浅からぬ因縁
〈浅からぬ因縁〉5月8日土曜日
【学生】
「あのタマがサークルごときに寄り道するとはな。おかげでようやく先が見えた。明らかに時間を無駄にしている」
【学生】
「そう思わん?」
【学生】
「先が見えたのはお前の方だな。言われなきゃわからないのかよ」
【学生】
「あいつがわざわざこの大学に立ち寄ったのはソラを意識しての決断だってことなんだよ。それだけの為に来た」
【学生】
「ソラ?知らんな~。そんな姓名の学生は。どこぞの学部だ?」
【学生】
「……お前さ、『明け』の明星を目指してるならちっとは情報収集力を向上させろって。ネットワークを広めろ」
【学生】
「おいおい、ちょっと待てや。それは軍師の仕事だろ。役割分担した意味が消え失せちまう」
【学生】
「……いつからお前が指揮官になったんだ」
【学生】
「その問題を解決するのはずっと先でいい。今は自分に与えられた役割を全うするだけ。違うか?」
【学生】
「いずれは組まなきゃやっていけない。それは自身も心得てる」
【学生】
「どうして前もって準備しないってか?協調性を育むより、実力行使で圧倒した方が手っ取り早いと踏んでいるからだ」
【学生】
「心を一つに――なんて綺麗事はあいつに通用しない。チームワーク重視で何になる。妥協して何の利があるというんだ。落ち度はいくらでもカバーしてやる」
【学生】
「そのくらい、面識が無くても代弁できる。アレを魅せられたから買い被り過ぎてるのかもな」
【学生】
「あえて組まない」
【学生】
「自信が揺らいだことがねぇからな」
【学生】
「いや、適任者がいなかっただけかも。最低条件は同等とか」
【学生】
「それがソラだと?」
【学生】
「浅からぬ因縁があると思ってる」
【学生】
「面白い。もっと聴かせろや」
・
・
・
【カズ】
「(冊子配りから3日目。神童兄妹の話題はどこにいったやら……今やタマの話題が中心かい)」
【カズ】
「何より嬉しいのが、寡黙を破らせたこと。感情的にさせたってことだな」
タマがこの大学で動き始めた。
”サークルに入部する”
それはもちろん、大袈裟な扱いの他無くて、偶像というイメージにも程遠い。
それでもタマを意識していた学生にとって、この上ない絶好のチャンスに違いない。
求めたり、動いたりするということは、それ相応のリスクを伴う。
まず間違い無く、アンテナを張るだろう。学業をそっちのけにしても。
どうしてここまでタマに対して過剰意識を持つのかは自分でもまだ実感が湧かない。
それは証拠を魅せず、論だけに留まってるからで……。
動かしたのも、取材の椅子に座らせたのも、実のところ自分じゃなく青空のような気がする。
【カズ】
「この光景が、次なる目的の為の布石であるんだろうが、それでも重要度はかなり低い」
【カズ】
「こんなところで満足するタマじゃねぇよな。お前らは」
賑わいを見せる食堂はむしろ居心地が良く、自分もこの瞬間を逃すまいと、すべきことに意識を向けた。
・青空の評論
批判→自分にとって無意味なことは無意味のままにしておくのに、自分にとって意味あることも無意味のままにして生きるのはいかがなものかな。
主張→答えの決まってない答えを出して、はじめて本当の明けが始まる。まずすべきなのは、自分の存在意義をいち早く見つけて、確立すること。
【カズ】
「(何も考えず、目の前の現実に従い、ただ生かされる自分を自分は悔しくないのかと……青空は訴えたいわけだな)」
・タマの評論
批判→自分の存在意義の確立は本気事との距離を縮める一方、主人公達の本気度を失う要因となっているのが作品の老朽化だ。
主張→成長はすべきである。黒でも生きなければならない。
本気の代償(失うモノが無くなっても、誰かを信じることが無くなっても、生きる意味を失っても)を背負っても、払おうとしても、死ぬ意味だけは持たせられない。
持たせられない。
【カズ】
「(な、なんか自分に訴え掛けてるような、そうでないような……)」
『
【タマ】
「……言わなくても、解るよな?お前でも」
』
【カズ】
「(わかるよ、タマ。お前の言いたいことは、恐いぐらい)」
【カズ】
「(……生を求めたのは誰だ?自分で自分を否定するのか?あんまりだろ。それだけは)」
【カズ】
「(……どんな状況下でも、自分だけは自分を護ってあげられるんだ。護ってやれよ……か)」
【カズ】
「(って、ちょっと待てよおい。さっきから何か引っかかると思ったら――)」
【カズ】
「(こ、こいつら現代の観点から評論してるッ!?)」
【カズ】
「(……はは、なるほどね。多くの学生は神代寄りの評論を持ってくると踏んで誘導してやがるな)」
確かに自分と青空は一般組であることから、現代との馴染みが近く、持っていきやすい。
優等揃いの推薦組が書く神代評論に交じって提出するよりは、現代評論を選んだ方が得策な気がする。
【カズ】
「ったくよ、意味ないんだろ~?だったら何でこうも緻密に――これは全くの予備対策。優等に慢心はないってか、あはは」
【担当教授】
「何がそんなにおかしいんですか?」
【カズ】
「どうすれば……より良く、自分が納得できる物語を創れるか考えていたところなんですけどね……」
【カズ】
「いやはや、難しいですね。考えてすぐ出せるものじゃなかった。懲りずに一から出直しますよ」
まだ掲示されてない前期末課題をやってますなんて言えるはずもなく、その場凌ぎの拙い対応に不審を覚えるのは時間の問題だろう。
【タマ】
「……ここにいましたか。先生、学生が研究室でお待ちです。何でも訊きたいことがあるとかで」
【カズ】
「………」
【担当教授】
「追い出されたわけですか。わかりました。用事を済ませたら戻ります」
【カズ】
「では先生、自分もこの辺で……今後もご指導、ご鞭撻のほど宜しくお願いします」
・
・
・
【カズ】
「悪化させてどうすんだよッ!?お前ともあろう優等が、タイミングが急過ぎだ」
【タマ】
「……何怒ってるんだ。あたしは端からお前の対応力の無さに期待していた。応えてくれてありがとうと言ってる」
【カズ】
「………」
【カズ】
「あのな、自分だってそこまで落ちぶれちゃいねぇ。詮索されても口だけは割らん」
【タマ】
「………」
【カズ】
「な、なんだよッ!」
【タマ】
「……つぐつぐ思い知らされるな。どうしてこうも無知なんだ」
【タマ】
「……あたしはこれからもからかい続けると思う。覚悟しとくんだな、カズ」




