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『明け』の明星(神代篇)  作者: どうしてリンコは赤いの?
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かつての後継者

〈かつての後継者〉5月21日金曜日

【???】

「申し訳ない護衛官。通してくれないか」

【ソラ】

「どうぞご勝手に」

【???】

「……君は新入りかね。礼儀あるプロの自覚を持たずしてどうしてこの場にいられようと言うのだ。最高責任者も不可解な処置をなさる」

【ソラ】

「行き先を変更なさいますか?」

【???】

「何か言ったか?」

【ソラ】

「神代の安全を脅かす存在は全て排除する。それが最高責任者の命令でした。でも結果はどうでしょう?神現バランスの崩壊危機を招いた」

【ソラ】

「演技する理由は試しですか?そんなんで力量は見抜けませんよ」

【ソラ】

「主席補佐官。随分と遅いご到着で」

【主席補佐官】

「君が……そうか。動かしたもう一つの”メナス”。トリックを見破ったか。なるほど」

【主席補佐官】

「では失礼」

【ソラ】

「………」

【ソラ】

「……護り方が雑過ぎ。所詮その程度の実力なんかね」


【主席補佐官】

「……入館データを確認したら、無意識の内にこの場に向かうような。今はそんな気分ですかな。自分の第六感に感謝してますよ」

【タマ】

「……主席補佐官。現代作品創作を中断してまで戻った甲斐が、あったかどうかまでは断言できないが、少なくとも後を任せられる」

【主席補佐官】

「日陰に置いていた私に、いきなり託しますか。状況把握の時間も与えないとは」

【タマ】

「……ああ、投げやりだ。何とでも言えばいい。きっかけだけ作ってとんずらする臆病者だと」

【主席補佐官】

「……やり遂げる?誰がなってもやり遂げられるならあたしじゃなくてもいい話だろ。やり遂げられることが決まっていては美しさも何もない」

【主席補佐官】

「言い訳はそれで当たってますかな?」

【タマ】

「……言い訳じゃない。真実だ」

【主席補佐官】

「私のような主席補佐官なんて、どこを探しても見つからないでしょうな」

【主席補佐官】

「いなくても、まぁバックにあなたの存在がありますから。向こうも大胆な行動は取れないでしょうしよしとしますが」

【主席補佐官】

「何より最高責任者の許可を得ている。今、私が、自信を持って言えることはこれだけだ」

【主席補佐官】

「何があろうと、最高責任者は私が最後まで支え続ける」

【タマ】

「……道理だ。職を失うまでは――ってそんな雰囲気じゃないな。原因はソラか」

【タマ】

「……悪い癖というか何というか、言いたいことがあるなら言えよ。さっさと」

【主席補佐官】

「あの時魅せた、マジックの種を明かす気はないかね?メナス」

【タマ】

「………」

【タマ】

「……糸口は、不可能という先入観を捨てられれば広く見渡せるということだ。枠作りも肝要ではあるが、まず第一に状況に合わせた対応が求められる」

【タマ】

「……けれど、その境界線をどこで引くかは曖昧で難しい。追い撃ちは対応力に乏しいこと」

【タマ】

「……もっとも、見破られて真似できるほど安価なマジックではないが」

【主席補佐官】

「どうでもいい。無力化さえできればそれで」

【タマ】

「……ソラを、抱き込むつもりか?」

【主席補佐官】

「それはとぼけた演技か?私の全ても見透かされてるからあんな不可能な現実を創れるんだな」

【主席補佐官】

「そして今や、もう一つのメナスが表舞台へと姿を現した。この緊急事態に政府はただ黙って――」

【タマ】

「……有権者はマジックだと思ってる。政府の認識も右に同じだと――それでいいじゃないか」

【タマ】

「……劣等は大人しく動向を注視していればいい。何をしても、あたしやソラには遠く及ばないんだから」

【主席補佐官】

「………」

【タマ】

「……立派だよ。主席補佐官。本意ではないのに求めて何とかしようとするその姿勢は」

【タマ】

「……その正義を汲み取って、これだけは伝えておく」

【タマ】

「……安心なんてさせられない。常に生死と隣り合わせでなきゃ生きてる心地がしない。あたしがあたしで無くなってしまう」

【タマ】

「……あたしは、自分が壊れるような展開を切に願い、常に希望しているんだ」

【タマ】

「……しばらく、ガキの殴り込みに付き合うことになる」

【ソラ】

「………」

・ 

【タマ】

「………」

【タマ】

「……ところで主席補佐官。一つ求めたいことがあるんだが」

【主席補佐官】

「あなたが?神代もついに幕を閉じますかな」

【タマ】

「……スパイを潜り込ますとしたらどこを選ぶ?」

【主席補佐官】

「………」

【主席補佐官】

「常に監視されるというリスクを伴うがその分見返りもある。国家機密を手に入れる為政府下に紛れ込ませるだろうね」

【タマ】

「……従来のやり方は裏切らない、か。確かに一番手っ取り早い」

【タマ】

「……ところが裏神代の連中は、あんたらの持ってる国家機密なんぞ、何の魅力にもなってない」

【タマ】

「……向こうが知りたいのは逸材の有無。メナスに成り得る存在」

【タマ】

「……リストはある。神代全土に張り巡らせてきた情報網に一瞬の緩みも与えた覚えはないと自信を持って言える」

【主席補佐官】

「………」

【タマ】

「……別にあたしやソラを見つけられなかったあんたらを責めようなんて思ってない」

【タマ】

「……あたしはさっき求めた。その借りを返したいだけ」

【タマ】

「……向こうにだって土台があって、主人公や物語が絶え間なく存在して、それを統率する最高責任者がいて、調和を崩すまいと必死に生きている」

【タマ】

「……優等が劣等をいつ食らっても非はない。自分の好きな時間にご馳走を平らげる」

【タマ】

「……ただ、その環境下はどうにも気にくわない。悶え苦しみながら生きる劣等を眺めるのは忍びないとあたしも思う」

【タマ】

「……今のところ、裏神代の最高責任者はこちらを食らう気はないようだが、不安を抱えたままでは引き下がれないだろ」

【主席補佐官】

「向こうは我々の全て知っていて、我々は向こうを何も知らない……」

【主席補佐官】

「ど、どうしてそんな最悪の事態にッ!?スパイの侵入を許したとでもいうのかッ!」

【タマ】

「……つまりこっちは動く他ない。リスクを覚悟して知りに向かわなければな」


【タマ】

「……さてと。この話程度で悟れるかお手並み拝見といこうか」

【タマ】

「……かつての後継者」

【タマ】

「………」

【タマ】

「……って、このあたしが。他を試すような真似を……?」

【タマ】

「……認めたくはない。認めたくはないよ。認めたくはないが……」

【タマ】

「……生き道楽だって?あたしを笑わせる気かよ、自分」

【タマ】

「……あいつらが」

【タマ】

「……そんなこと、言われなくても知ってるよ。知ってる」

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