心のテロ
〈心のテロ〉5月26日水曜日
【タマ】
「……カズか。相変わらず単純なヤツだなぁ」
【カズ】
「………」
【カズ】
「……くっくっくっ、ハハハハハ――ッ!」
【タマ】
「………」
【カズ】
「あ、いや、いきなりすまんッ!お前が飛び込んできたから思わず吹き出てしまった」
【タマ】
「……あたしは研究室にいるって言ったろ。いやいや、来たのはお前の方だ」
【カズ】
「そういや演芸部に勧誘された時、青空に言われたっけ。笑いを取りたきゃ徹底的に自己分析しろと」
【カズ】
「部員になる気なんて更々無かったし、自虐的にこう切り返してやったんだけどな」
【カズ】
「自分の存在自体が笑いを迸ってる」
【タマ】
「………」
【カズ】
「特に意味は無い。聞き流していいぞ」
【カズ】
「それよりも……あの会見でのお前の誘いに誰も乗らなかったのは、単に余裕が無かったからなのか。それとも集団イジメなのか。そっちの方が気になる」
【タマ】
「……どうだっていいだろ。そんな疑問」
【カズ】
「どちらにしろ神代の限界を露呈した」
【カズ】
「……と感じて、思ったことが一つある。それは”そんな疑問”じゃない気がして」
【カズ】
「自己成長と自己否定の境界線はどこで引くべきなんだ?」
【タマ】
「……さあな。各々の認識で全て変わってくるから一概には言えない」
【カズ】
「自分の本当の欲求を押し殺してまで他と溶け込み生まれた、その結果を真に成長と呼ぶべきか」
【カズ】
「それとも、妥協できないことはとことん許さず、一匹狼のような生き方で生まれた結果を真に成長と呼ぶべきか」
【カズ】
「干渉によって日々変化していく自分を、果たして本当の自分であると自信を持って断言できるんだろうか……?」
【カズ】
「妥協は自己否定のはじまりじゃないのか……?」
【カズ】
「わからない……」
【カズ】
「……わからないが、自分は何があっても、自分だけは否定したくない。改めて思った」
【カズ】
「お前も言葉の重みを知ってる。よかったら聴かせてくれないか?判断材料にしたいんだ」
【タマ】
「………」
【タマ】
「(……認めるだろ?これだからあたしは魔王なんだ)」
【タマ】
「(……打倒魔王を掲げてる勇者を野放しにするなんてどうかしてる)」
【タマ】
「……答えに本当の答えなどありはしない。延いては全てにおいてな」
【タマ】
「(……ッ!?)」
【タマ】
「………」
【タマ】
「……後はお前次第だよ。カズ」
【タマ】
「……ああそれと、あたしは貸し借りが大嫌い。知ってるよな?借りは今すぐ返してもらう」
【タマ】
「……主人公はどうして、生を持ちたいと願ったんだろうな。未だに納得のいく答えに辿り着けないでいるんだ」
【タマ】
「……お前はどう考えてるか聴かせてくれ」
【カズ】
「……心のテロだな」
【タマ】
「………?よく聴こえなかった」
【カズ】
「いいぜ。お前が気に入る返答をしてやるよ。それは機嫌取りでも飾りでもない。本心だ」
【カズ】
「求めるのは一つだけでいいのに」
【タマ】
「……全然――答えになってないじゃないか。ま、そういう逃げ方は嫌いじゃないけど」
【タマ】
「……確かにお前の考えてるとおり、時代の変化と共に増え続ける欲求のバランスを考慮しつつも、いかにそれを制御できるかが今後の行方を左右する」
【タマ】
「……もちろん、いくらお願いしても有権者の心を動かすことはできない。アレは忘れてくれ」
【タマ】
「……じゃあどうすればいいか。どうすれば、より長く土台維持できるか」
【タマ】
「……仕向けるんだよ」
【タマ】
「……生かされる側は変えられないルールに従順だ。不満はあっても逆らったりしないし、葛藤をした後妥協してくれる」
【タマ】
「……だからそれを悠長無く利用して、ある方向へと先導する。それを考えるのが政治。愛国者が挙って精を出してくれる」
【タマ】
「……言葉じゃ何を言っても簡単だが、神代は現代じゃない。形式的な枠は定められていても、明確的な枠は誰も司れないからな。優等なら何でもできる」
【タマ】
「……相も変わらず今か今かと何かを待ち望むソラもまた」
【カズ】
「………」
【カズ】
「……腑に落ちねぇなぁ。ならなぜ青空を――」
【タマ】
「……野放しにするかって?今更監視しても手遅れなんだよ。予定表だって当てにならない」
【カズ】
「………」
【タマ】
「……待てカズ。一コマ目の講義はまだだろ」
【タマ】
「……近い未来、あたしがさ、ソラにどうしても拭いきれない、解決しなければならないような疑問を抱いたら、お前に訊いてもいいか?」
【カズ】
「それはお前の自由……ただ、これだけは覚えといて欲しい」
【カズ】
「全ての選択を肯定、永遠に護るとは言ったが、自分がどちらかに就くなんてあり得ないってことを」




