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『明け』の明星(神代篇)  作者: どうしてリンコは赤いの?
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あたしは研究室(ここ)にいる

〈あたしは研究室ここにいる〉5月17日月曜日

【キャスター】

「成功を確信してる専門家も少ないようですが?」

【コメンテーター】

「専門家のみならず、政府がようやく”蘊奥の資格”の存在を認めたということです。皆能力は平等でないと」

【キャスター】

「大きく分類するとまず、普段私達が何気に用いる一般資格がありますね。それと政府関係者のみ許される国家資格。それらとどこが違うんでしょうか?」

【コメンテーター】

「言わば神代で創られていない無限の可能性を秘めた生来の資格であり、つまりは自己生成で蓄えた貯金のことです。よって欲しくても得られるものではありません」

【コメンテーター】

「………」

【キャスター】

「どうかなさいました?」

【コメンテーター】

「い、いえッ!失礼しました。今の発言は撤回させて下さい」

【コメンテーター】

「これ以上悪化させない為にも共通認識が急がれます。便宜的な意味合いが欺瞞へと変わる以前に、そもそも資格でも何でも無いのです」

【コメンテーター】

「それは、政府が死ぬほど封じ込めたかった個性でも、無くして認められない自分の存在意義の証明でもありません」

【コメンテーター】

「私はそれを、自分勝手な解釈で、”制御し得ない症候群”と位置付けております」

【キャスター】

「………」

【コメンテーター】

「……絶句が物語ってるように、解明は皆無です。従って、こう断言できるでしょう」

【コメンテーター】

「政府が認めざるおえないほどの強大な潜在能力をタマさんは秘めている」

【キャスター】

「………」

【キャスター】

「せ、専門家の大多数はこうも付け加えていますね。成功はタマさんが裏神代出身という証拠になると」

【コメンテーター】

「会見では最高責任者のアドバイザーとして出入りしていたと言ってましたが、その考えは浅はか過ぎて同意を取り付けることは難しいと思います」

【コメンテーター】

「本当にそうなら、タマさんはスパイ活動していたということになり、誰も許しはしません」

【キャスター】

「続いて開票結果に移りますが……過半数の賛成で可決はされましたが、期待とは裏腹に概ね厳しいという意見が多いようです。加えて抗議活動も各地で起き始めていますが?」

【コメンテーター】

「あんな弱腰の政府を見せられたら当然の意思表示ですよ。時間の猶予はほとんど残されていない。これ以上申し上げることはありません」

【キャスター】

「嬉しい冷遇に思えても、実は岐路にも立ってはいない」

【コメンテーター】

「………」

【キャスター】

「期待はしません。裏切られるだけですから」

【コメンテーター】

「仕事を無視して公私混同させるほどの――将棋を楽しむような感覚でしょうね」

【キャスター】

「???」

【コメンテーター】

「皆さんもご存知の通り、最初の焦点は接触の有無です。ですが、恐らくその障害は難なく通過した」

【キャスター】

「私もそう思います」

【コメンテーター】

「自然体で何よりです。そして次の障害。壁は相手側の都合ということになりますが……」

【キャスター】

「………」

【コメンテーター】

「調印式はまもなく執り行われることでしょう」

【キャスター】

「ち、ちょっと待って下さいッ!」

【コメンテーター】

「………」

【キャスター】

「歳月を……要さない?昨日今日の話じゃ……え?」

【コメンテーター】

「いえ、その通りだと思いますよ。型破りの考えはそのまま閉まっておいて正解です」

【コメンテーター】

「決して避けられない。何故ならそれぞれ立場があり、妥協できない部分は必ず出てきます。その問題はその都度持ち帰り、検討する必要がある」

【コメンテーター】

「その繰り返しを続けて、お互いの距離を縮めていく。極めて無難な友達の作り方だ」

【コメンテーター】

「もし私が仮に、最短距離を目指したいなら前もって段取りを付けておき、相手の答案用紙を眺めながらこちらの案をまとめるでしょうな。はは」

【キャスター】

「………」

【カズ】

「………」

自分はいても立ってもいられず、まだ向かうには早過ぎる大学へと意識を向けていた。


【カズ】

「大学に来ちゃここに居座って、お前は遣ること成すこと全て水面下過ぎんだよ」

【カズ】

「おいタマ。質疑応答は今でも有効か?」

【タマ】

「……今日はまたかなりいきり立ってるな。それもそうか。非凡な学生でも研究室を占領できるなんて虫のいい待遇だし」

【カズ】

「魔王にはなるなよ」

【タマ】

「……質問になってないぞ。カズ」

【カズ】

「そうだな。全然なってない」

【カズ】

「……出直す」

【タマ】

「………」

【タマ】

「……待て」

【タマ】

「……お前なら解るんじゃないか?」

【カズ】

「………」

【カズ】

「……どうかな。自分はあの時、これぽっちも脳裏を過らなかったから」

【カズ】

「んじゃまぁ、次の講義で」

【タマ】

「……一般入試枠で受験。受験番号は0608560。受験会場は人間物語の模倣舞台。受験内容は各々異なる……か」

【カズ】

「今何て……?」

【タマ】

「……神童巫太郎という名を貸与――されたわけじゃない。名字が変わっただけ。違ってるか?」

【カズ】

「………」

【カズ】

「タマ」

【カズ】

「よく調べ上げたな。どこまでかなんて訊かない。ただ」

【カズ】

「後退りさせるような発言はそろそろ慎め。せっかく表舞台に立ったんだ。それに見合った対応を取るべきだろ」

【カズ】

「結果でしか自分を表現できない不器用なお前はもう止めろッ!」

【タマ】

「……どうして無意味な時間を過ごす?あたしに駆け引きは通用しないんだぞ」

【カズ】

「なら考えを変えさせるまでだ」

【タマ】

「……そう願いたい。与えられた能力を惜しみなく活かして一番脚光を浴びた神童巫太郎をあたしにも魅せてくれ」

【カズ】

「………」

【タマ】

「……青空ソラだけって、それはいくら何でも不平等だろ?」

【カズ】

「球種がストレートだけだからやはり重みが違う。しかと受け止めた」

【カズ】

「ところで警護主任はどうしたんだ?ドアの前にはいなかったけど」

【タマ】

「……昨日ここに来てからずっとだったからな。まぁ、お互い見えない所でやることもあるだろ」

【カズ】

「昨日って、泊まり込みだったのかよ」

【タマ】

「……そうだカズ。呼び止めた理由はもう一つある。これでソラも暴れまい」

タマは当たり前のように心の鍵を自分に預けた。

【カズ】

「本当にいいのか……?」

【タマ】

「……瞬間と心の鍵の併用はちゃんとできるか?」

自分が訊き返したのが間違いだったようだ。

【タマ】

「……あたしは研究室ここにいる。どんなに忙しくても」

【タマ】

「……どうせ、懲りずにまた来るんだろ?」

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