三種の潤滑油
〈三種の潤滑油〉5月25日火曜日
【忍】
「いつもの神童くんに戻ったみたいだね」
【カズ】
「たりめーだろ。どんな理不尽な客が来ても随時対応してやるよ」
【忍】
「でもよかったのかな?二日続けての独占だから何だか悪いや」
【カズ】
「何言ってやがる。謝るのはこっちの方だっての。どうみたって、放置故の暇潰し感は拭えないだろ」
【忍】
「拭えないというより本音だろ?」
【カズ】
「……お客様の御前であるぞ。忘れたのか」
【忍】
「あ、タマさんだ」
【カズ】
「てめぇタマッ!ここは行進曲を奏でる場所じゃ――」
【忍】
「ほら……」
【カズ】
「………」
【タマ】
「……ちょうど一週間後。一週間後の6月1日に調印式が執り行われます」
【マスコミ】
「各メディアの立ち入りは?」
【報道官】
「質問は会見後に設けてますから静粛に願います」
【マスコミ】
「あなたの存在も含め、全てが異例ずくめですが、何か意図があるんでしょうか?」
【報道官】
「質問は会見後にお願いします」
【タマ】
「……もちろんあたしも出席する。ただしそれ以上は関知しない」
【マスコミ】
「仮に調印が破棄されたら、あなたの掲げる三竦理論実現も潰えますが?」
【報道官】
「………」
【報道官】
「黙れないなら、全員出てってもらいますよッ!」
【タマ】
「……これより質問を受け付ける」
【タマ】
「……っと、まずはメディアの立ち入りだったな。許可はする」
【タマ】
「……もっとも、検査官がゲート通過を認めれば入場できる。いつもと変わらないお決まりのやり方だよ」
【マスコミ】
「この、未だかつて例のみない目まぐるしい変化に、様々な憶測も追い付くことは不可能でしょう。あなたにまた、神代は振り回される」
【タマ】
「………」
【マスコミ】
「質問が後になって申し訳ありません。どのような方法でコンタクトを、とっていたんでしょうか?具体的にお願いします」
【タマ】
「……あたしが裏神代に。瞬間を使って」
【マスコミ】
「さ、再度質問を願いますッ!どうしてあなたは、裏神代の地に入ることができたのですか?」
【タマ】
「……できたというより、裏神代政府の外交官があたしに取引を持ちかけた」
【カズ】
「………」
タマが始めて嘘をついた。
不思議とそう確信できた。
同時に悪寒と恐怖が自分を襲った。
【ソラ】
「出しゃばっちゃダメだよ」
【ソラ】
「……ごめん。巫女ちゃん、今日も早退させて」
【カズ】
「………」
【ソラ】
「………」
【忍】
「………」
【カズ】
「あおぞら……」
【ソラ】
「なに?巫女ちゃん」
【カズ】
「すげぇな、タマ。一週間後だってよぉ」
【ソラ】
「そうだね」
【カズ】
「ぜってぇありえねー」
【ソラ】
「それがタマなんだよ」
【カズ】
「時間ってヤツはよぉ~、もっとこう、有意義に使ってやらんとかわいそうだろ?のんびり、のんびりと、場をセットしようや」
【ソラ】
「その時間を与えない為でもあるんだよ」
【カズ】
「あ、危ないってことかッ!?」
【ソラ】
「為でも?……じゃないんだ。せっかくの誘導が台無しぢゃん」
【カズ】
「あのタマが、今日宣言して、明日調印式。それができない?」
【カズ】
「つ、続きを魅せてくれッ!」
【カズ】
「早くしろッ!」
【マスコミ】
「その発言を受け、どうしてもはっきりさせておきたい疑問が浮かんできたのですが、宜しいでしょうか?」
【タマ】
「……どうぞ」
【マスコミ】
「どうしてあなただったのか?いくら優等とはいえ、偶然にも限界があるでしょう」
【タマ】
「……質問になってない」
【カズ】
「……ッ!?」
【カズ】
「だ、ダメだ青空ッ!これ以上は……助けに――」
【ソラ】
「信じ続けられるんでしょッ!」
【カズ】
「………」
【カズ】
「ああ」
青空の言葉にもすごく重みがあって、いつものように助けられる。
こいつは、どんな状況に陥っても、決して自分を見失うことはなく、冷静さを保ってられるのは知っていた。
知っていたが……。
それは今回も強がりなのか、それとも見せかけなのか。
自分にはまだ、その境界線を引けないでいた。
【マスコミ】
「裏神代は、この神代の地で、スパイ活動をしていたんじゃないですか?」
【タマ】
「……あたしにしてどうする。相手が違うだろ」
