神童(しんどう) 恋(れん)(戀)
〈神童 恋(戀)〉6月14日月曜日
【???】
「は~い、注目。今日は皆さんに作文を書いてもらいます」
【???】
「テーマは……そうですね。”自分の宝物”にしましょう」
【???】
「先生が宝物で~す」
【???】
「ははははは」
【???】
「………」
・
・
・
生まれてから幾とせかの後……。
巫太郎は桜麗町の駅の近くで、じっと佇んでいた。
【巫太郎】
「交通機関を使うべきか……」
【巫太郎】
「それとも邂逅橋を渡るべきか……」
【巫太郎】
「その前に言葉遣いを直さないとな」
【巫太郎】
「よしッ!決めたッ!」
少女は青空を見上げていた。
【少女】
「………」
【巫太郎】
「ッ!?」
何かから逃げるように、咄嗟に背中を向けた自分がいた。
【巫太郎】
「――見ただけで、涙が出てしまう――」
【巫太郎】
「………」
昨日夢を見た。
君に逢ってはにかむ自分を。
少年は徐に声を掛けた。
【巫太郎】
「明日の天気なんて知らなくたっていい」
【巫太郎】
「晴れようが荒れようが、明日になれば嫌でも知ることになるだろ~?」
【少女】
「ここで天気予報をお知らせ致します」
【少女】
「明日は雲一つない快晴の空に恵まれるでしょう」
【巫太郎】
「永遠にガキでいられるんだ」
【少女】
「ことわざに、嘘つきは泥棒の始まりってのがあるけど」
【巫太郎】
「でもってナルシストなんだ」
【少女】
「なんだ確信犯か」
【少女】
「願ったからには是が非でも手に入れないと気が済まないよね」
【巫太郎】
「だからといって何でもかんでも求めたりはしない」
【少女】
「いやいや、生かされなさいってば」
【巫太郎】
「葛藤してる……」
【少女】
「……私を求めてるの?」
【巫太郎】
「答えは面接でぶつける」
【少女】
「少し、お話しようか……」
【少女】
「……ふ~ん、巫女ちゃんは”客観”なんだ。で、子の模範解答は何なの?」
【巫太郎】
「………」
【少女】
「巫女ちゃん?」
【巫太郎】
「他の生き物をよく見てみろ。自立する。大人になっても親と一緒に住むなんてありえない。主人公がきいて呆れるよ。情けないよ……」
【少女】
「……で、どうあるべきなの?」
【巫太郎】
「可愛い子には旅をさせよ」
【巫太郎】
「中途半端は嫌いでよ……世の中の辛さや苦しみを経験させたいのなら最大限の環境下に置くべきだと思うんだ」
【巫太郎】
「ましてや自分という存在は、果たしてどこまでできるのか。知りてぇ。知りたくて知りたくてたまらねぇ。知らなくちゃいけねぇ」
【少女】
「これまた身勝手な言い分だね」
【巫太郎】
「はは、だよなぁ。やっぱ」
【少女】
「でも本当に愛してるんだ。自分を」
【巫太郎】
「絶対的な答えを教えなくした代償はさ、つまり各々の主人公が生きてく中で決めていけってことだよな?」
【少女】
「満足するまで聴くって」
【巫太郎】
「人を救いたければ救えばいいし、人を殺したかったら殺せばいいんだよな?」
【巫太郎】
「教えてくれないなら自分はその選択を全面的に支持するぞ」
【巫太郎】
「ただし後悔しないと誓えるならば、な」
【少女】
「矛――難しいよ。比較意識が事後に必ず悩ませへやってくる。強引に正当化しても、非を認めても、埃は残る――」
【巫太郎】
「仕舞いだ」
【少女】
「え?」
【巫太郎】
「天秤にかける選択肢がまだあるというなら、まず選ぶと思った方がいい」
【巫太郎】
「自分の下した選択を護り通せねぇ。やめといた方がいい」
【少女】
「い、い――い、意識はないの?そんなのただの強がりだよ」
【巫太郎】
「さっき明言したろ。ガキは嫌でもニンジンを食わされる」
【巫太郎】
「だが誰に何と言われようと自分は、自分だけは護り通せる」
【巫太郎】
「いいか青空……」
【少女】
「青空?」
【巫太郎】
「大抵、何をやらかしたとしても死にゃしねぇんだ」
【巫太郎】
「お前にはまだ理解し難い話かもしんねぇが、後悔しない選択をするのって、人間を楽しむ生き方と同じぐらいの幸せを感じられるんだぞ」
【少女】
「………」
【巫太郎】
「それができれば苦労しないってか」
【巫太郎】
「はじめの一歩は自分を過大評価……ちょうどいいのかもな」
【巫太郎】
「人が人を殺した。そんなちっぽけな悪さじゃなく、」
【巫太郎&恋】
「『神』が『人』を騙していたッ!」
【巫太郎&恋】
「あはははッ!」
【巫太郎】
「そっちの方が断然タチわるいって話よ」
【恋】
「はじめてだよ。こんな不愉快な気持ちにさせられたのは」
【巫太郎】
「どう反抗してやろうか」
【恋】
