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『明け』の明星(神代篇)  作者: どうしてリンコは赤いの?
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調印式

〈調印式〉6月1日火曜日

【教授】

「講義は以上。続けて調印式に意識を向けようではないか」

【カズ】

「(頼むぞタマ。何とか、何とか乗り越えてく――)」

【カズ】

「青空……?」


【神代報道官】

「………」

【神代報道官】

「お集まりの皆さん。お約束どおり、質疑応答の時間を設けてあります。マスコミ各社の質問を今を持って許可致します」

【マスコミ】

「裏神代最高責任者であるあなたが、神代への侵入を指示したのですか?」

【ソラ】

「はい。私が侵入した後に」

【タマ】

「……驚くのは自由だが、見合った質問をすべきだよな」

【マスコミ】

「…………」

【マスコミ】

「あなたは……?」

【タマ】

「……はぁ~。これだから劣等は」

【ソラ】

「いやだなぁ~、調べといて下さいよぉ~。表向きの肩書きはご存じでしょ?マスコミの方々でも♪」

【ソラ】

「手前、今年度の『明け』の明星コンクール大学の部で優秀賞を取るんだから♪にゃは♪」

【タマ】

「……くっくっくっ。笑わせるなって」

【ソラ】

「私が……ソラです。以後お見知りおきを。最高責任者」

【最高責任者】

「………」

【裏神代最高責任者】

「………」

【マスコミ】

「では改めて。経緯をお聞かせ下さい。あなたには説明を行う義務があります」

【ソラ】

「そうさね、青空を見上げていた。ううん、そのずっと先を」

【マスコミ】

「へ……?」

【ソラ】

「そしたらね、ぶつかったの。長かったなぁ。だって底辺からの眺めだったから」

【マスコミ】

「………」

【ソラ】

「にゃはは、ジョークですよ。ジョーク。政治家だって時にはユーモアを取り入れるでしょ。空気の入れ替えは余計でしたか?」

【マスコミ】

「ふざけてるのか……」

【ソラ】

「皆さんに質問があります。夢とは何でしょう?」

【ソラ】

「夢とは本来、自分が現在に至るまで歩んできた全てのモノの中から無作為に抽出され、意図しない物語を創ります」

【ソラ】

「従ってめちゃくちゃな物語が出来上がります。時には良かったり、時には悪かったり」

【ソラ】

「神代の現実は、私の中に眠る想像性と好奇心を育て上げました。そしてそれはしまいに、妄想へと変わった」

【ソラ】

「イメージしたものが、まるで事実であるかのように堅く信じ込んだのです」

【ソラ】

「主人公というネタが絡むと起因は予測できない。タマとて例外ではないはず」

【タマ】

「………」

【ソラ】

「私は、夢遊病に罹っていました」

【ソラ】

「私という存在は、私の与り知らないところで向こうの地を踏んでいて、すぐ拘束されました」

【ソラ】

「当然の結果でした。何も知らなければ講じようもありません」

【ソラ】

「その理由……についてですが」

【ソラ】

「本当のことを言うと自分にもわからないのです。瞬間は無意味で、記憶も無かったですから」

【ソラ】

「その後、取り調べを受けました。しかし、話は一向に進みませんでした」

【ソラ】

「このままじゃ埒が明かないと、夢から覚めたら改めて戻ってくるよう言われました」

【ソラ】

「私はそれを、夢から覚めた後知りました。一部始終を記録してくれていたおかげで」

【ソラ】

「最初はにわかに信じられませんでしたが、そこは信じる信じないではないことに気付きました」

【ソラ】

「現代風にいえばこうです。目の前に幽霊がいたら、恐い恐くないではなく、純粋に話してみたいと」

【ソラ】

「皆さんは、どんな会話になるのか興味が湧きませんか?ありえなかった現実が目の前にあるのに、ただ指をくわえて事がおさまるまで待つのはどうも性に反する」

