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『明け』の明星(神代篇)  作者: どうしてリンコは赤いの?
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GW合宿3日目(一部)

〈GW合宿3日目(一部)〉5月4日火曜日

タマは昨日から現在に至るまで、物語を創る上で必要なことだけでなく、これからの生き方まで教えてくれた。

クラシックを例えに用いて、こう言い放った。


【タマ】

「……優等にとって、応用は基本という認識なんだ。けれどお前は違う。劣等は、従順になって作曲をしていけばいい。全てを受け入れて、な」


タマ曰く、優等といわれる作曲者が作曲した曲は、あえて応用を選択し、聴き手の気持ちなど気にも留めない。

その一方で、及第といわれる作曲者は、大半が基本を選択し、聴き手の気持ちを汲む。

優等にとって、応用という認識はどこにあるんだろうか。劣等の自分には到底辿り着けない領域。

自分はどこか特異で、自身に対する評価を低く捉える性質がある。

というのも、根本的に基本は応用だと思っているから。

全ての他を、常に上に見てるのだから。

【ソラ】

「ただいまッ!いやぁ~諸君、遅くなってすまんすまん。ネタ探しが思いのほか手間取っちゃって」

【カズ】

「……だとしたらお早いご帰還で。部下共々失望しております」

【ソラ】

「勝手にしていれば?巫女ちゃんの自由とゼミの評価はどんな駄々を捏ねられても代えられないし」

【カズ】

「そこまでして優を取りたいってか。言っといてやるけど、どう頑張っても受験時同様に1番にはなれないんだぞ」

【ソラ】

「………」

【タマ】

「……カズもソラもそこまで。前に進みたければ」

【カズ】

「………」

【ソラ】

「私は何とも思ってないって。はいタマ。バトン」

【カズ】

「図星のくせしてそのやせ我慢はバイオリズムに毒だぜ」

【タマ】

「……お前という奴は。何回言っても――」

【カズ】

「乱数でどうにかならなかったのかよ」

【ソラ】

「あのさ、巫女ちゃん」

【ソラ】

「私といい、タマといい、急に何さ。また時間稼ぎ?そろそろ腹を括ろうよ。後悔しても知らないから」

【タマ】

「……望みはなんだ?前期の当落だけだろ?どんな回り道しようとあたしの意のままなんだよ」

【カズ】

「現実なんだぞッ!生じたズレをそんな安易に修正できるわけねぇだろうが。馬鹿かお前ら」

【カズ】

「………」

【タマ】

「……間を与えてやるまでもなかったか」

【タマ】

「……ソラ。これを目の前にしても信念は揺るがないのか。あるだろ?譲れない感想が一つだけ――と思うのはあたしだけの気のせいかな」

【ソラ】

「がっかり」

【タマ】

「……驚くことに、お前と意見が一致した。ここで終わりにしないか」

【カズ】

「ッ!?」

【タマ】

「……お前はあたしを否定した。質問でも心配でも、どんな理由を並べようと答えを求めてはいけなかった」

【タマ】

「……信じて付いて行くしかなかったのに、その暗黙のルールを破った。さよならするしかない」

【カズ】

「………」

【カズ】

「だな。少しばかり深入りし過ぎた。本気事に次は無い」

【カズ】

「ようやく現代か。はは、本当の現代ってどんなところなんだろう……」

【カズ】

「……って、現代ターミナルはどこにあるんだ?まぁ誰かに訊けばいいか」

【タマ】

「……あたしが瞬間で連れてってやるよ。お前はもう、神代にいてはならない存在だからな。邪魔なだけ」

【カズ】

「となるか。それとも活性化するか。だったな。要は対応力がどこまであるかって話。でもまずは自分の信念を決して変えないようにしなくては」

【タマ】

「……仕舞いだカズ」

【ソラ】

「惜別の情も告げないんだね――それもそうか。タマとはいえ、告げられる資格は備わってないもんね」

【カズ】

「青空?」

【タマ】

「……どういう、意味だ?」

【ソラ】

「こっちの台詞だって。私はタマにがっかりしたんだよ。自惚れ過ぎてて、しかもちょっとどころじゃなくて、笑いの行き場が無くて困ってたんだよ」

【カズ】

「いいや、青空。それは違うぞ。出逢いに時間は無関係。自分は本気だったんだから」

【ソラ】

「タマはどうなの?本気だったの?」

【タマ】

「………」

【タマ】

「……どっちだっていい。始めから自身への一方的な契約履行。後は自分で審理するのみ」

【ソラ】

「そうだね~。今後どうするかは巫女ちゃんが決めること。私もタマも干渉しかできない」

【ソラ】

「身を潜めてじっくり窺っていたけど、どこかしら誘導してるように思える。要はそれが争点なんだし、私も、私なりにやってみようかな」

【タマ】

「……おい、ソラ。ちょ――」

【ソラ】

「巫女ちゃん。今から言うことは、仮の話だからね。あくまで仮の話」

【ソラ】

