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『明け』の明星(神代篇)  作者: どうしてリンコは赤いの?
81/89

青空報道同好会夏休み旅行計画

〈青空報道同好会夏休み旅行計画〉6月21日月曜日

【タマ】

「……すぅ~」

【カズ】

「………」


【タマ】

「……すぅ~、すぅ~」

【カズ】

「………」


【タマ】

「……すぅ~、すぅ~、すぅ~」

【カズ】

「(……こ、コイツッ!一昨日からずっと寝てやがんな)」

【カズ】

「睡眠が、ストレスを発散させてるというのか……」

【カズ】

「……そっか。それならよかった。本当によかった。相性はよかったんだ」

【カズ】

「なぁタマ。寝言でもいいから答えてくれないか?」

【カズ】

「何もせず時間だけを早送りしたいから”睡眠”を利用してるわけじゃないよな?」

【カズ】

「休むのも生きていく為の一つだなんて思っちゃいねぇよな?」

【カズ】

「頼むよぉ。示してくれ。あたしは劣等じゃない……って」


【タマ】

「『……言わなくても解るだろ?あたしもまた劣等。劣等なんだ』」


【カズ】

「お~い、タマ。生まれて始めての休養はどうだ?意外とイイもんだろ」

【カズ】

「陽が昇っては追われ、必死こいて繋いでいくしかない。そして陽が沈む頃にはすっかり疲れ切ってる」

【カズ】

「明日も似たようなもんだ。同じことを繰り返す」

【カズ】

「今はとにかく休め。時間になったら起こしてやっから」

【カズ】

「………」

こうしてタマを見てると、受験のワンシーンを思い出してしまう。

毎日欠かさず壁に寄り掛かっての就床で、決して横にはならなかったあの主人公のことを。

いつ襲われてもいいように、最低限の準備だけは怠らない武士のようだった。

【カズ】

「……ふぅ~。ったく、どうしょうもない神風だよ。お前は」

【カズ】

「時間だタマ。モーニングコール。起きてさっさと支度しろ。講義に遅刻する」

【タマ】

「……ん?」

【タマ】

「……あぁ、もうそんな時間か。でもしなくていい。今日はサボる」

【タマ】

「……ってことでおやすみ」

【タマ】

「……すぅ~、すぅ~、すぅ~、すぅ~」

【カズ】

「………」

【カズ】

「な、何だとぉ……ッ!?」

【カズ】

「お、おいッ!ちょっと待てタマッ!起きろッ!話があるッ!!」

【タマ】

「……んんッ!?も~う何だよ。結構なお点前だった。たてまえでもないから……」

【カズ】

「……お前の記念すべき一発目の夢はお茶会かよ。しかも本音を隠すなッ!」

【タマ】

「……お茶の味じゃない。あたしは一連の動作を言ってるんだッ!」

【カズ】

「……覚醒してんなら早く起きろよ。漫才相手は青空だけにしてくれ」

【タマ】

「……茶を運ぶだけの茶会でその返しは不適切だって?はは、そりゃ道理だ。あたしもまだまだ勉強不足ってことかな」

【カズ】

「も~う置いていくッ!そんじゃあなッ!」

【カズ】

「………」

【カズ】

「あ、そう。仮病を使ってでも”睡眠”に依存する?講義はサボっても、サークルには参加すると……仰りたい」

【カズ】

「……やるせないよホント。旅のお供が青空だけだなんて」

【タマ】

「……おい。聴こえてるぞ」

【カズ】

「とりあえず、不登校になった事情を話してもらおうか」

【タマ】

「……これだけは前もってはっきりさせておく。ソラは無関係だ」

【カズ】

「………」

【カズ】

「い、いやッ!何ていうか、どう切り出したらいいものか……」

【カズ】

「ひょっとしてお前って本当は、だらしない?めんどくさがり?」

【タマ】

「………」

【カズ】

「………」

【カズ】

「じ、じゃあッ!お前の家に何も無いのはそれを隠すためッ!?有れば小まめに整頓しなくちゃいけないから……だったのかッ!?」

【タマ】

「………」

【カズ】

「……はは、だんまりは図星ってことかい」

以前、青空からこんなアドバイスを受けたことがあった。


