一般入試の概要
〈一般入試の概要〉5月29日土曜日
とうとう追い付かれた。
いや、むしろ待ち望んでいたのかもしれない。
思い出という過去に懐かしさを感じ、それに浸りたいと思う自分。
その後不意に襲いかかる比較意識からの自問自答。
昔があるから今がある。否応でも前途の方向性を出す羽目になる。
出るのはいい。
ただそれが、本意とはかけ離れた道に進むんじゃないかと危惧してるだけである。
移り気は、たとえ強い信念を持っていようともよく罹る病気だ。
目の前のネタ、変化、環境といった現実に何の予備対策も立てず、臨機応変の処置を取れるほど自分は器用じゃない。
どう感じるか。どう変わるか。どう思うか――全ては自分が決める。未来で待ってる現実ではない。
この無様な強がりはあいつらには決して見せられない……。
……今はそんな、もどかしく、複雑な心情。
【カズ】
「………」
【カズ】
「……ふぅ」
【カズ】
「やっとか。やっと一歩を踏み出せる」
【カズ】
「………」
【カズ】
「くっくっくっ。重要……重要なんだろうなきっと。不思議とそんな気がしてならない」
今年度のAMUは過去に例を見ない受験者数で犇めき合った。
事態を重く見た大学側は、それを逆手に取るかのように全ての志望者にチャンスを与えたのだった。
試験会場はもちろん、人間物語の模倣舞台。状況による変更を良しとしなかった。
受験番号0608560。自分は運良く、主人公である人間に選ばれた。
しかも主演の神童巫太郎。
もはや作為的に抜擢されたとしか思えないほどの悪運が続いた。
そもそもの話、劣等の自分がどうして、最高峰に君臨するこの大学を志望できたかにはそれなりの理由がある。
評価基準が明確ではなかったということ。何を評価して、合否を決めるのか定かでなかったのだ。
神代の性と言うべきか……妥協して得る結果や不結果より、妥協しないで得る不結果の方を優先的に選ぶ癖みたいなものが、自分にもあると分析してる。
次に役柄の設定を振り返ってみる。
女の子好き。
タマが三竦理論なら、神童巫太郎はそれに当たる。
とはいえ喧嘩好きと噂がやらかす伝染病の流行により、どこもかしこも女の子は好感を抱いていなかった。
学力並びに運動神経抜群。その他どの分野も精通。おまけに美少年。まさに誰もが夢見るこの優遇は高等上級まで続いた。
細かい役柄設定まで取り上げると、身長は180㎝前後。誕生日は1月11日。
当時、三種の神器(アブソリュート)と勝手に呼んでいた綿棒、ポータブルオーディオプレーヤー、万年制服だけは常に欠かさなかった。
以下、自分に纏わる略歴である。
幼年時代――近所から『でこ坊』というあだ名で親しまれる。
幼年時代(年中)――観測記録上1月14日に快晴神話が始まる。
初等時代――『物を作る事』を趣味としていた。
中等下級――梓姉ちゃん(当時:中等上級)と出会い、『不良の道』へ進む。
中等中級――梓姉ちゃんの卒業と同時に、意志を受け継ぎ不良の道へ進むも、春夏先生の妹である『秋恩師』に改心させられる。
中等上級――『人間観察』をしていた。
高等下級――両親が雪国へ、代わりにつばめちゃんが我が家へやって来る。
同級、『この世に生きる全ての女の子を幸せ』にするという大志を抱く。(※1)
同級、女の子にモテモテの忍、幸之助と沙耶香ちゃんに始めて出会う。
高等中級――五右衛門に始めて出会う。
高等上級――丈三に始めて出会う。
同級、観測記録上1月14日に快晴神話が崩れる。
(※1)ブラックリストに載るほど、桜麗町(田舎)と帝桜町(都会)では悪い意味で有名であった。
受験生はこの二つの町で受験に臨み、行き来には邂逅橋と交通機関が用意されていた。
試験開始直前に告げられた注意事項は以下のとおり。
・誰が受験生で、誰がサクラかは不明。
ここでも、神代の性が鬩ぎ合ってくれる。
見破るか、見破られるか。
それが評価対象になるのかどうかは別として、自分の関心はそういった醜い駆け引きとは無縁の立ち位置にあった。
生かされる側。
に立って、今と似たような気分を味わいたかった。
多分、将来を見据えて挑んだサクラ寄りの受験生も紛れ込んでいたはずだ。
かといって、途中退席は自殺のみだったから生半可な気持ちでは腹を決めるのに時間を要したことだろう。
自分に限っては、特に意識することなく、突如課される特別問題を必死ながらも、淡々と解いていた。
【カズ】
「………」
【カズ】
「だよなぁ。やっぱ……」
問題は問題でも、断トツで目を引く問題があった。
それはいつも一番最後に待ち受けている大将。
”今までに関わった人物の中から任意に選択し、その対象者と描く未来のシナリオを卒業式までに提出せよ”
課されたのは1月14日……。
たった一日、けれど一生を懸命したかのようなあの達成感。
忘れやしない。
今までの努力が報われた日を。
誰が成し遂げたかなんてどうでもいい。
結果さえ付いてくれば。
『この世に生きる全ての女の子を幸せ』にする上で――。
やっと対等の立場に立てたのだから。
【カズ】
「くっくっくっ。確かにその日からチヤホヤされたが、意味が違うんだよ。意味が。認識の履き違えなんぞにバイオリズムを乱して自滅とはなぁ――ッ!?」
【カズ】
「あ、青空はッ!コウとサヤが絡んでくると踏んでるのか……ッ!?」
【カズ】
「もしそうならどう関わってくる……?」
【カズ】
「………」
【カズ】
「……わかるはずもない。迷路にハマるだけだ」
自分は9人に絞った。
その中に青空は含まれてはいない。
どんな魅力的な女の子がいたとしても、現実と向き合うならば元より青空以外考えられなかったからだ。
その矢先、大学側はこの誘惑をぶつけてきた。
それは却って自分をエゴイズムにさせた。
女好きという役割を考慮すれば、自ずと”恋愛”をテーマにするのは自然の流れだった。
つまり、9通りのシナリオを提出した。
下書きは多少なりとも記憶してあるから、追々にして蘇るはずである。




