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『明け』の明星(神代篇)  作者: どうしてリンコは赤いの?
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レポート

〈レポート〉

今、大学の事務の近くの掲示版の前にいる。

もちろん、今後の予定を把握するためで、情報を得ようとしているのだが、何も得られていない。

せっかく、空き時間を使って来ているのに、これでは時間の無駄としか言いようがなかった。

【???】

「……休講情報とか、レポートの提出期限とか掲示してあるだろうが」

そろそろというか、いつものひとり言はこの辺でやめておこう。

【???】

「……結局、青空にかまってもらうことになるのか」

こんな演技までした自分が情けない。

【???】

「あるわけないぢゃん」

【???】

「まだ始まったばかりなのにレポート提出なんて――」

【???】

「それがあるんだな~。ほらそこに」

【???】

「え?どれどれ?」

【???】

「ほれ。そこだよそこ」

★新入生全学部対象課題★

大学卒業までのプランを具体的な内容で明日までに提出すること(レポート用紙30枚以上)。

・専用用紙を使うこと(大学内の厚生館にあります)

提出場所:各々のゼミの先生の研究室の前に置いてある箱。

※未提出者は即刻退学とみなす。

以上。

【???】

「………」

【???】

「………」

【???&???】

「うそぉッ!?」

【???】

「え?」

【???】

「……いや、まだ詳しく見てなかったというか」

【???】

「しかし、なんだ。いきなしやってくれますな。やっぱりこうでなくちゃ。お前もそう思うだろ?」

最初の関門に、否が応でも胸の鼓動が高ぶってきた。

間に合うかわからない。

でも間に合うと思ってる自分の中のこのドキドキ感がたまらない。

どうりでこの棟だけ、やたら静けさに包まれていたようだ。

【???】

「ん……ど、どした?」

【???】

「……レポート苦手なんだよね」

【???】

「あぁん?マジか。自分はテストなんかより、よっぽどレポートの方がいいぞ。差が数字で明確に表れないからな」

【???】

「自分のことはいい。そんなことより、そんなんでお前本当に大丈夫なのか?これから嫌でも――」

【???】

「………」

【???】

「――ったく、わかったよ。一緒にレポートやっぺ」

【???】

「わーい、やった。ジュース奢る」

【???】

「んなのいらねぇよ。自分で出せるから」

これが神代。

ある程度の知識があれば、それなりのコーヒーをいつでも堪能できる。

【???】

「んじゃ、急ぐぞ。用紙は厚生館にあるっていうから」


【???】

「おつかれ」

【???】

「お、おつかれ」

慌てて、オウム返しをする。

どうやら、これが大学内の挨拶らしい。

厚生館の中を少し進み、用紙が置いてある場所に辿り着く。

【???】

「でも一枚しかないね。んじゃ私が――」

ぺシッ!

【???】

「バカか。それは自分の――」

【???】

「ぷッ!あははは」

【???】

「……はぁ~、これでいいか?」

【???】

「うんうん、毎度のことながら期待を裏切らないよね」

満足している青空の隣で、自分は残り一枚を取り、必要枚数増刷する。

一枚がなんだ。どういったモノなのかさえ判れば何でもない。

【???】

「待って」

【???】

「ん?」

【???】

「見くびらない方がいい」

【???】

「事務行って取ってくる。ここで待ってて」

【???】

「………」

この抜け目なさは、相変わらず変わっていないようだ。

【???】

「………?」

ふと辺りを見渡してみると、厚生館というのは上級生の溜まり場のようだ。

どこを見ても、慣れまくりオーラを発していた。

二階は……止めとこう。何となく。


【???】

「こんなもんでいいだろ」

ものの数分で終える。

30枚がなんだ。ネタさえあれば何でもない。

自分は考えの塊なのだ。

これも四六時中、何かについて考えている賜物ともいうべきか。

【???】

「ちょっくら拝見」

しばらく優越感に浸る。

【???】

「馬鹿正直だね……でも巫女ちゃんらしい」

【???】

「あんがと。お前もやれるだけやってみろ」

【???】

「その言葉いいね」

【???】

「私もやれるだけやってみるッ!」

やる気が出たのか、青空は再びレポートに取り組む。

先ほどとは俄然違う雰囲気を漂わせる。

軽快さがそれを物語る。

【???】

「………」

自分の考えていること、思っていること。

ありのままの気持ちを込めさえすれば、造作ないことだ。

構成?順序?わかりやすく?読みやすく?

んなこと知るか。

どんなモノでも自分が納得のできる満足のいくモノであればそれでいい。

誰かの為に書く文章なんてあり得ない。

だから自分は『明け』の明星を目指せない。

許されていない。

けれど、ここにいる。

わかってる。

自分が一番よく。

それでもいる理由はいずれ知ることになると、そう願いたい。

そしてそれがわかった時、今とは全く違う別の自分が出来上がる。

その時、何を思うか。

まだわからなくて嬉しい。

【???】

「お、終わったぁッ!」

【???】

「おつかれ」

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