ウィルスVSワクチン
〈ウィルスVSワクチン〉6月25日金曜日
『
【カズ】
「なッ!い、今からだとッ!?」
【ソラ】
「最高責任者にガツンと言ってやってね♪」
【カズ】
「い、いや……」
【ソラ】
「いやじゃない。私はいちばんやっちゃいけないリスクを被った。巫女ちゃんが代償を払うべき」
【カズ】
「………」
【ソラ】
「……ったくもう~」
【ソラ】
「一瞬たりとも時間を与えちゃダメなんだって。やりましたっていう口実が出来上がっちゃう」
【ソラ】
「ってのは冗談。なかったことに♪私とタマが何とかしてはぐらかすから」
【タマ】
「……こう自己解釈すればいい。あたしは必然でもお前はまだ間に合うと」
【カズ】
「(どうしてなんだろう……)」
【ソラ】
「黒幕はゆったりコーヒーでも味わいながら一部始終を聴いていればいいんだよ」
【カズ】
「(行きたい――言ってやりたい……)」
【カズ】
「(……けれど今になって、挨拶に来たような印象を与えかねないんじゃないかって不安がってる)」
【タマ】
「……自分を見失わない為には、生きて見つけたやりたいことを毎日我慢してでも欠かさずやること。受験で学んだことだろ?」
【カズ】
「(おい、あん時の自分はどこにいった?強大な敵がそんなにこわいのかよ)」
【タマ】
「……あたし達は確率で生きなければならない。同じリズム、同じテンポを維持したいなら」
【タマ】
「……ズレを最小限に抑え込む。お前に今できることといったらそれくらいしかないと思うが?」
【カズ】
「お前らに頼るしかない。いつものようにな」
【カズ】
「………」
【カズ】
「……しっかしよぉ~、やけに意気込んでね?お前ら」
【カズ】
「自分ってそんなに魅力的か?」
【ソラ】
「………」
【タマ】
「………」
【カズ】
「……ん?」
』
【タマ】
「『……神代を吸収する前に改めて苛ませておく』」
【裏神代最高責任者】
「『負けないは勝利に等しい』」
【タマ】
「『……たとえ役に立ってなくても、そいつがいるだけで負けを知らないようならあたしだって無視できない』」
【タマ】
「『……ある意味”違い”を生み出せる主人公だよな?』」
【タマ】
「『……お遊びはこの辺でお開きにしよう。あたしは今から魔王へと変貌する』」
【タマ】
「『……覚悟はできてるな、ソラ?』」
【ソラ】
「『………』」
『
【タマ】
「……仮の話だ。仮の話。一つだけ仮の話をお前にぶつける」
【タマ】
「……あたしがソラを、場所はどこでもいい。どこかに追いやったらお前はあたしのその選択を本当に肯定するのか?」
【カズ】
「そうだ」
』
【カズ】
「………」
【カズ】
「やばい……はやく、い、行かないと……」
【カズ】
「………」
【カズ】
「じ、自分はなんて馬鹿なことを……ッ!」
【カズ】
「くッ!どうして今の今まで気付――ちッ!鍵掛けやがったか」
【カズ】
「裏神代……裏神代へ行くにはどうしたら……どうしたらッ!!!」
【裏神代最高責任者】
「『死ぬ気なのか?』」
【ソラ】
「『………』」
【ソラ】
「『……私は。私はッ!』」
【ソラ】
「『タマには負けませんッ!』」
【ソラ】
「『でも『明け』の明星にも……なれません』」
【裏神代最高責任者】
「『これが切望のせめてもの代償というわけか』」
【ソラ】
「『私に手術は通じません』」
【裏神代最高責任者】
「『オペだと?』」
【タマ】
「『………』」
【ソラ】
「『ウィルスにはワクチンで対抗する。そうでしょ、タマ?』」
【カズ】
「監査委員長でも運営委員長でもいいッ!大至急ここに呼び出してくれッ!!」
【大学事務員】
「い、いきなり何ですかあなたは。どっちも最近大学に来てませんよ」