【ソラ】

「受験中は好き放題できたけど、現実での巫女ちゃんはボロが出るから寡黙でいいと思う。なんてたって大学の外に出れば優等なんだからさ♪」



【カズ】

「許されるなら何もすることはないってか。邪魔モノはいつだって排除したいと思うよな」

【カズ】

「くっくっくっ、この話の続きは帰ってからのお楽しみってことで♪」

【タマ】

「……ち、ちょっと待てってッ!」

【カズ】

「何だよ。自業自得だろうが」

【タマ】

「……そうじゃない。質問があるんだ。大学へ行ってまず一番にすることは?」

【カズ】

「講義に出席する。に決まってんだろ~?自分には時間がねぇんだ。遅刻は死を意味するんでな」

【タマ】

「……その後はどうする?」

【カズ】

「あ、あぁんッ!?もちろん話すんだよ青空に。そろそろ伝えとかないとマジでヤバイ」

【タマ】

「……だろうと思った。それはヤメとけ」

【カズ】

「なぜだ?」

【タマ】

「……気付いてる」

【カズ】

「言われるまでもない」

【タマ】

「……何もしてこないのは怒りを通り越してるってことだ」

【カズ】

「……あ~あ、ベタな理屈でちっとも面白く――まさか恐いのか?」

【タマ】

「……まさか」

【カズ】

「にゃは♪じゃ行きましょ~ッ!今すぐに♪」


【カズ】

「せ、先生今着きましたぁッ!同じくタマも……にゃは♪」

【カズ】

「(青空は……っとちゃんといるな)」

【タマ】

「……今日も欠席者は無しか」

【タマ】

「……抜擢されたからって、脇役の演技力に磨きをかけてどうするんだか。あたしには到底解せないな」

【???】

「………ッ!?」

【非常勤講師】

「は、早く席につかないかッ!」

【タマ】

「……道理だが、どうしてあなたがどもる?」

【タマ】

「……まぁ、うやむやで済まされるだけか」

【非常勤講師】

「………」

【非常勤講師】

「講義を始めるぞッ!」

【カズ】

「おい、陽動はその辺にしとけ。自分は間に合った」

【タマ】

「……陽動?あたしは未来を教えてやったんだ。神代と現代の舞台を一緒にされちゃ見るに堪えないから」

【タマ】

「……やっぱり、神代はつまらないところだな。お前もこいつら誘って現代を楽しんでくるのはどうだ?」

【カズ】

「今がバカンス中なんだけど?」

【カズ】

「んなことより、少し黙ってろ」

【タマ】

「……どうせ四面楚歌があたしの居場所だよ」

【カズ】

「………」


【ソラ】

「いやぁ~、あの登場はさすがの私も驚いた~。また徹夜で勉強みてもらったん?」

【カズ】

「あのな、青空。実は――」

【タマ】

「……おーい、カズ。学長が呼んでるって」

【カズ】

「学長?」

【タマ】

「……ヘマでもしたのか?」

【カズ】

「心当たりはねぇな」

【タマ】

「……だが、学長直々に呼び出しをくらうってことはよっぽどだろ」

【カズ】

「誰から頼まれた?」

【タマ】

「……ん?ああ、さっきの非常勤講師。話もすぐ済むって」

【カズ】

「ふ~む」

【カズ】

「しかしよ、お前がパシリを引き受けるか?しかもこのタイミングに。先生がお前に頼んだのもどこか違和感を覚える」

【タマ】

「……案ずるな。何も無い。そこまで想定できれば上等だよ」

【カズ】

「最後に一ついいか。どっちが意識を向けた?」

【タマ】

「……それって関係あるのか。妥協せず疑って探りを入れるのは感心だが――まぁいいか」

【タマ】

「……あたしだよ、あたし。お前の成績に影響が及ぶかどうか知りたくて」

【カズ】

「………」

【カズ】

「わりぃ青空。何かあると面倒だからちょっと行ってくる」

【ソラ】

「あいよ~♪」

【タマ】

「………」

【ソラ】

「………」

【ソラ】

「巫女ちゃんってさ、自己解釈が旨くいくとあっさり満足しちゃって、自分の答えを信用しちゃうんだよね」

【タマ】

「……ナルシストの宿命だろ」

【ソラ】