「タマの言葉が本心じゃなかったら、否定していないってことなんだよ。もしそれが事実で、額面通り受け取ってたら恥だよ恥。二度と自分に贐できなくなるんだよ」

【ソラ】

「あの時、私に言ってくれたよね?自分を護る為なら何だってするって。今の状況を鑑みると、それが最優先されるべきだと思うなぁ」

【タマ】

「………」

【カズ】

「青空」

【カズ】

「引き留めは嬉しいんだけどさ……いいんだもう。裏付ける証拠も無いし、何より改める無様な姿なんて見たくない」

【カズ】

「自分はタマの発した気持ちだけを信じる」

【タマ】

「………」

【カズ】

「ごめんな青空。お前との約束、護られなくなっちまって……」

【ソラ】

「そう……何だかもったいないね。神代だとしても、気持ちの持ち様でどうにでもなるのに。どうにでも」

【カズ】

「そう言うなよ。負けを知らない気持ちだから生きてるって実感できるんだ。できていたんだ」

【カズ】

「負けたから次は負けないように頑張るぞ?……けっ。解せない。解せないなぁ。自分には到底解せない生き方だよ」

【タマ】

「……ッ!?」

【ソラ】

「私には、何が起きたとしても、終わりの終わりまでらしさを貫く巫女ちゃんが1番似合ってるや」

【ソラ】

「……やれやれ、打ち明けるしかないか。実はね、この合宿には隠――」

【ソラ】

「ってとんずらされちゃった。まぁ当然といえば当然の適応なんだけど……」

【ソラ】

「……だけどね。今のタマに、その選択を肯定する度胸があるとは思えない」

【ソラ】

「それは自身も確信していて、だからこそ確かめる必要があって、純粋に駆け引きを楽しみたいということでもあって」

【ソラ】

「他の乱数調整はできても、自分にはできない不器用さを詰めが甘いと判断していいのかは別として」

【ソラ】

「自分のことは自分が1番解っていても、時として想定外の自分をまざまざと魅せ付けられる恐れだってある」

【ソラ】

「見下して言うけど、現代には有った方がいい。持てる力全てを懸けてでも必死に食い止めようとするから」

【ソラ】

「逆に神代では不必要。どんなに努力をしようと劣等は優等に勝てっこないんだから」

【ソラ】

「巫女ちゃんがタマを振り回すことはあっても、上回ることは決して無い」

【ソラ】

「でもタマのバイオリズムはまず間違い無く乱れ始めた。二度と元には戻れない」

【ソラ】

「試練を与えて、揺さ振りをかけて、活路を見い出して……」

【ソラ】

「……これはタマ自身の葛藤であって、私や巫女ちゃんが何とかできる問題じゃない」

【ソラ】

「後は切に信じるだけ。タマが納得できる道を選ぶことを」

【ソラ】

「それまでドキドキしながら待ってる。そして休養もする。これからの為に」

【ソラ】

「巫女ちゃんにタマ。明後日、また逢おうね」

【ソラ】

「追伸 一足先に明日の課題を終えました」

【ソラ】

「ざっとこんなところかな。遺書の更新」


【第一ターミナルアナウンス】

「まもなく、現代○○行きが離陸致します。搭乗されるお客様は7番ゲートにお急ぎ下さい」

【カズ】

「………」

【タマ】

「……チケットとパスポート。身元証明書に現代入場許可証全て揃ってる。後は手続きを済ませて搭乗日を待て」

【カズ】

「………」

【タマ】

「……感動のところ、悪いんだけどさ。流れを把握できたんならあたしは帰るぞ」

【カズ】

「………」

【タマ】

「……カズ?」

【カズ】

「突っ込み要素が尽きないお前にもう逢えないと思うと何だか忍びないなぁ……感動にも浸れやしない」

【タマ】

「……あたしとお前は一緒にいられない。いちゃいけない。始めから解ってたことだろ」

【カズ】

「だとしても、二兎を求めてしまうのが主人公なんだよな。自分をとるか、本気で信じた相手をとるか」

【カズ】

「結局、前者を選んだ。自分は……」

【タマ】

「……何度でも言い聞かせてやる。現実味を全く帯びないその揺るがないプライドのせいだ」

【タマ】

「……何か、あるか?現代へ旅立つにあたっての……置き土産。じっくり選べ。あたしが動じることは無い」

【カズ】

「だろうな。それに、未練を残すような真似はしたくないんでね。逆に頂こうかな」

【タマ】

「……現代にとっての神は法だ。その神は主人公と共に生まれ変わるが、お前は変わらず従えばいい。いいんだ……カズッ!あたしッ!」

【カズ】

「お前が認めて、後悔してどうすんだよ」

【タマ】

「……無駄なアドバイスがそんなに悪いかよ。どうせ記憶は抹消されるんだから少しぐらい別にいいだろ。せめて”最後”くらい、本当のあたしでいさせてくれよッ!」

【カズ】

「嫌だね。最後なんて言わせない。言わせてたまるかってんだッ!」

【タマ】

「……カズ。お前、まさか……」

【カズ】

「きくんだタマ。自分と、青空の、本当の――」

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