【カズ】
「え?」
【大学事務員】
「今頃現代予備軍にもなってるんじゃないですか」
【カズ】
「………」
【カズ】
「くッ!こ、これだから神代はッ!!」
【ソラ】
「『………』」
【タマ】
「『………』」
【タマ】
「『……いつかは忘れた。カズがお前のことを青空と呼ぶから、どうしてそう呼ぶのか訊いた』」
【タマ】
「『……理由はいつも空を見上げていたから。それはまるで現代が神代を見上げるかのように』」
【タマ】
「『……けれど、もっと下だった』」
【タマ】
「『……眺めはどうだった?あたしが最初に感想を聴くのが道理だよな?』」
【ソラ】
「『……私はタマがいずれ創るだろう新代の使いじゃないって』」
【タマ】
「『……成立させるか。カズの話題には一切触れたくないもんな』」
【ソラ】
「『………』」
【ソラ】
「『う、うそ……まさかこんなところで……ラストページで何もかも打ち明けるはずだったのに……』」
【タマ】
「『……あいつがいてもソラは負けない。そのアピールが慢心となって仇となったな』」
【タマ】
「『……先に言えよ。あたしのこれからの構想。当たってたら負けを認めてやるから』」
【ソラ】
「『ううん。お先にどうぞ……ひっく』」
【カズ】
「あ、青空ッ!」
【カズ】
「おいまだかッ!!あんたらの同僚に政府職員の知り合いはいねぇのかよッ!?」
【警察官】
「ち、ちょっと落ち着きなさい。今探してるから」
【警察官】
「詳しく話してくれるね。何があったの?」
【カズ】
「神代の存亡に関わる。それでもバイオリズムは一定か?」
【警察官】
「………」
【警察官】
「官邸なら私が案内できる。行くかい?」
【タマ】
「『……負けを知ったあたしはカズに説得され、神代で窮屈に生かされる。そして神現新の三代物語を創らされる』」
【タマ】
「『……カズは突然現代に。お前との約束を叶える為に』」
【タマ】
「『……そしてお前は虚空の新代に帰り、めでたく三代、三竦の――』」
【タマ】
「『……という浅はかな野望は潰えたんだよ、ソラ。もう』」
【タマ】
「『……この際、カズが決断できなかった時の為の予備対策も言ってやろうか』」
【タマ】
「『……神代最高責任者を操ってのドールレイン陽動作戦』」
【ソラ】
「『そう……うぅ……ひっく……』」
【タマ】
「『……ガラスケースは用意したのか?三竦の時間を止める為に、神形になって永遠に輝こうなんてな』」
【タマ】
「『……カズが望んだとしても、あたしはそんな結末認めないッ!』」
【タマ】
「『……認められるわけないだろ。認められるわけ……くッ!』」
【警備員】
「最高責任者に話があるって?」
【カズ】
「カズという姓のタマの知り合いが面会したいとだけ伝えてくれればいいんだ」
【警備員】
「……はいはい。そういうことは公式ルートを踏もうね。首席補佐官を通して」
【カズ】
「こうして警官も同行してる。報告が義務だろ?」
【警備員】
「所在を明かされてないんですから本当にいるかどうかも……ましてや今は渦中におられますし」
【カズ】
「(ちっ。ダメか。警備員ごときが許される情報じゃなかった)」
【カズ】
「なら政府職員でいい。会わせてくれ。時間がないんだ」
【警察官】
「私からもお願いします」
【警備員】
「………」
【警備員】
「はぁ~、これが茶番だったら私達は滅びますよ?」
【カズ】
「だ、ダメだッ!間に合わないッ!」
【警察官】
「き、君ッ!どこへ行く気だッ!」
さっきのやりとりは一体何だったんだ……?
一体何の話をしてるというんだ……?
青空の構想?
計画段階で全てを見通す?
【カズ】
「まだ自分しか知らないだろ」
しかも会話が成立してる?
証拠より論だと?