「間違いや違和感や矛盾がどれくらい隠されているのか解らないくせに、自分勝手に決めて、自分勝手にこれくらいだろうと安易に妥協しちゃう」

【ソラ】

「トドメに煽てて万事休す……はぁ~、よっぽどなのにすぐ話が済むはずないでしょッ!」

【タマ】

「……そう言うなよ。アイツはあたしやお前の話だってろくに聴きやしないんだから」

【ソラ】

「はは、言えてる。それに気付いたのはGW合宿?ああ言えば教えれば、こう思って考える巫女ちゃんの――」

【タマ】

「……悪いなソラ。時間が無いんだよ。カズが戻ってくる前に本題に入らせてもらう」

【ソラ】

「ねぇタマ。”とうしょうへい”って知ってる?」

【タマ】

「……また、か」

【ソラ】

「みんなにね、こんなアドバイスを贈ったんだ」

【ソラ】

「白でも黒でもネズミを捕るのは良いネコだって♪」

【ソラ】

「タマにとっておきの戒めだと思うなぁ」

【タマ】

「(……どちらかが好まれてどちらかが好まれない。でも結果さえ出せば文句は無いということか)」

【ソラ】

「ところでいいの?こんな教室のど真ん中じゃ、誰もがアンテナ立てて無料で情報を頂戴してるよ」

【カズ】

「………」

【タマ】

「(……このままじゃダメだ。主導権を持っていかれる。会話する意識が無いなら有るようにすれば)」

【タマ】

「……そうそう。カズは三竦の暗黙のルールを破ろうとしてるぞ」

【ソラ】

「わからないねぇ~。わからない。わからないよ。どうしてそんな真っ赤なウソをつくのか」

【タマ】

「……あたしもだよ。こんな上辺だけのやりとりで、この先お前と心をオープンにする日が来るとは到底思えない」

【タマ】

「……カズに二兎を追わすな。ソラ」

【ソラ】

「……ぷッ!」

【ソラ】

「あはははッ!だ、ダメッ!!我慢できなかったッ!!」

【ソラ】

「若かったんだね、タマって。まるで生まれたての赤子のように愛おしいったらありゃしない」

【ソラ】

「まぁ、何だ。認めましょう。も、もちろん渋々だぞッ!もっともっと互いを知るべきだと思うから我慢できるんだからね♪にゃは♪」

【タマ】

「………」

【カズ】

「(こりゃ……ダメだな)」

【カズ】

「いいかお前らッ!今日の講義終了後、部室に集合だ。自分がプレゼンする」

【ソラ】

「いきなり何さ」

【カズ】

「さっきお前に伝え損ねちまったから絶対的に出席しろよな」


【カズ】

「ここに集まってもらったのは他でも無い。予定をキャンセルしてまで運んでくれたことは本当に感謝してる」

【ソラ】

「前置きはいいっての」

【カズ】

「自分も含めて言えることだが、特にお前ら。上辺だけの関係が際立ってる。急を要する解決策が不可欠と判断した」

【カズ】

「三竦を誓ってから少し月日は流れた……が、関係性に一定の進展も見られないじゃないか。これは一体どういうことだッ!?」

【タマ】

「……ソラが話せば何もかも明らかになる。最短距離の解決策だ」

【カズ】

「青空。何も答えなくていい」

【カズ】

「……タマよぉ。てめぇらしくねぇこと軽々しく訊いて何様のつもりだぁ。自分を幻滅させる気かよ?」

【ソラ】

「自分もじゃん♪」

【カズ】

「そのとおりだなぁ青空。ただ今回はお前のノリに付き合うつもりは更々ねぇ」

【カズ】

「今の自分は……普通じゃ、ない。まともじゃない。読めるよな?」

【ソラ】

「巫女ちゃんのプレゼンを聴こうでないの♪」


【カズ】

「では諸君。旅先を発表する」

【カズ】

「その前に」

【カズ】

「最初に切り出したタマに決定権があり、そうはさせまいと密かに企みを考えてる青空」

【カズ】

「衝突の結果に自分も任せるつもりだった……だが気が変わった」

【カズ】

「いきなりで悪いが、自分に一任してくれ。どうだ?了承してくれるか?」

【ソラ】

「私はいいよ。一つ条件があるけど」

【カズ】

「言ってみろ」

【ソラ】

「家の外に出たことのない巫女ちゃんが、どんな風に私とタマを楽しませようとしてるのか。今この場で聴かせてくれるなら」

【タマ】

「……それがプレゼンだろ。そうだよなカズ?」

