招かれざる観光客
〈招かれざる観光客〉6月22日火曜日
【カズ】
「えー、三竦の諸君。待たせたな。今から行き先を発表する」
【カズ】
「裏神代へと旅立とうでないの♪」
【タマ】
「……ッ!?」
【ソラ】
「巫女ちゃんはすごいなぁ。私には必要だよ、絶対的に」
【カズ】
「……猿芝居ありがとよ」
【ソラ】
「バレてた?」
【カズ】
「バレバレだっての」
【カズ】
「……一応タマには謝っておくか。盗聴して悪かった」
【タマ】
「……どんだけ低レベルなんだか」
【カズ】
「それでな。旅のスタートなんだが……青空の生まれ故郷にしようと思う」
【カズ】
「ここで一つ確認したい。帰ることに抵抗はあるか?」
【ソラ】
「いや」
【カズ】
「本当か?」
【ソラ】
「うん」
【カズ】
「………」
【タマ】
「……この間。この空気。カズは遠くを見つめて何を考えてるんだろうな」
【ソラ】
「タマこそ何考えてんだか。本気に慎重は付きものぢゃん」
【タマ】
「……そうなんだ。知らなかった」
青空の戻りは疑問を抱かせることになる。
しかもタマを同行させる。
何を思うか。
わからない。
けれど、裏神代の地を今踏みたい。
でも、裏神代の法律事情を自分は知らない。
それがどうした。
少しでも一緒にいたいんだろ?
恐さに打ち勝つには、踏み込む勇気が必要なんだ。
一緒にいれてること。
それこそが奇跡なんだから。
何もせず、このままずるずる行かせてはきっと後悔する。
物語の終わりに立ち逢えなくなる。
それでもいいのか?
【カズ】
「くっくっくっ。嫌に決まってんだろうが。もっともっと自分を楽しませてくれよ。言っとくが、こんなんじゃちっとも満足しねぇぞ」
【カズ】
「物語の終わりに立ち会うより物語の始まりに立ち会う方がよっぽど価値がある」
【カズ】
「自分は遠足を終えたくない。家には帰りたくないんだ」
【カズ】
「そうだそれ。もっと叱ってくれッ!ますます逆らいたくなる」
【カズ】
「新しい屁理屈をまたこねたくなったよッ!」
【カズ】
「ありがとう。後悔するところだった」
【タマ】
「………」
【ソラ】
「……あ~あ、受験の時はしょっちゅうこんな独り芝居やってたねぇ~。今回は特にヒドイ。付き合ったアタシもまたね」
【タマ】
「……こ、こんなことが現実にあっては――ッ!?無意識の中に意識を持って自分と話だなんて……」
【タマ】
「……あたしの対と三竦がちっぽけに見える」
【ソラ】
「お通しはつなぐためでしょ」
【カズ】
「おい青空、覚悟を示せや」
【カズ】
「今すぐ裏神代に帰れ」
【タマ】
「……ど、どう考えたらそこに行き着くッ!?」
【カズ】
「いちいちわめくな。裏神代へ入る為の許可を取るべく一時的にだ」
【ソラ】
「言いくるめるつもりなの?」
【カズ】
「アポを取ってこい」
【カズ】
「用件はこうだ。タマが話したいと……それだけ伝えればいい」
【カズ】
「そしてこう思う。梓姉ちゃんごときの用件じゃないとな」
【ソラ】
「出方を見て判断するんだ」
【カズ】
「いいや。お前らの黒幕は自分だとはっきり言ってやる」
【タマ】
「……お前、そもそも許可を取りにいこうとしてないだろ」
【カズ】
「………」
【カズ】
「自分が欺けるわけねぇんだ。考えるだけ無駄」
【カズ】
「……見てくれよ。自分にはこの学生証も利用できない。裏神代政府の承認を得られれば罷り通ってやるのに」
【タマ】
「……言ってやるよ。必ず審議会に呼び出される。そんな危険は冒せない」
【カズ】
「そうか~?自分もようやく世間に知れ渡る。悪くない待遇だよきっと」
【タマ】
「……お前はあたしやソラに勝てたとしても、世間には絶対的に勝てないよ」
【カズ】
「だからこそ喜んで法律違反者になるんだよッ!」
【カズ】
「本気で行きたかったら何をしてでも行く。それが主人公の本当の性。あり方ってもんだ」
【カズ】
「他に迷惑をかけず、自分の願望も満たすべきだと?美し過ぎる。贅沢過ぎる。感動して涙が出てくる」
【カズ】
「自分は決して二兎を追わん。求めるのは一つだけ。お前らだけなんだ」
【カズ】
「後悔は……しねぇよな?」
【タマ】
「……する」
【タマ】
「……裏神代を病気に、させたくはないだろ?ソラの故郷なんだぞ。神代出身のお前が今踏めば必ずそうなる」
【カズ】
「病気?いきなり何を言い出すかと思えば。留まらせたかったらもっと解りやすく言えよな」
【タマ】
「……そうか。なら言い直す。故障した現存の機械に無理やり別の機械の部品を使うとどうなる?」
【タマ】