【ソラ】

「私は行きました。単独で」

【ソラ】

「そこで始めに目の当たりにした光景。それは、」

【ソラ】

「現状以上の成長を拒んでいた」

【ソラ】

「それは裏を返せば優等過ぎたからで、限界が見えない現実に嫌気がさしたとでもいいましょうか」

【ソラ】

「成長ってなんだろう?」

【ソラ】

「限界があればどんなに楽だろう?」

【ソラ】

「明確的な終着点、絶対的な答えさえあれば、こんな疑問を抱かなくて済んだのに」

【ソラ】

「終わらせてくれないのはなぜなんだろう?この神代でさえ、生かされる側だというの?」

【ソラ】

「そっちがその気なら、進むのは止めよう。時間を止めよう。そして、」

【ソラ】

「神形みたいに動かなくなって、永遠に輝こう」

【ソラ】

「二回目も時は止まっていた。誰も動いていなかった」

【ソラ】

「指示を受けた場所に着くまで、その光景が変わることはなかった。言葉なんかでは到底表せない複雑な気持ちだった」

【ソラ】

「優等は劣等に興味を持たない。優等はあくまで上を向く。張り合いは無くせない」

【ソラ】

「皆さんはどうお考えでしょう?神代の上には代がまだあると決定付けるのは早過ぎると思いませんか?」

【ソラ】

「私は必ず気を引く確かな情報を提供しました」

【ソラ】

「両者が、お互いにお互いの存在を認めているということは、少なくともいつかは接触の時が訪れる」

【ソラ】

「私がタマを推しました。面識は無くとも、ずっと前から見抜いていましたから」

【主席補佐官】

「………」

【ソラ】

「タマなら、気を起こさせるんじゃないかなって」

【ソラ】

「現実を知らしめたかった。ただそれだけです」

【ソラ】

「私は……重罪です。売国奴です。処分は神代の皆さんが決めて下さい」

【ソラ】

「でもどうかこれだけは聴いて下さい。私はどうなってもいいッ!けれど、この巡り合わせを決して無駄にはしないで下さいッ!」

【ソラ】

「きっと、きっとこの接触は何らかの意味を持っていると思うんですッ!」

【ソラ】

「こっちはこっちが神代で、あっちが裏神代といい、あっちはこっちが神代で、あっちは裏神代という主張合戦に、まずは終止符を打ちましょうッ!」

【ソラ】

「そして皆さんも、自分の意志で、”新しい神代”を切り拓いて下さいッ!」

【ソラ】

「明けを……どうか……私はどうなってもいいから……ひっくひっく」

【タマ】

「……ソラ、もういい。お前は少し休め」

【タマ】

「……ここからはあたしが」

【タマ】

「……その後、外交官があたしを呼び止めた。同行を願いたいと」

【タマ】

「……あたしは即座に了承した。幽霊と話したかったから」

【タマ】

「……話してすぐ、雌雄は決した」

【マスコミ】

「ま、まさか、優劣の決め方は口喧嘩……ではないですよね?」

【タマ】

「……当たり前だろ。にらめっこだよ」

【マスコミ】

「………?」

【最高責任者】

「………」

【裏神代最高責任者】

「………」

【神代報道官】

「調印は無事交わされました。今後細かい問題を詰めていき、早くて数年後には完全に行き来できるようになるかと思います」


【カズ】

「………」

【カズ】

「青空……」

【カズ】

「……ん?」


めでたい気分を壊すかのように、タマが悪意に満ちた雰囲気でいきなり前に出始めた。

【タマ】

「……いいか。よく聴くんだ。この場で立場をはっきりさせておく」

【タマ】

「……あたしがいるから神代の安全は護られる。あたしがいるから裏神代は迂闊に手を出せない」

【タマ】

「……さあどうする?”新しい神代”の皆さん」

【タマ】

「……お前がいなくてもやっていける」

【タマ】

「……それでいい。それで、な」

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