【タマ】

「……それならそうと、もったいぶらず早く教えてやれ。準備に精を出させろ。ソラのご機嫌取りはお前の役目だろうが」

【ソラ】

「正々堂々と戦えない腰抜けだけには言われたくなかったんだけどねぇ。確か昔、境界線上の中立者って呼ばれてたこともあったとか」

【カズ】

「………」

【カズ】

「……そうかい。ようやくわかった。どうやらお前らは自分を完全にナメきってるようだ」

【ソラ】

「私は決めてたよ。ギャップには素直に従うって。遊園地へ行ったらジェットコースターに乗らなきゃ帰れないのと同じでさ」

【タマ】

「……お前に覇気を使った時から決めてた。次はあたしが生死の狭間をさまようなスリルを味わいたいと」

【タマ】

「……譲れないモノは決して譲らない。今みたいにとことん本気になる。後のことはどうでもいい。どうにでもなれ。それがカズ」

【ソラ】

「タマには悪いけど、巫女ちゃんの話題じゃ負ける気がしないんだよねぇ~」

【ソラ】

「誰かがボケてもボケと気付かない。逆に誰かがボケというフォローを入れてるのに、理解する前に巫女ちゃんは満面の笑みで『天然です♪』と断言しちゃう。反射的にね」

【ソラ】

「タマに解るかな?巫女ちゃんは全面的に自分を受け入れていて、自分で自分を好きでいられてる証拠なんだ」

【ソラ】

「何ていうか、全てを真に受けるところがたまらない♪」

【カズ】

「………」

【カズ】

「だ、黙れお前らッ!自分をネタに挑発合戦を始めるなッ!」

【カズ】

「……ったく、油断の余地もありゃしねぇ」

【カズ】

「旅の目的はお前らが心を通わすことに尽きる。自分は二の次だ」

【カズ】

「無意味な時間を過ごすことはもはや解り切ってる。それでもお前らの記憶として残る。薄れても消えることは無い」

【カズ】

「そしてその後悔に悶えながら生き長らえるお前らを、自分は眺めたくて眺めたくてしょうがない……」

【タマ】

「………」

【ソラ】

「………」

【カズ】

「……んでな、考えてみた。一つの結論に辿り着いた」

【カズ】

「青空報道同好会。今この場で解散すっか?」

【ソラ】

「あぁ巫女ちゃん。割り込んでごめん。一つだけ。いつ決断したの?」

【カズ】

「今日だ。それもさっき偶然目の当たりしちゃってよ~」

【ソラ】

「いやはや、つまらない私をお見せしてわるぅござんした。にゃは♪」

【カズ】

「それだけか?」

【タマ】

「………」

【ソラ】

「あのさ、巫女ちゃん……言っとくけど」

【ソラ】

「弱みに付け込む回数は一回限り。それを今使っちゃうってことは、この先使おうと思っても使えないんだよ。それでもいいの?」

【カズ】

「逆に訊く。脅しを逆に利用するのは、お前らみたいな賢い主人公なら常識なのかもしれないが、そんなんで自分が怯むとでも?」

【ソラ】

「………」

【ソラ】

「くぅぅ~ッ!あ、あの巫女ちゃんがここまで本気を示すだなんてッ!」

【ソラ】

「タマもちゃんと焼き付けてる?私には刺激が強過ぎてドキドキが止まらないよ~。まだまだ生きたいと思えてきたッ!」

【ソラ】

「私と巫女ちゃんが一緒になれないのは、一体何なんだろうね」

【カズ】

「さあな。何だろう」

【ソラ】

「いずれは知ることになる。望んでもいる。逃げ続けるだけじゃ先延ばしにしてるだけだって自分を説得できたはずなのに」

【ソラ】

「私は恐れを拭えなかったみたい。ううん、それは一生拭えないのかもしれない。前に進むのがとてつもなく恐い」

【ソラ】

「こわいんだよ……」

【カズ】

「甘ったれんなッ!」

【カズ】

「知らないで終わりを迎えるなんて絶対的に後悔する。それだけは決して許してくれない。自分というヤツに限ってはな」

【ソラ】

「………」

【カズ】

「お前にはいつどこでも、自分とタマが隣にいるんだ。孤独じゃない」

【ソラ】

「巫女ちゃん……」

【ソラ】

「……聴かせて。どこに決めたの?」

【タマ】

「………」

【カズ】

