面談(学長)
〈面談(学長)〉
こんこん。
【???】
「失礼致します」
緊張した気持ちというよりは、開き直った気持ちで入れた。
学長室ともなると、来客をおもてなしするような工夫を、ここまでやるのかと思うぐらい上品に施されていた。
やはり、少しばかり心に余裕を持ててる。
居心地の良さそうな席に誘導を促され、自分は学長の第一声に全集中を傾けることにした。
それでも、刀が飾っていることに興味が向かった。
同時に――。
【学長】
「私は刀が大好きでね。こうして飾っている」
【学長】
「特に名刀”つばめ”といって、私の自慢だ。あなたも知っているように」
【???】
「ええまぁ……でもまさか学長が、あの”つばめちゃん”だったとは予想外でした」
素直に驚き、素直に思う。
青空を。
驚きと見せかけて、本当の驚きはあえて教えない。
考えてみれば、アイツの常套手段だった。
【学長】
「どうですか。今の気分は?」
【???】
「おもしろいなぁって」
【???】
「創る側は自分の都合のいい設定で、物語創作に打ち込める。わかりきってるのに、納得がいかないや。はは」
【学長】
「生かされる側の宿命ですからね。それを嘆いても仕方ないでしょう」
【???】
「それで、お話というのは?」
入学試験以来の再会を、分かち合う呼び出しではないだろう。
【学長】
「そうですね。学長と学生が試験の思い出話をしたところで、今更ぎこちなさを感じるだけ」
――え?
【???】
「心が読まれた……?」
【学長】
「ふむ。その反応だと、ズバリ読みが当りましたか」
【学長】
「はは、できたらすごいでしょうね。読心術」
【学長】
「でも残念ながらその能力は許されておらず。誰もが自己の生成であり、他が入り込む余地は全くありませんから」
【???】
「さ、さすがは学長ッ!本当の第一印象で、こうもまざまざと見せつけられちゃ畏縮するしかありませんね」
【学長】
「私は学長の威厳を保ったまでです」
俗にいう”さきどり”
これは”瞬間”のようなスキルとは別の類だ。
神生経験がそれを育み、創る側にはどうしても欠かせない特技のようなもの。
自分は巫太郎として、学長はつばめちゃんとして、一緒に長い間暮らしてきた。
つまり、観察する時間は十二分あった。
【学長】
「では、話を戻します。私も色々と忙しいので」
【学長】
「あなたは、あなたの物語を創って下さい。話は以上です」
【???】
「………」
腑に落ちない。
担当教授もそうだったが、学長も要件だけの話で終わってる。
創る側とは、どうしてこんなにも、プライドの高い集団なのだろうか。
大学側がそれを貫く以上、新入生が警戒心を解くことも、垢抜けることも無いだろう。
本当にこのままで、いいのだろうか?
【学長】
「さきどりをされるということは、創る側からすれば最大の屈辱なのです」
【学長】
「創る側は常に先にある答えを悟られてはならない。提供する立場上」
【学長】
「だから無闇に感情を表に出せない。いや、出さないだけなのです」
【学長】
「出した方が絶対的にいい。そんなこと、百も承知だ。言われずとも」
【学長】
「だが主人公は欲深い。その葛藤に、こういう打開策が思いつくだろう」
【学長】
「両立させて、自分に逃げ道を作る」
【学長】
「私の神生経験を言わせてもらえば、それは理想論だ。『明け』の明星には到底なれない」
【学長】
「よほど器用――少なくとも私より優等じゃ無ければ。月日の経過がその可能性を蝕んでいくからな」
【???】
「本当に……そうでしょうか……?」
【学長】
「………」
【???】
「じ、自分の思ってる以上に、現実は甘くありません。それはわかってます」
【???】
「でも創るって、もっとこう……た、楽しいものじゃないですかね。過程を楽しむべきというか」
【学長】
「物語を創るなど、決して楽しいものではない」
【???】
「………」
【学長】
「神代は現代作品を提供する立場でもある。他の主人公を司るのだ。道楽で物語は創らない」
【???】
「で、でもですね――ッ!!」
【学長】
「フッ……どうやら腑に落ちないようですね。とことんあなたらしいですが」
【学長】
「それなら早く旅に出るといいでしょう。神代とはどんなところか。創る側の裏事情や苦労も解るはずです」
【学長】
「同時にそれはあなたの物語にもなる。異論はないでしょう?」
【???】
「………」
【???】
「……後悔しても遅いですよ」
【学長】
「ご忠告ありがとう。なら私が、後悔しない選択を選ぶまで」
【???】
「………?」
【学長】
「その意味は、すぐ解ります。すぐに」
【???】
「………」
【???】
「失礼しました」
部屋を出ても、最後の意味深な言葉の真意を考えようとはしなかった。
開き直っていたとはいえ、優等との絡みは疲れが尋常じゃなかったから。
とりあえず、退学でないことは確かなようだ。