裏神代
〈裏神代〉5月13日木曜日
【キャスター】
「繰り返しお伝えします」
【キャスター】
「神代政府は昨夜、最高責任者自ら会見を行い、次世代の将来に対する神現バランスに強い危機感を示しました」
【キャスター】
「その様子をダイジェストにまとめました。同時刻に行われた別の会見と合わせてご覧下さい」
【最高責任者】
「神代の皆さん。我々が直面している現状を是が非でも知ってもらう為に解りやすくご説明致します」
【最高責任者】
「神現バランス――とは単純に需要と供給の関係であると解釈して頂きたい」
【最高責任者】
「まず需要。需要とは、消費者側が現代へ『行きたい』という意欲のことです」
【最高責任者】
「次に供給。供給とは、生産者側が現代へ『懸けたい』という意欲のことです」
【最高責任者】
「その均衛点――バランスを維持するのが私共、皆さんによって選ばれた政府の果たすべき役割でした。しかしながら今」
【最高責任者】
「そのバランスは大きく傾きつつあります。このままの状態が続けば、近い未来神現バランスは間違い無く崩壊します」
【最高責任者】
「意識改革、罰則強化、環境整備と、様々な政策を打ち出してきましたが、結果的に徒労に終わってしまった」
【カズ】
「おいおい。マジかよ。久しぶりに受像機つけたらこんな、希望を与える存在がこうも大々的に認めるなんてことあっていいわけ……」
【最高責任者】
「一番の要因は紛れも無く自己保身。いつ何時でも、どんな有能が現れても対応できる対策法に意識を向け過ぎてしまったこと」
【最高責任者】
「でもどうか、勘違いはしないで頂きたい。私達はあくまで今の現状をお伝えしてるだけで、決して弱音を吐いているわけではないと」
【カズ】
「当然だッ!有権者は事実を知る権利がある……けどな、そんな弱腰のあんたらに任せようと託す主人公なんぞ、もういるわけないと思うぞ」
自分が珍しく感情的になってる。
劣等だけに、優等の醜態は皮肉にも嫉妬してしまう。
【最高責任者】
「神代の風習が、こうも高いツケになって返ってくるとは微塵も思わなかった。それは一重に――有能を、現代送りにし過ぎた」
【カズ】
「そうだそこッ!自分は以前から疑問を持ってた。潰し合いが真に主人公の性なのかと」
【最高責任者】
「だが私は希望の光を見定めたッ!」
【最高責任者】
「………」
【最高責任者】
「会見は以上。失礼する」
【カズ】
「………」
【カズ】
「……傲慢が。虚勢だったら自分も黙っちゃいねぇッ!」
【報道担当職員】
「し、質問は全て私が受け付けますッ!皆さん、とりあえず落ち着いて下さいッ!」
自分の思い違いじゃなかったら、最高責任者は喜んでいた。
つまり、まだそこまで深刻な状況に陥ってはいない。
それよりもどこか、自分と似た――
【政府職員】
「お集まりの皆さん。この度、内容に入る前に謝罪をさせて下さい」
張り詰めた緊張感の中、隣の席のタマに促す。
【カズ】
「タマに促す?……って、はは」
【カズ】
「た、タマだと……ッ!?」
【タマ】
「……許可を頂いていたとはいえ、有権者には黙って政府関連の施設に立ち入ってたことは紛れもない事実です。誠に申し訳御座いませんでした」
【タマ】
「……紹介が遅れました。あたしの名前はタマと言います。今通ってる大学でその名を貸与されました。つまり大学生です」
【タマ】
「………」
会場の雰囲気が一変した。
タマが嘲笑った瞬間。
それはどこか、他の全てが組み合わされた、瞬時に解読なんてできない土台を、まるで自分のテリトリーに変えたように思えた。
【タマ】
「……取引しないか」
【記者】
「え?」
よく聞こえなかったのか、いきなりの不可解な発言に対し嫌悪感を抱いたのか、会場全体完全に呑まれていた。
【タマ】
「……求めると言うのであれば、見果てぬ夢を叶えてやってもいい」
同等の立場でも劣等には断固として引き下がらないという強気なところはどんな状況下でも変わってないようだった。
【タマ】
「……裏神代」
【会場一同】
「え……?」
【タマ】
「……その橋渡し役を引き受けてもいいと言ってる」
【タマ】
「……悩むことは何も無い。二者択一だから劣等でも決められる」
【タマ】
「……今求めて手に入れるか」
【タマ】
「……時が来るのを忍耐強く待つか。どちらにするか、期日までにじっくり決めるといい」
【タマ】
「……あたしは、我慢弱いからそれ以上待つことができない。念を押しておく」
【会場一同】
「………」
【カズ】
「………」
絶句は必然だった。
それは前代未聞の振る舞いからではなく。