「おいタマッ!さっきからなに傍観してんだ。お前だって無関係じゃねぇんだぞッ!」

【カズ】

「今のやりとりを見て、そう思ったんなら自分も従う。約束でも契約でも何でも破棄する。青空ともお別れだ。さあお前も決めろ。これからどうすべきなのか」

【タマ】

「………」

【タマ】

「……正直、まだ何とも言い難い」

【タマ】

「……お前らはあたしの先、ずっと先にいるような感覚なんだ。距離が違い過ぎる」

【カズ】

「道理じゃねぇかよそんなこと。今更何言ってやがる」

【タマ】

「……え?」

【カズ】

「あのタマが、神代全土を敵に回したお前が、まさかこんな弱音を吐くとはなぁ……」

【カズ】

「タマ。よく聴け」

【カズ】

「一緒になるかどうかなんて、思い出の数や時間の長さで決まるものじゃない」

【カズ】

「一つのきっかけで全てが決まる場合もあるようにな」

【カズ】

「お前の気持ちも聴かせてくれよ。溜めに溜め込んだ苦悩をさ。この際割って話そうや。な?」

【タマ】

「………」

【タマ】

「……ふぅ」

【タマ】

「……何から言おうか。カズ、ソラ」

【タマ】

「……まずはありがとう。始めてこんな気持ちになった」

【タマ】

「……明けの明星になるにせよ、あたしの模索する神現新の三竦作品にせよ、それを阻む一番の天敵は自分の幸せの結果だと思ってる」

【タマ】

「……もちろんあたしが神代ここにいるのは生きたいと願ったからだッ!」

【タマ】

「……どうして生きたいと思った?」

【タマ】

「……自分だけじゃつまらないと”孤独”が教えてくれたんだ」

【タマ】

「……その結果が現実だ。こんなに素晴らしく、こんなに美しい物語が出来上がった」

【タマ】

「……なのに、なのにあたしはそれを真っ向から否定するんだ」

【タマ】

「……理由を訊いてもだんまりを決め込む。答えは解っていたけど」

【タマ】

「……あたしは創る側でいるという確固たる気持ちと、生かされたいという根本的な気持ちとで葛藤していた」

【カズ】

「………」

【タマ】

「……答えは前者が先行した。遅れをとった後者は何とか巻き返そうと破竹の勢いで距離を縮めてきた」

【タマ】

「……前者は意図的にペースを落とした。もう一度競い合うフリを……」

【タマ】

「……そうだ。そうなんだ。お前らと同じ……逃げて、先延ばしにしただけ。いずれは一本化しなきゃいけないのに」

【タマ】

「……じゃないと後悔してしまうから。後悔だけはどっちもしたくなかったんだ」

【タマ】

「……どうなろうと心にだけは嘘はつけないよほんと。妥協の後悔だけは」

【タマ】

「……今だから。お前らだから言えることなんだがその……」

【タマ】

「……今度は後者を先行させてみよう……かなって」

【タマ】

「……ダメか?」

【カズ】

「………」

【ソラ】

「全然ダメじゃないよ。私も、巫女ちゃんも、タマと同じような境涯だもん……」

【タマ】

「……ソラ。お前」

【ソラ】

「……はは。私達ってホント、イデオロギーバカだよね。壊れてるよね。イッちゃってるよね」

【カズ】

「フッ。どうでも」

【タマ】

「……カズ。あたしの目の前で真似するとはいい度胸だな」

【ソラ】

「それもフリなんだってばッ!」

【カズ】

「どうでも。どうでもいいんだそんなこと。何だろうと類は友を呼ぶっていうし、似た者同士これからも仲良くしていこうや♪」

【カズ】

「……ふぅ。やっとか。やっと場が温まってきたッ!」

【カズ】

「よしッ!ここは景気付けに一発かまそうでないの」

【カズ】

「自分達が明けられた本当の黒幕。それは自分だ。黒幕なんだから真綿で首を絞めるように追い込むのを忘れるなッ!」

【タマ】

「……部長。部員の持ち時間は?」

【カズ】

「おい」

【ソラ】

「にゃはは」

【カズ】

「青空。見てのとおりだ。決断はしない」

【ソラ】

「駆け引きがうまくなったね」

【カズ】

「うるせぇ。こちとら冷や汗ものだったっての」

【カズ】