「……正常に動いたようにみえてすぐまた故障しかねない。最悪修理不可能にもなりうる」
【タマ】
「……つまり簡単じゃないってことだ。お前が裏神代に今行くことは」
【カズ】
「……わけわからん。故意に遠ざけてるとしか思えない。自分に言えない秘密があるとしか」
【タマ】
「……カ、カズッ!」
【ソラ】
「はいバトンタッチ♪」
【ソラ】
「こういう裏事情があるんだよ。神代政府から預かった識別誓約書をもとに、裏神代政府は大急ぎで更新プログラムを構成中だってこと」
【ソラ】
「終わるまで待ってないとた――」
【カズ】
「……お前らが気を合わせるなんて気持ちわりぃぞ。夢でも現実でも旅が始まってからにしてくれや」
【カズ】
「自分は行く気があるのか訊いてる」
【タマ】
「……舞台が無ければあたし達はこうして巡り逢えなかった」
【タマ】
「……思い留まってくれ。招かれざる観光客をこれ以上増やせないのが両政府の本音なんだ」
【カズ】
「陥れたお前がそれを?」
【タマ】
「………」
【ソラ】
「……はしたないよ。巫女ちゃんはもう括っちゃった」
【タマ】
「タマもタマ。肯定も否定もしないんだもん。そりゃつけあがるだけだって」
【タマ】
「……だ、だってそれは――」
【カズ】
「……お前ら。今日はやたら仲良しだな。そんなに密着させてよ」
【ソラ】
「私が交渉してみるって♪」
【カズ】
「………」
【カズ】
「へぇ~、まだ我慢比べをしたい?こりゃお前らでも無理な現実だったということか」
【カズ】
「はは、世間に勝てないのは自分だけじゃなかったんだな」
【カズ】
「ならよぉ~。ねちねちと『明け』の明星を目指してないで、とっとと生かされる側に回ろうや?」
【カズ】
「これ以上巻き込むなよ。脇役を。しかも大御所をだぞ?」
【カズ】
「もし。もしお前らの心の中に」
【カズ】
「自分を必要とする条件にそれが含まれるというなら自分は今この場で現代へ旅立つ」
【カズ】
「……もう、解るよな?」
【タマ】
「………」
【カズ】
「タマ。滲み出てるぞ。言っていいんだ。我慢せず。自分を楽にしてやれ」
【ソラ】
「ダメ」
【タマ】
「……自分を褒めてるところだよ」
【ソラ】
「巫女ちゃんお得意の口説き戦術ちょっかい。相手を怒らす」
【ソラ】
「第一、私達も念頭に置くでしょ?どうすればバイオリズムを乱してくれるのか」
【ソラ】
「でも私達が乱したバイオリズムは種類が違う」
【タマ】
「……だ、だからあたしは乱してなんかッ!」
【ソラ】
「あのまま突っかかってたらどうなってた?」
【ソラ】
「『……調子に乗るな。あたしはお前の為を思って警告してるのに』」
【ソラ】
「『お前らは自分の心配だけしてりゃいいんだよ』」
【ソラ】
「『言葉の重みを結果で、優等さを振る舞いでちゃんと表してくれるから。何よりお前らにできないことはないと思ってるから。それだけで自分は……』」
【ソラ】
「『……本当は苦しいんだろ?本当は辛いんだろ?立ち止まりたくても立ち止まれないのは』」
【ソラ】
「『なのに自分は何もしてやれない。護るとか、信じるとか、そんな曖昧な約束しか。たとえお前らが嫌いと言ったとしてもずっと』」
【ソラ】
「私は――」
【タマ】
「……それ以上言うな」
【ソラ】
「後悔させることに関しては、巫女ちゃんの方が長けてると思うなぁ」
【タマ】
「………」
【タマ】
「……あたしは」
【タマ】
「……あたしはどうしてこんなヤツと関わってんだろ」
【タマ】
「……さよならすれば物語は終わるのに。記憶が離れようとしない。思い出すたびにイライラする」
【ソラ】
「うん。私もタマも生粋の主人公だからね。普段とはどこか違う別な感情を抱く」
【ソラ】
「それが一体何なのか。その時はまだ判らないけど、大抵は冷静崩壊の第一章。正体を知りたいから確かめたくもなる」
【ソラ】
「私達が生きたいと願って、次に本気で求め出すのはソレなのかもしれないね」
【カズ】
「………」
【カズ】
「て、てめぇらッ!無視するとはいい度胸だなッ!?自分も交ぜろッ!」
【タマ】
「……カズ」
【カズ】
「何だよ。仲間外れは卑怯だぞ。スルーするにしても」
【タマ】
「……あたしもやってみる。ソラと一緒に」
【タマ】
「……それと、必ずできるという約束じゃないから今のうち保険かけとくぞ」
【タマ】
「……叶わなくても駄々をこねるなよ」
【カズ】
「ダメならダメでいい」
【カズ】
「お前らと一緒にいられるなら何も要らない」
【タマ】
「………」
【カズ】
「あ~あ、一時的じゃなく、本格的に取り組めば神代も現代もしばらく安泰なのに~♪」