あの山の先に、あの海の先に、あの空の先に、あの宇宙の先に何が――それが裏神代なのである。
いや、それは確認済みであった。
存在は認識していても、まだ辿り着けてないのが今の神代の実力だった。
だがそれを、タマは打開可能だと公言した。
裏神代。別名を真の神代ともいう。
歴史を紐解かなくても、何ら手掛かりを掴めていないのは劣等の自分でさえ知ってる。
政府による幾重にも試された実地踏査が徒労に終わったことも。
公式発表は常に、何かしらの方法で遮断しているという見解に留まっていた。
その謎は今でも解明されていない。
唯一言えることは、向こうはこっちに全く興味がないということ。
つまり、誰かが生きているということ。
大好物にあり付けた専門家の間では、裏神代は自分らより優等な神々が生きる聖域だという憶測が現在においても止まない。
神代にとって、裏神代の存在意義は一体何なのか。
どうして対にさせるのか。
と、悩む前にこう決定付ければいい。
神代は絶対的ではないと。
【カズ】
「まだまだ若いなぁ。まだまだ終わりには早過ぎるんだなぁきっと」
【タマ】
「……会見は以上だ。引き続きあたしが質問を受け付ける」
【カズ】
「………」
【カズ】
「(タマ)」
【カズ】
「(どうしてお前は、このタイミングで、主人公を試すような行動に出たんだよ……)」
【カズ】
「(決まり切ったことを、わざわざ問わせて何を思わす気なんだよ……)」
【カズ】
「(大抵の主人公はお前と同じ、我慢強くないのに)」
【野党議員】
「全く甚だしい。いいですか皆さん、これが与党の限界です。このタイミングでの同時会見は誰が見ても一目瞭然。それならはっきりしときましょう」
【野党議員】
「与党は素性も不確かな青二才に全てを託した。あの現実が今更何だと――なに私?もちろん知ってますよ認識程度にね。でも見かけたりも一切無かったわけですから」
【カズ】
「………」
【カズ】
「ふぅ~、ま、なんだ。タマに逢うきっかけには申し分ない展開だな」
【カズ】
「や、やっぱりここかッ!」
【タマ】
「……おいおい、投票日まで待てなかったのか。賛否は用紙に記入するまで決めるなよ」
【カズ】
「賛成すれば手に入れられるからって、自分からタイムマシーンを求めようとは思わない」
【タマ】
「………」
【タマ】
「……それで、何の用だ?」
【カズ】
「一つに絞った。お前の秘書は魅力的だがさすがに重荷だからな……」
【カズ】
「自分が専属ボディガードを務める」
【タマ】
「……くっくっくっ、今度はボディガードときたか。マスコミが屯していたか」
【カズ】
「お前のことを快く思わない連中を五万とな」
【タマ】
「……結構。でも必要無い。自分の身は自分でも護れる。というより、常時とはいかない」
【カズ】
「………」
【タマ】
「……いいから元の定位置に戻れよカズ。出席日数は学長でも誤魔化しきれないんだぞ」
【カズ】
「しかと聴いたよ。会見でのあのビックマウス発言」
【カズ】
「大丈夫なんだろうな?」
【タマ】
「……あたしは不可能な現実を軽々しく言ったりはしない」
【カズ】
「でもあの第一印象はどうみても悪いだろ?」
【タマ】
「……あのな、有権者を相手にするんだ。どんな登場をお披露目しても悪いイメージは拭えない」
【タマ】
「……だからこそ、それを逆手にとってとことん悪いイメージを植え付けさせる」
【タマ】
「……付け足しで実力もな」
【カズ】
「見込みはあるんだな?」
【タマ】
「……何度も言わせるなよ。いいか、有権者が評価するのも結果だけだ。成功によって齎される反動は計り知れない」
【タマ】
「……次の質問はこうだろ?野党。加えて党内からの反発も必至。どちらも黙って無い。どんな方法で成功を成したか徹底的に探りを入れるだろうと」
【カズ】
「い、いやそこまでは……」
【タマ】
「……政治なんてのは単純な仕組みでできてるんだよ。自分が、他が、複雑に思ってるだけ。劣等なだけ」
【タマ】
「……有権者だってそう。極論を言えばあたしのファン。気に入る結果を示せば容易く誘導できる」
【カズ】
「どこに導くつもりなんだ?」
【タマ】
「……だから魅せられない。優等であればあるほど。前に言わなかったか?」
【カズ】
「さあ」
【タマ】
「……ならちょうどいい。改めて言い聞かせてやる」
【タマ】
「……劣等は結果が欲しいが為に努力を惜しまず成長も拒まない。そのプロセスは美しく物語に値する」
【タマ】
「……優等は――」
【タマ】
「……いいからお前は今の立場を全うしろ。さっさと講義に行かないと遅刻するだろ」
【カズ】
「………」
【カズ】
「……どっちが」