【マスコミ】
「裏神代の返答が、あなたへの死刑宣告になったらたまらないでしょうに。どうして発言を避けるのか。どうして肩を持つような――」
【タマ】
「……満足ならそれで結構。次の質問」
【マスコミ】
「そこまで断言できる理由を是非ともお聞かせ下さい」
【タマ】
「……繰り返しになるが、特に神代においては危機的状況に瀕している。従って政府が、この千載一遇のチャンスを棒に振るとは思ってないからです」
【マスコミ】
「今更逃げることはできない。最高責任者があなたに全てを託した瞬間から。しかも神代の終わりは現代の終わりでもある。そして」
【マスコミ】
「裏神代が神代の救世主の役割も担っていると――いう認識で宜しいでしょうか?」
【タマ】
「……あなただって、有権者だって、政府の立場なら同じ選択をすることでしょう。土台の存在維持が全てに優先される」
【マスコミ】
「一ついいでしょうか?以前にもお訊きした質問なんですが、神代と裏神代の共存は本当に可能なのか?あなたの希望的観測を有権者にお伝え下さい」
【タマ】
「……希望的観測?逆に問いたい。あたしは神代が審美するなんて皆目見当も付けていない。あなたはどうです?」
【マスコミ】
「ち、ちょっと待って下さいッ!有権者は……姿見も知らされてない現状なんですよ?」
【マスコミ】
「全てが一方的に進められ、この場でその答えを求めるのは筋違いじゃないんですかね?」
【タマ】
「………」
【タマ】
「……それが今の、神代の実力。現代の存在がこうも神代に悪影響を及ぼしてることに未だに気付けないからこそ、あたしは本音を言いたい」
【タマ】
「……あんたら、そもそもここをどこだと決定付けてる?」
【タマ】
「……嫌でもニンジンを食べる。嫌だからニンジンを食べない――は古いんだよ」
【タマ】
「……あたしはただ、潤滑油の役目ができればそれでいい。潤滑油の働きができればあたしは……」
【タマ】
「……どうせ、調印式でのあたしのスピーチは用意されてないんだから、今しておかないと損だろ?」
【カズ】
「………」
【タマ】
「……神代に居場所を求める以上、今一度立ち止まって、後ろを振り向いて欲しい。そして、思い出して欲しい。神代の本当の存在意義をもう一度」
【タマ】
「……頼む」
【カズ】
「………」
【ソラ】
「質問受付中♪」
【カズ】
「……タマにだって弱点はあるよな?」
【ソラ】
「あの態度のデカさはむしろ誘ってると踏んでいいかと」
【カズ】
「………」
【ソラ】
「二つかな。一つは現代送りにする。もう一つは精神を壊して制御できなくする。罪を着せるとか、嵌めるとかいう方法は無意味に等しいね」
【カズ】
「なぁ、青空」
【カズ】
「この前も言わなかったか?あんまし、自分を見縊るんじゃねぇぞ。自分はお前の意見を訊いてる」
【ソラ】
「………」
【ソラ】
「誰もがタマの創る現実を特定できてない」
【ソラ】
「つまり解明できれば、政府は対策を講じることができる。考えられるのが――」
【カズ】
「法律か?」
【ソラ】
「何をしてるのかさえ解れば、後は手っ取り早く法案をまとめて議会に提出。すぐさま決議を行って可決させる」
【ソラ】
「施行されたら銃刀法違反みたいな容疑で拘束できるしね♪」
【カズ】
「……国家権力はもっと別の用途に使えよ」
【カズ】
「いや、待て……そんな馬鹿げた茶番劇を、有権者が黙って見過ごすはずもない。それこそ審議会にかけられるべき議題だ」
【ソラ】
「誰も支持するわけねぇぢゃんあんな態度で」
【カズ】
「浅はかだなぁ~。おいおい、何とかする気なんだよ」
【ソラ】
「結果だけで、有権者を取り込もうなんて贅沢過ぎると思わん?」
【カズ】
「何だお前。タマが何の抵抗もせず白旗を掲げるって言うのか?」
【ソラ】
「私と違って、法を重んじる。法律という枠の中で、どうすれば自分を一番に活かせるかだけを常に考えてるのがタマだし」
【カズ】
「お前は軽んじてんのか。そっかぁ……」
【ソラ】
「途中下車する?」
【ソラ】
「一週間の猶予は巫女ちゃんの為に設けた」
【カズ】
「フッ……余計なことを」
【カズ】
「有れば使う」
【カズ】
「わざわざブレーキ付きにしたのはお前らのどちらかがいずれ使うからだろ?」