【カズ】
「全く持って理解に苦しむね」
【カズ】
「馬鹿げてる。否定すりゃいいものを。あっさり認めるなんて……」
【カズ】
「………」
【カズ】
「自分は認めないッ!ここから先は絶対的に行かせないッ!」
【第二ターミナルアナウンス】
「まもなく、現代○○行きが離陸致します。搭乗されるお客様は12番ゲートにお急ぎ下さい」
【タマ】
「『……そうだ。あたしは他を否定したくないが為に成り行きで現実を決めてる』」
【タマ】
「『……決められるのは舞台そのものを、別のテリトリーに置き換えてるから』」
【タマ】
「『……そう、あたしの創った枠に。有無を言わさず、罷り通る』」
【ソラ】
「『あ~あ、とうとうやっちゃったね……”現実”も。戦国時代に自動車を持ってこさせるなんて面白くなくなるぢゃん』」
【タマ】
「『……おい』」
【タマ】
「『……敗者はとっとと、現代への手続きを済ませたらどうだ?』」
【ソラ】
「『私達の関係って結局さ、不倶戴天の敵同士だったね』」
【タマ】
「『……ああ。カズはあたしに任せろ』」
【ソラ】
「『………』」
【タマ】
「『………』」
【タマ】
「『……希望は絶った。あなたはこの現実を何に例える?幽霊を出したら幽霊と信じてくれるのかも含めて問う……』」
【タマ】
「『……資格か?才能か?それとも魔法か?』」
【裏神代最高責任者】
「『自分にどういう認識を持たせるかは各々の自由だ。重要なのはそこではない』」
【裏神代最高責任者】
「……ただ私の政策決定に先立って、審議したいというなら”資格”という位置付けで妥当ではないだろうか?」
【裏神代最高責任者】
「『三種の神器の是非を問わせてやると言ってる』」
【タマ】
「『……あたしには関わらない方がいい。ソラが駆け引きで負けたんだ。非常線は当分破れない』」
【タマ】
「『……縋れ――』」
【裏神代最高責任者】
「『――るのは君しかいない』」
【裏神代最高責任者】
「『裏神代政府最高責任者として、』」
【裏神代最高責任者】
「『新神代政府最高責任者として、』」
【裏神代最高責任者】
「『明けの明星後継者に君を指名する』」
【カズ】
「青空……」
【ソラ】
「………」
【カズ】
「……二度目になるな。こういうシチュエーション。嫌いでもイヤじゃないんだろ?」
【カズ】
「ま、待ってくれ青空ッ!」
【ソラ】
「どいて」
【カズ】
「ひ、一晩中話さないか?昔みたいに。お前の隣に座ってさ青空」
【ソラ】
「どけ」
【カズ】
「まってくれよぉ……なぁあおぞら」
【ソラ】
「………」
【カズ】
「あ、青空?」
【カズ】
「聴いて欲しい」
【カズ】
「自分は二兎を追ってないと思ってた」
【カズ】
「けれど自惚れだった」
【カズ】
「自分はもう、お前は何があってもいなくならないと勝手に決め付けてた」
【カズ】
「否定する。自分を。認めもするッ!」
【カズ】
「お前にとって自分はまだ、気になる存在でしかなかったことを……」
【ソラ】
「……え?なに。それだけ?」
【ソラ】
「さんざん待たしといて、引っ張っといてそれだけって――ッ!」
【ソラ】
「わ、わたしがッ!私が欲しい答えはそんなんじゃないッ!!」
【ソラ】
「ダメなんだよぉ……ッ!これ以上先に進んだら、あの現実が一生私に纏わり付く」
【ソラ】
「こわい。私はやっぱり”女の子”」
【ソラ】
「壊れちゃう。今までは壊れる手前だったから何とか頑張ってこれた」
【ソラ】
「けれどダメ。私は巫女ちゃんやタマほど我慢強くなかった……」
【ソラ】
「別れよう」
【カズ】
「え……?」
『
【恋】
「……まーたそのくだり~?好きだねぇ~。巫女ちゃんってホントは女の子でしょ」
【巫太郎】
「恋愛ってさ、一緒にいるのが告白されたからなんて全然理由になってないよな?」
【恋】
「……うん。なってない」
【巫太郎】
「言ってくれなきゃ伝わらない。信じるなんてできないは卑怯過ぎるよな?」
【恋】
「……うん。卑怯過ぎる」
【巫太郎】
「だとしたら俺はどういう手でいくべきか。どうやって、落とす……?」
【恋】
「………」
【巫太郎】
「恋愛ってさ、実るまでが一番恋愛してるよな?」
』
【ソラ】
「さよなら」
【カズ】
「あ、あおぞら―――ッ!!!」




