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『明け』の明星(神代篇)  作者: どうしてリンコは赤いの?
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目付け役

〈目付け役〉5月9日日曜日

【カズ】

「ここでいいか」

【忍】

「うん。ありがとう」

大学が休みだからって特にやりたい事も無く、GWを挟んで今週もお邪魔していた。

忍に頼まれたからではない。気付いたらここにいたという感覚だった。

時間の使い方がからっきし下手な自分は、新規開拓より既存の居場所に身を置く傾向にある。

要はインドア派。

【カズ】

「いよいよ地獄が始まるなぁ。何かわくわくしてきたッ!」

【忍】

「わくわく?忙しいことがそんなに嬉しいの?」

【カズ】

「ああ、嬉しいね。何かをしてるって。放置されるより断然マシ」

【忍】

「どういう意味?」

【カズ】

「急がば回れだから」

【忍】

「え?」

【カズ】

「でも待てよ。ちょっと違うような……」

【忍】

「……一体どっちなの」

【カズ】

「どうせ行き着く場所は同じなんだ。それだったら遠回りして、ゆっくり吟味して進みたい」

青空やタマごときに、舐められたままじゃいられない。

野望とやらを、こちらができる最大限の抵抗を見せてぶち壊してやる。

どんな高性能を誇る大きな機械でも、一つの部品が欠ければ何かしらの変化は期待できる。

果たしてどこまでの対応力を秘めているのか、やってみる価値は大いにありそうだ。

【カズ】

「よしッ!そうと決まれば、手始めに自主退学してやろうじゃない」

【忍】

「………」

【忍】

「今……なんて。自主退学?た、確かにそう言ったよね?」

【カズ】

「案ずるな忍。自分は始めから『明け』の明星になるためにこの大学に入ったわけじゃない」

【忍】

「えぇッ!?そ、そうなの?」

【カズ】

「そうさッ!自分は魔王になるためにこの大学に入ったんだ。かっかっかっ」

【忍】

「魔王って、なに?大学に入るとなれるものなの?」

【カズ】

「なれるかどうかまでは保証できないけどよ。ほらっ、学生証があればどこへでも入国できるだろ」

【忍】

「本気で言ってるの?」

【カズ】

「どうだろう?判断はお前に任せるよ」

【忍】

「でもさ、大学辞めたら学生証も無効になるよね。どこでもとは、いかなくならない?」

【カズ】

「ん?ああ、そういやそうだな。矛盾が生じてたか」

【忍】

「………」

【カズ】

「言われて気付くようじゃ自分には到底なれっこねぇな。今の話は無し。忘れてくれえい」

【忍?】

「……どうでもいい。本物が帰ってくる前におとなしくずらかれや。にゃは♪」

【カズ】

「………」

【カズ】

「てめぇ、青空か?」

【ソラ】

「ここでネタ明かしといこうか♪施錠解除はお手のもの。もちろん演じることも。んでもって、本物は今頃どこかの喫茶店で面接中♪にゃは♪」

【カズ】

「相手はタマか」

【ソラ】

「なわけないじゃん。私が演じてる」

【カズ】

「???」

【タマ】

「……あたしが忍を演じ、ソラを演じたといえば理解できるか」

【カズ】

「………」

【カズ】

「た、タマッ!?本当にタマなのかッ!?……ってよく引き受けたな。想定外の展開だ」

【タマ】

「……フッ、この取引は高くついた」

【カズ】

「うわぁッ!めっちゃ気になる~ッ!!」

【タマ】

「……で、辞めるのか。大学?」

【カズ】

「なわけないだろ。まぁぶち壊してみたい気持ちは拭えないけど、それ以上に今の自分の境遇を壊したくないんでね」

【タマ】

「……裏切ったくせによく言うよ。よく言う」

【カズ】

「相変わらず強調を好むなぁお前も。ついでに言っとくな、いつから目付け役になったんだよ」

【カズ】

「自分がお前らを本気で裏切るなんてことは絶対的に無い」

【タマ】

「………」

【カズ】

「図星だから何も言えやしねぇんだ」

【タマ】

「……ソラの言うとおりだった。お前はもうどこにも逃げられない」

【カズ】

「全く持って嬉しいね。この弱みは」

【タマ】

「……ホントだよ。こんな無価値な茶番に時間を使って。ほっといても消えやしないのに、あたしは不満を隠せないよカズ」

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