GW合宿2日目
〈GW合宿2日目〉5月3日月曜日
【タマ】
「……カズには悪いが、新たな課題を出す」
【カズ】
「……いい加減集中させてくれ。一向に捗らん」
【ソラ】
「タマの唯我独尊は今に始まったことじゃないからね。ボヤキは癪に障らない程度にお願いしますよ」
【タマ】
「……お前は二つの動きが取れない。追った瞬間、一兎も得られないで終わるのがオチだ」
【カズ】
「……おいおい」
【ソラ】
「受験じゃ断トツの優等だった巫女ちゃんが今は霞んで見えるのは節穴かのぉ~」
【カズ】
「ほっとけ。役だ役」
【ソラ】
「あれ?座右の銘何だっけ。あまりにも昔だから忘れちまった。にゃは♪」
【タマ】
「……ソラ、そのフリ無意味。不必要。聴きたくもない。こいつに無駄な時間をさり気に提供するな」
【カズ】
「優等は劣等をも演じることができるが、劣等は優等を演じることはできない」
【カズ】
「ついでに理想の目標を言っとくと、ありがたいのレベルを素直に調整できるようになりたい」
【カズ】
「例えを挙げるとしたら――」
【ソラ】
「長袖は半袖にもなるけど、半袖は長袖になることはできない」
【ソラ】
「ついでにおまけを付けておくと、恋愛が実ってありがたい。恋愛が実らなくてありがたい」
【カズ】
「……自分の見せ場を横取りするな」
【タマ】
「………」
【カズ】
「で感想は?」
【タマ】
「(……感想だと?そんなこと、許されざる妄想に決まってるじゃないかよ)」
【ソラ】
「………」
【タマ】
「……お前が良ければそれでいいんじゃないか。あたしは、どうでもいい」
【カズ】
「どうでもいいってお前……相変わらず素直じゃねぇ。取っつきにくいぞ」
【タマ】
「……うるさいな。大抵の主人公は集大成までに何かしらの答えを出したがる。自分が良ければそれでいいじゃないか」
【カズ】
「他は何も信じないってわけね。お前のこと、少しわかった気がする」
【カズ】
「自分を持ってるようで、本当は持っていない」
【タマ】
「………」
【タマ】
「……自分の幸せを選ぶんだったら、あたしは他の全ての主人公の最初の願望を選ぶ。これ以上機嫌を損ねたくなかったら早く主導権を返せ」
【カズ】
「聴くよ。今の自分はお前に逆らえない」
【タマ】
「……ゼミの期末試験。今年度は何だと思う?」
【タマ】
「……カズはいい。ソラに訊いてる」
【ソラ】
「………」
【タマ】
「……悪い言い直す。ソラは知ってるから言ってくれなきゃ先へは進めない。題材を決められないからな」
【カズ】
「その根拠は?」
【ソラ】
「枠が決まるからだよ。考えが及ぶ範囲がね。巫女ちゃんは関係ない」
【タマ】
「……順当に考えれば、前期のジャンルはまず間違いなく――」
【ソラ】
「評論だね」
【カズ】
「お、お前らってヤツは……ッ!」
【タマ】
「……果たしてそれを、そのまま喜んでいいものだろうか。鉢合わせは想定外の波乱を巻き起こさないだろうか。本音を漏らせば、一番関わりたくなかった」
【カズ】
「なぜだ?」
【タマ】
「……慌てるなカズ。それに、難しく考えなくていいんだぞ。基本的に文は短く、中身は濃くだ。だらだらと長文を書くのは却って印象を悪くする」
【ソラ】
「長文じゃなくていいってことは、巫女ちゃんに利があるよね。どういうこと?」
【タマ】
「……今は固める方が先決だと――時間の猶予は……そうだな。5分」
【タマ】
「……残り1分」
【ソラ】
「……う~ん、どうしようかな。にゃはは、悩みまくりだね」
【カズ】
「………」
【カズ】
「はいッ!提案があるんですけどよろしいですかッ!?」
【カズ】
「自分と青空とタマの、三部構成にしたらどうだろう?」
【タマ】
「……ん?」
【ソラ】
「……あのね、ここは仲良しクラブでないの。依存している印象を与えてどうすんのッ!?」
【カズ】
「与えなければいいんだよ。それぞれ自分の評論だけを書き上げる」
【タマ】
「……取り上げたテーマに対し、論じる。その考えをまた取り上げるということか」
【タマ】
「……あたしは構わないぞ。カズの提案を全面的に支持する」
【ソラ】
「私だって」
【タマ】
「……要は0点か100点を取ればいい。カズは前者でいいんだ。前者で」
【ソラ】
「あっ、インパクトが重要ってことね♪」
【カズ】
「………」
【タマ】
「……フッ、悪いな。あたしはここで権限を行使させてもらう」
【タマ】
「……真ん中、で」
【カズ】
「どうして自分に意識を向ける?」
【ソラ】
「1番を選ばないんだ」
【タマ】
「……偏った考えは自分を破滅に追い込むんでな」
【ソラ】
「あ、そう。そんじゃあまぁ、私がトップランナーってことで♪宜しいですかな?巫女ちゃん」
【カズ】
「……勝手にすればいい。自分は順番なんて元々どうでもよかった」
【タマ】
「……先手を打たれ、投げやりになるのはいいけどさ。辛い思いをするのはお前なんだぞ」
【カズ】
「バトンが渡ってくるまで身動きが取れないからか?」
【タマ】
「……大した自信だな」
【カズ】
「アンカーは自分で決まりだな」
【タマ】
「………」
【ソラ】
「違うんだよタマ。強気に出るのは無理もない。しょっちゅう批判ばかりしてるから。当分、酔いは醒めない」
【タマ】
「……考えの塊で鍛冶されたもろ刃の剣はこうも自信に満ち溢れている。それは決して岡目八目ではない」
【タマ】
「……というのも、他を否定する理由が自分の考えだから1番難しいんだ。でもお前にとってそのジャンルが1番適してる」
【タマ】
「……あたしは関わりたくなかった。押し付けなんかしたら畏まって自分が自分じゃなくなるから。何様なんだと問われるのが恐いんだよ」
【タマ】
「……自分で自分を否定することが。1番してはいけないことを解っててしてしまうはじめての後悔なんてさ、したくはない。したくないんだよ……」
【タマ】
「……ソラッ!」
【カズ】
「え?」
【ソラ】
「う~ん、考えておく。見れない演技を魅せられたことに免じて」
【タマ】
「……さっさと行け」
【ソラ】
「がってんだい♪」
【カズ】
「………」
【カズ】
「いいのか?」
【タマ】
「……あたしに何かしてくれると思うか?」
【カズ】
「するわけねぇわな」
【タマ】
「……理解の有無なんてどうでもいい。どうせすぐ戻ってくる。何があろうと、お前から意識が離れることはない」
【カズ】
「自分には嫉妬にしか聴こえないんだけど。まぁいいさ。トップランナーは次のランナーが走りやすいように工夫をこらす役目も担ってる」




