこにでもありそうなスキー板を抱えた人形が立っている飾り物だった。

「おおきに」

赤木はそういいながら、内心みんなには迷惑をかけたことを申し訳なく思った。

 この事件との関係は定かではないが、翌年からスキーウエアはレンタルで統一された。赤木の行動が少しは役にたったのかもしれない。

赤木は、その後に返してもらった修学旅行の積立金でちゃっかりと250CCの中古バイクを買った。


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