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『明け』の明星(神代篇)  作者: どうしてリンコは赤いの?
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退学確定?

〈退学確定?〉4月16日金曜日

【担当教授】

「さすがは皆さんです。未提出者は誰もいませんでした」

今週二回目の必修の講義が始まり、いきなり何を言うのかと思ったら、労いの言葉をかけてきた。

レポートは学生の義務であり、提出は当然である。

と言いつつも、誰かはいると思っていた自分がいたのも確か。

油断も隙も見せない状態が今後も続くわけだが、果たしていつまでいられるのか。

考えてみると、ゾッとする。

これが程度の低い大学だったら、おそらく半分は消えていただろう。

【???】

「(そんなことを思うのは自分だけか……)」

【担当教授】

「では、講義を始めます。皆さん、準備はいいですか?」

再確認を促す担当教授の質問の真意を、目にも留まらぬ速さで考える学生達に緊張が走る。

【担当教授】

「とその前に、これをお配りしなきゃいけませんでしたね」

意図的に調子バイオリズムを狂わしているのか、一枚のプリントが配られていく。

~面談のご案内~

・皆さんの今後のプランついて、提出していただいたレポートをもとに、各々面談を行います。

面談の日程は下記参照。

以上。

【???】

「………」

自分の面談日程は、どこにも記載されていなかった。

それはすなわち退学を意味する。

予想はしていた。

ここは神代であり、物語を創ることが全てに優先する。

創る気が無い学生を置いておくはずもなかった。

それでいて、自分の理想感情を入れる余地など、どこにもないということ。

創る側が創作にあたって、生かされる側の立場に立って物事を考えるのも確かだが、決してそのまま流されてはいけない。

創る側というのは、常に冷静でいなければならないから。

自分では覚悟してるつもり。

でもそれは、一方的に自分に言い聞かせてるだけで、問題解決には至ってない。

到底受け入れ難い、思わず目を瞑りたくなるようなネタを取り入れなくては、物語として意味をなさないと。

『明け』の明星を目指すにあたって、いずれぶち当たるこの壁は避けては通れない。

それをどう乗り切るかなんて、どうでもいい。

自分がこの大学に入りたいと思った理由は単純だ。

優等が集まる場所だから。

人間物語を経験して、より確信した。

長い物には巻かれろ。玉の輿に乗る。

そういったアドバイスは真摯に受け入れるべきだと思っていた。

もっとわかりやすく言おう。

自分が考える理想の物語を現実の物語として創ることが夢であった。

それは決して難しくない自分に見合った理想の物語……。

神代だからできると信じてた物語……。

自分のしたいことをただする物語……。

その夢は今、跡形もなく崩れ落ちようとしている。

生きてれば妥協する場面はいつかは訪れるが、振り返ってみれば自分の納得できる選択をしてきた。

妥協できていた。

これも妥協できそうだ。

潔く生かされる側に回ろう。

いや、そもそも自分は生かされる側だったのだ。

創られる側の中にだって、必死に創る側として生きようとしている主人公はゴマンといた。

かといって、創るのはどの代でも勘弁だ。

現代に行ったら、目の前のルールに従うことはせず、創作者の意図したルールを暴く生き方をしてやる。

確信は得られなくても。

自分の座右の銘と言うべく、あの言葉がよぎる。

”優等は劣等をも演じることができるが、劣等は優等を演じることができない”

それはまるで、神代で創られた現代のように。

優等が劣等を利用するように、劣等も優等を利用しなきゃやってられない。

だからここに来た。

誰もが理想を押し殺して、それを何かで紛らす生き方は哀れ過ぎる。

自分が気付けたんだから、誰だって気付いているはずなのに、誰も何も言わない。何もしない。

それが答えなんだろう。

ならせめて自分だけ、と思って、自分の全てを賭けた。

それは、まるでギャンブル。

本気に次は無い。

次が有るのは現代の連中だけで十二分だ。

【???】

「………」

ぶっちゃけた話、神代のその習わしは、自分も気に入ってる。

【???】

「(悪いなぁ、青空。お前を本気で信じかけていたのに、信じるとまでは至らなくてさ……いや、信じてた)」

今更嘆いても言い訳にしかならないが、今の関係を深めるには、後はきっかけのみだった。

【???】

「あぁ~ッ!!」

【???】                

「誰かの面談が無い。未提出者はいないはず。しょうゆことだ……?」

どんな状況下に置かれても、決して自分を見失わない青空の、最後のボケを聴けて自分は心底嬉しかった。

同時に悔いる気持ちも湧いてきた。

恩を仇で返す形になってしまって。

【???】

「……ったくよ~、いちいち言わなくてもいいだろ。自分だよ、自分。自分は退学ということだろうよ」

【???】

「それだけで、私は満足なのにさ」

【担当教授】

「いえ、そういうわけではないのですが」

【???】

「で、ではどういうことなんでしょうッ!?」

予想外の急展開を目の前に、内心では歓喜の雄たけびを上げていた。

【担当教授】

「あなたはレポートを提出期限までに提出しました。退学ではありません。再提出ということです。だから面談の日程も組めなかった」

【???】

「要は退学ではないと?」

【???】

「はい」

流れからして、あからさまに喜びを表すのもどうかと思い、心の中でガッツポーズをした。

どうして今の今まで気付かなかったのか、重要な点を一つ見落としていた。

神代――特に創る側にいる連中は哲学的に物事を捉える傾向にある。

大学側は、内容評価の条件をどこにも記載していなかった。

といっても再提出。単なる命拾いに過ぎない。

【担当教授】

「しかし変更はできませんので、あなたには講義終了後、即面談を行ってもらいます」

【担当教授】

「それに、再提出を求めたところで繰り返しの道を辿るでしょう。そうは思いませんか?」

すでに先を見抜いてらっしゃる。

【???】

「……む、無駄のない対応で。自分も覚悟を決めなくてはいけませんかね」

【担当教授】

「その話も含めて面談で。この講義が終わったら私の研究室に来て下さい。次の講義は出席扱いにするので心配いりません」

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