はじめての講義
〈はじめての講義〉4月15日木曜日
【???】
「えー、物語を創るにあたって、まず二つの問題を考えなければなりません」
【???】
「一つは創る側の、もう一つは創らない側である」
【???】
「まずは創る側からみていきましょう」
こうして講義が始まった。
いざ受けてみると、全くと言っていいほど、何の違和感も感じない。
期待どおりだからか、失望しているからか。自分にはわからなかった。
ただ、これが大学の講義なんだと素直に感じた。
一か月かもしれないこのお試し講義は続く。
【???】
「でもその前に」
すでにあった静けさがさらに勢いを増す。
【???】
「創る側と創らない側の想いの調和は常であり、必至である」
その言葉、どこかで見かけたような気がした。
【???】
「大学創業者のお言葉ですね」
誰かが解答を告げる。同時に大学なら必ずある教育理念何たらが思い浮かんだ。
【???】
「創る側と創らない側の思いの調和こそ、真の物語に近づける」
【???】
「創る側は何を思って物語を創ると思いますか?」
【???】
「創らない側は何を思って物語と向き合うと思いますか?」
【???】
「創る側はこの二つの想いを念頭に置き、考えていかなければなりません」
【???】
「そしていざ創ろうとしても、物語には様々な形があります」
【???】
「言葉、映像、音楽、絵画等……」
【???】
「すなわち現実です」
【???】
「………」
【???】
「あなた達は他の現実を創ることが許される可能性を秘めているのです」
【???】
「聞こえは悪いですが、事実は事実です。何も言わなくて結構」
【???】
「誰もが思うことでしょう。特に現代では、他を騙してまで自分が創ったテリトリーで生きてもらうことには」
【???】
「そんな現実、創らなければいい。しかしそれは綺麗事だ。誰かは創らなければならない。創らなければ私達は生きられないのだから」
【???】
「誰もが神代に生まれました。同時に創る側と創らない側が必然的に生まれました」
【???】
「極端に言えば、神代に留まって物語を創るモノ。現代に行って物語を楽しむモノと自分で分けてしまえばやりやすい」
【???】
「………」
どうやら自分が思っていた以上に、創る側とは腹黒い連中の集まりらしい。
一番の不満は、この中途半端な話の持っていき方。
【???】
「私達は誰もが始まりであり、同時にそれは終わりへと近付いている。時間は限られているが、忘れてはならないことが一つだけある」
【???】
「その代償は、繰り返せること。その贈り物にあなた達はどういった反応をしますか?」
【???】
「その答えを知りたければ、前に進むことです。知りたくなければ、今すぐこの場から出ていきなさい」
【???】
「………」
その言葉に臆したのは自分だけだった。
やはり自分だけ、動揺していた。
異様な雰囲気と思ってるのは自分だけだった。
ここにいる誰もが、それなりの覚悟と信念を持ってこの場にいたのだ。
そう思うと、自然と笑いがこぼれた。
【???】
「私が、あえて言うまでも無く、神代は物語を創ることを宿命づけられています」
【???】
「宿命づけられていますが、蓋を開けてみれば、創作にあたるモノはごくわずかです」
【???】
「従って、あなた達は貴重な存在であります」
【???】
「思う存分、気兼ねなく物語を創って下さい。それは私の願いでもあり、みんなの願いでもあるのですから」
【???】
「最後に一つだけ。自分が創った物語の入場だけは止めて下さい」
【???】
「携わったモノの入場はタブーとされていますから」
一瞬の間があったものの、今までの静寂さが俄然、笑いの雰囲気に変わった。
【???】
「先生、脱線し過ぎですよ」
【???】
「言われてみればそうですね。皆さん、申し訳ありませんでした」
【???】
「これも同じかはわかりませんが、今日の講義はこれで終わりにします」
それだけ言い残すと、一直線に教室を後にした。
【???】
「よっ」
【???】
「のんきに、よっ、じゃねぇよ。お前もこの講義受けてたのか」
青空の影が無いことにすっかり安堵していたが、どうやら違ったらしい。
【???】
「おうよ。なんせ必修だし」
【???】
「あぁん?」
【???】
「にしても同じゼミでよかった~。そうは思わんか?」
【???】
「なぬッ!?」
【???】
「え?な、なにッ!そのリアクションはどれッ!?必修?同じゼミ?それともゼミの有無――」
【???】
「必修だとッ!?」
【???】
「いやまぁ、知らんかったと」
【???】
「……いやはや、恥ずかしながら」
【???】
「気の緩み過ぎやな。出直しが必要やわ」
【???】
「……はい」