「……とまぁ~。いつものオチで悪いんだが、今日のところはこれで勘弁してくれねぇかな」

【ソラ】

「脱線以前に発車してなかったもんね」

【カズ】

「いつもながら本当にすまない」

【カズ】

「この後、図書館に閉じこもって自分なりに調べてみる。明日まで待ってくれ。それまでに何とかするから」

【カズ】

「質問はあるか~?」

【ソラ】

「た、タマッ!ほらっ、言っといた方がいいよ。二度手間は無駄な時間」

【カズ】

「ん……?」

【タマ】

「……誰もストレートでパスするとは言ってない」

【タマ】

「……つまり、補講日を加えて計画を立てろ。お前は、遅れて合流することになる」

【ソラ】

「うんうん。同じってやっぱり落ち着くね」

【カズ】

「(それがそうじゃないんだなぁ♪)」

ナルシストと焦りと天然持ちはこれだから助かる。

【カズ】

「それじゃプレゼンを始めっぞッ!教卓はまだ譲れんのだ」

【カズ】

「悪いがお前らは、常に同じ行動をとってもらう」

【ソラ】

「……修学旅行なのに自由時間が無いなんてテンション下がるなぁ」

【カズ】

「絶対的なルールを決めとかなきゃ何されるかわからないんでね。何より行動で示してくれ」

【カズ】

「しかしこれまた驚いた。神代は広いなッ!正直ここまでとは思わなかったよ」

【カズ】

「自分らに上は無い。有っても行けない。有るのは下と、視線の先に存在する壮大な景色だ」

【カズ】

「ノース地方。別名を真の神代。裏神代と隣り合わせも絡んでそう呼ばれてる……みたいだな」

【タマ】

「……みたいだな?おいおい大丈夫じゃないだろ。カズに任せてたら」

【ソラ】

「ね?だから言ったでしょ?これが巫女ちゃん♪」

【カズ】

「えーとなになに……審査基準が極めて厳しく、簡単には入国できないだと?てめぇ喧嘩売ってんのかッ!」

【タマ】

「……見てられない。どんなリアクションをしたらいいんだあたしは」

【ソラ】

「まぁまぁ抑えて抑えて」

【ソラ】

「巫女ちゃん。よく考えてみ。私達は無関係ぢゃん。学生証を提示すれば有無を言わせず入場できるんだからッ!」

【タマ】

「……待つんだソラ。それは早とちりってものだ」

【ソラ】

「そ、そっかッ!」

【タマ】

「……強制命令だとしても、潰れかけの政府じゃノースのトップもさすがに迷いが出るだろう」

【タマ】

「……しかも今は政府関係者がうようよしてる。法律改正の促しとか、ノース有権者説得で現場は緊迫してる」

【カズ】

「……冷静な分析を抜かなくとも。全部お前のせいだろうがッ!」

【タマ】

「………」

【タマ】

「……なぁ、カズ。ここまでの知識で一つ、疑問に思うことがあるだろ?」

【ソラ】

「ッ!?」

【カズ】

「疑問……?」

【カズ】

「そうだな……」

【カズ】

「どうして裏神代と同じ別名が付けられたんだろうな。どうも胡散臭い」

【タマ】

「……それはソラに訊けば解る」

【カズ】

「どういう意味だ?」

【タマ】

「……お、お前ッ!ホント何も知らないんだな。まぁ、あたしが仮に何者でも気持ちに揺るぎはないんだろうが……」

【ソラ】

「私の出身地だからね」

【カズ】

「そうだったのか。で、一言でいうとどんなところなんだ?」

【タマ】

「………」

【ソラ】

「成長することを進んでは喜べない。閉鎖的な社会だよ」

【ソラ】

「似たような雰囲気を一足早く味わいたかったらノース地方になるかな?」

【カズ】

「………」

【タマ】

「(……この持っていき方。あたしならどう見るだろうか?)」

【タマ】

「(……カズはまだ目的地を決めてない。様子を探って、この場で決めようとしてることはバレバレなんだ)」

【タマ】

「(……今は避ける。どこにするかは全てを知ってからだ)」

【カズ】

「ノース地方はまた別の機会にしよう。由来も聴かない」

【ソラ】

「ってことはウエスト地方かな?」

【タマ】

「(……なるほど。消去法か)」

【カズ】

「なるほど。消去法ね」

【カズ】

