主人公達(さんすくみ)が魅せる本当の物語
〈主人公達が魅せる本当の物語〉5月10日月曜日
【カズ】
「青空とタマは――い、いや、神代全土を巻き込むテロリストになるつもりです」
【担当教授】
「それで?」
【カズ】
「止めますよね?」
【担当教授】
「止めませんよ」
【カズ】
「な、なぜですッ!?」
【担当教授】
「私には権限が無いからです」
【カズ】
「まともじゃない……」
【カズ】
「いや、失礼。言い方を変えます」
【カズ】
「あなたもまた、生かされる側を拒んだお方でしたね。創る側のイデオロギー主義者だった」
【担当教授】
「………」
【担当教授】
「仮にそれが、100%悪いことで、誰かによって食い止められたとしましょう。でも私からみれば、ただ単にそこまで優等ではなかったからに過ぎない」
【カズ】
「………」
【カズ】
「優等であれば何だろうと勝る者はない。受け入れるしかない。つまりその言い分を支持すると?」
【担当教授】
「私とて、かつては『明け』の明星を目指していたのですよ」
【担当教授】
「ですが、冷静になってもっとよく考えてみて下さい。政府が相手ですよ。どんな形であれ、一筋縄でいくはずがない。あの子らが一番理解しているはずです」
【カズ】
「そもそも勝とうとは思ってない?」
【担当教授】
「肩を持つわけじゃありませんが、テロリストとはそういうもの。決められたルールには一切気にも留めず、何かを何かに変えようと全てを捧げる」
【担当教授】
「インパクトはあるが、有権者はそのやり方を好まない。自分を否定したくはないから」
【カズ】
「誰だって良かれと思って行動してるはず。だからといって改心はさせられても、後悔まで求めちゃいけないような気がします」
【担当教授】
「………」
【担当教授】
「ちょっと待って下さい」
【担当教授】
「『明け』の明星を、”テロリスト”と揶揄してるだけなのかさえ定かでないというのに……あなたって学生は」
【担当教授】
「私だからよかったものの、大抵は理解に苦しみますよ。相手にもしてくれません」
【カズ】
「………」
【カズ】
「いやだな、先生。何か勘違いしていらっしゃる」
【カズ】
「自分もタマに似て、最低限以上のやりとりを嫌ってるだけですよ。優等相手ならわざわざ状況説明しなくても本題に入れるだろうって」
【カズ】
「そう思ってるから躊躇いも無く省ける。常に優等の立場に合わせて物事を進めようと心掛けてる」
【カズ】
「そのどこが不満なんです?劣等冥利に尽きると思いますが」
【担当教授】
「はっきり申しましょうか?」
【担当教授】
「このやりとり自体が最低限以上なんですよ。解り切ってるのにどうして裏切るような真似をするのか」
【担当教授】
「君のしてることは率直に言って不愉快だ。今すぐこの場から消え失せなさい」
【カズ】
「認めたらいいのに」
【担当教授】
「………」
【カズ】
「理解に苦しんでるって」
【カズ】
「『明け』の明星か。それともテロリストか。はたまた勇者か。どうでもいいそんな称号なんて。神代が一方的に決めることだ」
【カズ】
「ただ、手ぐすね引いて待ち焦がれてるあいつらの死活的な末路を、誰も見抜けていないのは無視できませんよね当然」
【担当教授】
「………」
【カズ】
「本当は『明け』の明星?本当はテロリスト?本当は勇者?いやいや、裏をかいて実は全て取り入れてる?」
【カズ】
「その答えを確かめる前にこれだけは断言できる。自分はどんな結末でも受け入れられます」
【カズ】
「これが言いたかった。優等気分を味わいたかった。本当にそれだけです先生。それだけ。このやりとりの目的は……」
優越感に浸り始めた自分は、誰かに意識されるまで何も見えなかった。何も感じられなかった。
【担当教授】
「(この組み合わせは……ここまで呼び覚ましますか。いやはや)」
【担当教授】
「(主人公というネタはやはり計り知れないようですね。だからこそ、本来あるべき姿はどんな手段を用いようと封じ込める必要がある。改めて実感させられた)」
【担当教授】
「(させてきた。しかしながら、今回ばかりは手に負えない。両極端な覚醒同士では)」
【担当教授】
「(『明け』の明星を目指す全ての皆さん。約束して下さい)」
【担当教授】
「(主人公達が魅せる本当の物語を、指を銜えて鑑賞できるのはこれが最後だと)」
【カズ】
「~♪」
【担当教授】
「カズさん」
【カズ】
「へ?」
【カズ】
「ま、まだ何か?」
【担当教授】
「タマさんに伝えて下さい」
【カズ】
「今日は見てませんから逢えるかどうか。サークルに来るかも不明です」
【担当教授】
「防衛長官との対決を楽しみにしてます」
【カズ】
「………」
【カズ】
「最高責任者じゃなく?」