「う~ん、手掛かりを残すとは思えないし、何より確信を得られないのはイタイね」
【巫太郎】
「………」
【巫太郎】
「ところで、恋ちゃんはどこに住んでるの?」
【恋】
「ないよ」
【恋】
「親に捨てられ、今は堂々の住所不定無職だから」
【巫太郎】
「……なにも言うな。神童家の養女になってくれ」
【恋】
「いいの?」
【巫太郎】
「自分が何とかしてみせる」
いつもと変わらない町並みは、今もこの先も少年と少女をあたたかく迎え入れてくれる。
【恋】
「ねぇねぇ。前方にいかにもガンコそうな親父を発見ッ!」
【巫太郎】
「商店街を抜ければすぐだ。先を急ごう」
【恋】
「私は一歩も動かないよ」
【巫太郎】
「ど、どうして?」
【恋】
「足を挫いちゃったから。巫女ちゃんが無理に引っ張ったせいで」
【巫太郎】
「………」
【巫太郎】
「この辺に店を構えるオヤジ達はこぞってからかうんだ」
【恋】
「だから何なのさ。今更後悔させるつもりなの?」
【巫太郎】
「ご、誤解だってば。元々どっちでもよかった。ただ、願わくば――」
【恋】
「うぅ……足が痛くて動けない。誰か大人を呼ばないと」
【八百屋のオヤジ】
「よぉ~、でこ坊。へへっ、こんな真っ昼間からデートか?まだ早いんじゃねぇかな」
【巫太郎】
「いもうとだよ」
【八百屋のオヤジ】
「こ、このやろう。もっとマシなうそつきやがれ」
【巫太郎】
「………」
【恋】
「はやくおうちにかえらないとママにしかられる。おんぶしてよお兄ちゃん♪」
【巫太郎】
「きょうだけだぞ。よいしょっと」
【恋】
「にひひ♪やったー♪」
【八百屋のオヤジ】
「………」
【八百屋のオヤジ】
「一体どうなってんだ……」
【巫太郎】
「………」
【母じゃ】
「………」
親とのお約束事を破ると、まるで蛇に睨まれた蛙のような思いをする。
【巫太郎】
「まま?」
【巫太郎】
「こわいんだけど……」
【恋】
「………」
【巫太郎】
「だからこわいよ~」
【母じゃ】
「ほんとうは、ただのがーるふれんどなんでしょ?どうなの」
【巫太郎】
「ううん。ちがうよ」
【巫太郎】
「このおんなのこはね、ボクのいもうとなんだ」
【巫太郎】
「い、いたッ!」
【母じゃ】
「しっかりしなさいッ!ひとりっこでしょ。おとうともいもうともいないのッ!」
【巫太郎】
「め、めのまえにいるじゃんかッ!」
【母じゃ】
「あら、そう。まだ駄々をこねる」
【恋】
「ッ!?」
【母じゃ】
「ふ~ん。その歳で、私の可愛い巫女ちゃんをたぶらかすなんてやるじゃない……」
【巫太郎】
「(もう我慢できない)」
【巫太郎】
「か、母さんッ!?」
【母じゃ】
「止めなさいッ!本性を現すのだけはッ!」
【母じゃ】
「デキる巫女ちゃんが素顔のままでどうするのッ!俗の幼稚園児を演じなさいといつも言ってるのにまだわからないのッ!」
【巫太郎】
「わからないねぇ~」
【母じゃ】
「え?」
【巫太郎】
「だって隠すより、現実で魅せつけた方が寄ってくるだろ~?」
【恋】
「………」
【母じゃ】
「巫女ちゃんが、誰かを連れてくるなんて考えもしてなかったからビックリしちゃったけど。そういうこと」
【母じゃ】
「でもね、難しいと思うわ。世の中そんなに甘くないの」
ピ…ン…ポー…ン…ッ!
【巫太郎】
「………」
【母じゃ】
「……あら、誰かしら。パパかな?」
【巫太郎】
「……紅里子ちゃんだと思うよ。またウチの物干し竿を勝手に持ち出して――」
【恋】
「紅里子ちゃんって?」
【巫太郎】
「会ってみる?」
【恋】
「うんッ!」
【巫太郎】
「砂遊びももう卒業だな」
二人のお姫様にも卒業証言を授与した。
【巫太郎】
「それでいて、4月からおれと恋ちゃんは初等だ」
【紅里子】
「嫉妬からの自慢~?いやいや、稚さが全く感じられないんッスけど?」
【巫太郎】
「お前は影響をもろ受け過ぎだ」
【恋】
「にゃはは」
【巫太郎】
「……はぁ~、気付けば恋ちゃんは紅里子ちゃんが独占ってか。おのれ横取りしやがって」
【恋】
「だって女の子同士だし~♪」
【巫太郎】
「ここは目を瞑ってやろう……」
【巫太郎】
「………」
【巫太郎】
「あぁ~ッ!何かいんずいッ!」
【巫太郎】
「次の代は人間が創造するッ!!」
【巫太郎】
「うぅ……そう思いたい。その現実が欲しい……欲しいよ~」
【巫太郎】
「はぁ。欲しい……」
【紅里子】
「……いきなりどうしちゃったんッスかね?」
【恋】
「砂場の中心で叫びたい年頃なんだよ。放置放置」
【紅里子】
「う~ん、紅里子にはさっぱり。男の子って何がしたいの……?」
【恋】
「多分。多分だけど……」
【恋】
「戦国時代に自動車を持ち込みたいんだよ」