「ウエスト地方。別名を弱肉強食の神代。わざわざ自分らでルールを変えてまで、争いを好むんだから物好きの他ねぇな」

【ソラ】

「そう?私は好きだな。始めからオープンにツッパるの。隠しもせず堂々と闊歩するなんて、ハンパな覚悟じゃ無理だよ」

【タマ】

「……どうでも。あたしら観光目的には無縁の話だ」

【カズ】

「無益な現代送りはしないと?」

【タマ】

「……有益ならしていいんだな?」

【ソラ】

「そ、そういうのやめない?」

【カズ】

「やめるさ。ダイナマイトを背負ったお前らを火災ビルには入れたくないからな」

【カズ】

「ウエスト地方は候補から外すよ」

【ソラ】

「オトナになったね」

【タマ】

「……賢明な判断だ」

【カズ】

「しかし今思えば、神代政府も腑に落ちない方針を取ったもんだよなぁ。要因は現代への送り過ぎなのに緊縮策を一つとして打ち立てないなんてさ」

【カズ】

「お前ならなんか知ってるだろ?」

【タマ】

「……あんまり語りたくないがな」

【タマ】

「……他にとやかく言う前にまず自分から」

【タマ】

「……特定の獲物を探す無様な恰好より、後継者支援。それが神代政府の最優先事項だった」

【タマ】

「……結果を知らされた直後の感想を。現実を代弁するなら」

【タマ】

「……現代を創った神代……よもや親が子に呑まれるなんて思わなかった」

【タマ】

「……あたしも思わず同情してしまう。知るっていうことはつくづくおっかない厄介な存在だよ」

【カズ】

「………」

【ソラ】

「……わかるなぁ。創る側にとってそこはデリケートで難題……だもんね。現実は提供できるけど、好き嫌いまでは掌握できないし」

【タマ】

「……全く持ってそうなんだけど、カズには対岸の火事だったな」

【カズ】

「………」

【ソラ】

「にしてもよくもまぁ政府も、現代送りの口実を活かせなかったもんだね」

【タマ】

「……カズ。どうかしたのか?上の空だぞ」

【カズ】

「最悪なケースも考慮すべきなんじゃないか」

【カズ】

「解ってるさ。威厳は失われてもそれ相応の戦力を持ってることは」

【タマ】

「……その時は仕方がない。潔く諦めるんだな。主人公は無限の可能性を秘めてる」

【カズ】

「お前らもか……?」



【タマ】

「……根暗のノース。欲望のウエスト。平和のイースト。現代のサウス……か」

【タマ】

「……カズは結局、どこを旅先に選ぶんだろうな」

【ソラ】

「そういえばタマって、サウスにいくつか別荘持ってたよね?」

【タマ】

「……お前というヤツは。あたしが先に開いたんだぞ」

【タマ】

「……別荘というか、現代作品の試験的な意味合いで。返還したけど」

【ソラ】

「フツー、国有地を貸すかな?」

【タマ】

「……お後がよろしいようで」

【ソラ】

「逃げだッ!」

【タマ】

「……逃げじゃないよ」

【ソラ】

「逃げだよッ!」

【タマ】

「……逃げじゃないって言ってるだろッ!」

【ソラ】

「頑固だね。タマも」

【ソラ】

「………」

【タマ】

「……ソラ?」

【ソラ】

「ううん。何でもないよ。何でも。それはタマの思い過ごし」

【ソラ】

「私は下りるよ。巫女ちゃんに任せる。旅はその方が楽しいに決まってるから♪」

【タマ】

「……そこまで買い被れるのは、任せられると思ったから……なんだろ?ソラ」

【ソラ】

「本気だから……」

【ソラ】

「私とタマが、巫女ちゃんを本気にさせちゃったから……」

【タマ】

「………」

【タマ】

「……いきなりどうしたんだよ。帰り道が恐いならあたしが家まで付き添うけど?」

【ソラ】

「ごほッ!ごほッ!ごほッ!ヤバッ!飲み過ぎちった~ッ!!も~う動けないッ!」

【タマ】

「……余計に――」

【ソラ】

「お後がよろしいようで♪」

【???】

「よーう、久しぶり。神童恋。元気してたか?」

【???】

「てめぇらが一緒に帰るとは驚いた。大物も加勢。こりゃ退屈しないね」

【ソラ】

「こっちはこっちで、変えなかったことが本当に気休めになってるか心配だよ」

