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『明け』の明星(神代篇)  作者: どうしてリンコは赤いの?
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講演会で点数稼ぎ

〈講演会で点数稼ぎ〉5月19日水曜日

あの時のタマの凌ぎは、十中八九想定の範囲内であった。

未遂に終えられたからって感謝の気持ちなんぞ更々ない。今は監視下の強化に努めたいだけだ。

といっても、自分のきまぐれで左右されるから本当に置かれるとは言い難い。

どちらかが大学をサボって、逢えなかった場合は必然だが、普通に考えれば毎日逢えるのだから。

ただし、その気まぐれは時としてズレを生じさせる。

【カズ】

「無性に物語を創りたくなってきたッ!」

【ソラ】

「無理でしょッ!巫女ちゃんには。やっぱりやらされてないと」

【ソラ】

「あのさ、人間物語の著者講演だからって触発されてない?起こされては本当の物語なんて創れっこないのにさ」

【カズ&???】

「……あ~あ、サボろうかな。テンションガタ落ち」

【カズ】

「え?」

【タマ】

「……今日のあたしは読みが冴えてるかも」

【タマ】

「……お疲れ。神童兄妹・・・・。間に合ってよかったよ」

【カズ】

「………?」

【ソラ】

「やっとお出ましかい。注文どおり席は確保済みだけど」

【タマ】

「……って護りやすいという無難な言い訳で真ん中に置くのかよ。警護主任も楽じゃないんだな」

【カズ】

「不満も皮肉もあるのはこっちだっての。せっかく三竦揃ったってのに――コレにはしっかり出るんだな?お前ら」

【タマ】

「……出席扱いされるんでね。出ないわけにはいかないだろ」

【タマ】

「……というのは冗談で、本当は人間物語の著者が気になって」

【カズ】

「どうしてお前が気になるんだよ?一般組でもないくせして」

何でも入試に使われた作品の著者を講演会にお招きするのは慣例らしい。

【タマ】

「……そりゃ、人間物語が政府の管理下に置かれている作品だからだよ」

【ソラ】

「………」

【カズ】

「(挑発するのをギリギリで止めた……ように見えた)」

【タマ】

「……最高責任者同様、所在もスケジュールも全て極秘扱い。誰だって容易くお目にはかかれない」

【カズ】

「……自分に投げ掛けてやれよ。その言葉」

【カズ】

「大体な、始めから青空に視線が注がれてるのに、これ見よがしに姿を晒してよ。この確信犯が。状況は悪くなる一方じゃねぇか」

【カズ】

「お前、本当はチヤホヤされたいだけなんじゃねぇのか?」

【タマ】

「………」

【ソラ】

「巫女ちゃん。それ言い過ぎ。庇ってもらわなくても――」

【カズ】

「インパクトが強過ぎる。さっさと晦ませろ。一度騒ぎ出したら講演会どころじゃなくなるぞ」

【ソラ】

「は、始まるみたいだよッ!始まっちゃえば何のその――」

【カズ】

「まだだ」

場の雰囲気からして、始まりの予兆は全く感じられなかった。

どうしてわざわざこんなリスクを負ってまで出席する必要があるのか、自分には到底納得できなかった。

【タマ】

「……ちょっとプリントを見せてくれないか。受付で貰い損ねたんだ」

【カズ】

「………」

こんなんで動じるタマじゃなかった。

【タマ】

「……どうするソラ。あたしは別に点数稼ぎには興味ないから譲るけど?」

【ソラ】

「それより私は、このまま高みの見物をさせる方がよっぽど頂けないかな」

【タマ】

「……おいおい。どうでもいいだろそんなこと。そこまでの評点をくれてやったって蚊の涙にもならないんだからさ」

【ソラ】

「だって、だってよタマ。中途半端じゃ美しいと言えないぢゃんか。ここは完全な見抜きが道理だと思うよ」

【タマ】

「……講演会が始まらないのは意味を失ったから。このプリントのせいでな。それだけじゃお前は、満足できないって言うのかよ」

【ソラ】

「うん。そう。最前列の一番左端にいる偽の学生さんも付加すべきだって言ってる」

【ソラ】

「講演会はプリントのせいで役割を失う羽目になった。その内容を含ませた不届き者に制裁を加えてやらなきゃ引き下がれない」

【タマ】

「……想起アナムネーシスの持ち主でもあるのかよ」

【ソラ】

「関係ないよそんな資格の有無なんて。出逢いは一期一会。一度逢った主人公は絶対的に忘れないように心掛けてるだけ」

【カズ】

「………」

【タマ】

「……はぁ~。我慢して付き合ったのに、この組み合わせのやりとりはいつまで経っても不変の一途を辿る」

【ソラ】

「説明してあげるか。新天地を求めるか。早く決めなよ」

【タマ】

「……いいかカズ。頼むから瞬時に理解してくれ。存在意義や役割を唯一割り当てられてないのが主人公」

【タマ】

「……そもそも講演とはある題目について、専門的立場から公衆に対して話をすることだ。かいなら場。ついなら調和」

【ソラ】

「………」

【タマ】

「……だがその答えは全てこのプリントに書かれている。書かれてるのにやる意味がどこにある。ここまではいいよな?」

【タマ】

「……ことさら割り当てなかったんだから、昂然たる態度で探しに行けと向こうは伝えたがってる。生きる醍醐味を存分に味わえと。要するに特権意識を持てってことだ」

【タマ】

「……理由を訊かれたらそう切り返せばいい。成績に加点される」

【カズ】

「あ、あぁッ!理解したよ」

【ソラ】

「お後がよろしいようで♪」

【ソラ】

「た、タマが言ってよッ!失礼するんだからッ!!」

【タマ】

「……じゃあな。例の件、ちゃんと守れよ」

【ソラ】

「あ、あのすいませんッ!私の隣の隣にいる学生さんが何やら質問があるようなんですけどッ!」

【タマ】

「……え~と、なになに」

・子供と大人の境界は目の前のルールに疑問を感じなくなった時。

・結婚式は愛の誓いではなく、生かされる側でいるという誓い。

・対の調和は予想に反して困難を極める。

・自殺というネタを取り入れるべきかどうかは、(バランス崩壊の危惧から)最後の最後まで悩んだ。

【タマ】

「………」

【タマ】

「……気のせい。だよな?」

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