【タマ】

「………」

【タマ】

「……あたしは席を外した方がよさそうだな。この程度とは思わなかったから」

【ソラ】

「待ってタマッ!ここにいて」

【タマ】

「……で、用件は?今頃のこのこ出て来て挨拶回りでもする気か」

【???】

「安い挑発はまた今度にしてもらいたいね。アタシは神童恋に用がある」

【ソラ】

「ありがとうッ!こんな私なんかのためにわざわざ出向いてくれて。今なら自分も認めてくれそう」

【ソラ】

「負けを認めます」

【???】

「………」

【ソラ】

「ありゃ、もしかして通じてない……?」

【???】

「……いきなり、何を……?言ってるんだお前は……何抜かしやがる」

【タマ】

「……追い打ちみたいですまない。お前に生きてもらいたいんだよ。ソラは」

【タマ】

「……コンクールごとき参加を辞退したからって、実害が及ぶこともないと踏んで――祈ってはいるがな」

【タマ】

「……こう解釈させればいい。道中、性が邪魔に入ったせいで、けりをつけたくなったがつけられなかった。結果的に寄り道しなかった」

【タマ】

「……割り切れ。お前のプランに影響は無いはずだ」

【???】

「………」

【タマ】

「………」

【タマ】

「……やはり見込み違いか。裏神代の裏の裏をかけやしなかった」

【ソラ】

「……はいはい。はじめから知ってましたよ。タマを楽しませるのは無理な現実だって。誘っといて何なんだけど」

【タマ】

「……楽しんでるよ。お前らのおかげでな。大学に来てよかった。本当にそう思ってる。嫌味じゃないって」

【???】

「………」

【タマ】

「……お前も、そろそろいい加減気付いてくれよ」

【タマ】

「……ったく。めんどくさいから要点だけで勘弁な。早く帰ってあたしも少し、あの気持ちと向き合ってみたいんだからさ。頼むよ」

【タマ】

「……ソラもお前と同じ裏神代が送り込んだ工作員。だから地を踏めた」

【タマ】

「……裏神代政府がお前を表向きの後継者に仕立てあげる。ソラを引き立てるために」

【???】

「………」

【???】

「……どうして打ち明ける?それほどの国家秘密」

【タマ】

「……ソラ。もう我慢できない。これ以上は……生理的に無理」

【ソラ】

「今の私は『明け』の明星になる気がないってことだよ」

【ソラ】

「別の作品に引き抜かれ、脇役もあなたじゃなくなった」

【???】

「………」

【???】

「……アタシが割ったらどうなる?神代と裏神代の融合は夢に終わるのか?」

【タマ】

「……忘れたのか。もうサインしてる」

【タマ】

「……いや、どうだろう。確かにお前の懸念も一理ある。突然気が変わるかもしれない。裏神代政府はこの先どう出るかな」

【タマ】

「……でも神代政府から関係を絶つことはない。それは誰でも断言できる」

【タマ】

「……東西南北の中心にわざわざ本陣を構えるなんて、よほどの自信が無ければできない」

【タマ】

「……それほどの力を持った優等の集まりが窮地に追い込まれた。もはや頼るしか道は残されていない。プライドも納得させてる」

【タマ】

「……以前から裏神代は神代より優等という噂があったな?」

【タマ】

「……本当かどうか確かめたいはずだ。あたしという見通しが無くなった現状を鑑みれば尚更」

【タマ】

「……何にせよ、裏神代有利に協議が進められるのは間違いない」

【タマ】

「……快くは思わない」

【タマ】

「……だから、神代出身だった自分がやってやる――なんていう欲ははじめから持ち合わせてない」

【???】

「本当にいいのか。それで。本当に……?」

【タマ】

「……一番デキるヤツがやりくりしなきゃいけないなんてルールは、この先もしばらく施行される予定は無さそうだし。それで」

【タマ】

「……後悔も、葛藤も、後ろめたさも、もう無いあたしに何言っても全然入ってこないぞ」

【タマ】

「……何も」

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