GW合宿1日目
〈GW合宿1日目〉5月2日日曜日
【カズ】
「依頼主は結果が出るのをじっと待つべきだろッ!?」
【ソラ】
「わ、私だけ仲間外れって、それはいくら何でもあんまりじゃないッ!?」
【タマ】
「……聴け」
【カズ】
「はっきり言っていつも回りくどいッ!直接誘えばこうはならなかった」
【ソラ】
「信じた?いや、信じないと確信してたからこういう形を選んだんだよ」
【カズ】
「お前が普通に現れて、素直に言ってくれりゃすぐ乗ったさ」
【ソラ】
「タマに意識を向けてからね」
【カズ】
「なッ!あ、青空ッ!」
【タマ】
「……無駄な芝居なんか打ってないであたしの話を聴けッ!」
【カズ&ソラ】
「御意♪」
【タマ】
「………」
【タマ】
「……この関係。自分はどう考える」
【タマ】
「……ソラが未来から来た主人公と仮定したならば、カズに付き添うのは真に何かを伝える為なのか。劣等を一時的に優等にしたからって良くなる訳が無い」
【タマ】
「……むしろ依存度が増す。そうやって、哀れな最期を送るなんぞ滑稽にも値しない……(とは、必ずしも言い難い)」
【カズ】
「……ようやく馴れ馴れしくなってきたのは嬉しいけどさ、お前の哲学的独り芝居は誰かを貶す為かよ。自分より磨き上げてどうすんだか」
【タマ】
「……さあ、どうしよう?どっちもだよ」
【カズ】
「それでこそタマだ」
【タマ】
「……お前さ、ソラがいなくなったらこの先どう生きていくつもりなんだ?」
【ソラ】
「まぁまぁ、お決まりのやりとりは私達だけにしとくから」
【ソラ】
「傾聴しますよ。前座も終えたことだし、タマ先生のなが~いお言葉をね」
【タマ】
「……どの代にも、様々なイデオロギーが混沌と渦巻いているが、どれもお前らには何の値打ちにもなっていない」
【タマ】
「……合宿に入る前に、こう決定付けろ。法に触れさえしなければ、何をしてもいいと。決められた枠内で自分をどう生かすか、を考えるんだ」
【タマ】
「……大抵、本心から迷惑をかけたいと思わない。それはそれでいい。ただし、迷惑をかけることが必ずしも悪いとは限らない」
【タマ】
「……もっとも他を犠牲にしてでも、自分の幸せを優先する主人公(お前ら)に限っては」
【ソラ】
「あのさ、こっちもいきなりで悪いんだけど、それってタマは法を超越してるってことだよね?」
【タマ】
「……仮に何かをやろうとしてた。さしあたって法を知らないのも無知。知っていても旨く利用できなきゃ無知だ。そして」
【カズ】
「おいちょっと待て。まさか、旨く利用できても無知――と続けるつもりじゃないよな……?」
【タマ】
「……勇者と魔王の話を知ってるよな?」
【タマ】
「……それが答えだ。あたしは魔王なのかもしれない。勇者の成長をあえて促すアンチテーゼ、といったところかな」
【ソラ】
「………」
【カズ】
「(お前、自分は神代の主人公じゃないって言ってるぞ)」
【タマ】
「……ソラはちょっと待て。メニューが大幅に異なる」
【カズ】
「っていきなり差別かよッ!実力試験もやらんでクラス分けとは全く持って甚だしい先生だな」
【タマ】
「……物語を一つも創ったことがないお前がよくそんな生意気でいられるよな。せめて創ってから言って欲しかった」
【タマ】
「……というか、それ以前に創れない。自分の気持ちが入るから?ご都合物語は創りたくないから?そうやって今まで逃げてきたんだ」
【タマ】
「……あたしに認識されれば大抵のことは解る。時の重みは通用しない」
【カズ】
「くッ!」
【タマ】
「……馬ー鹿。無防備なんだよ。その気持ちがあるなら一つや二つ創ってみろ。長編は要らない。お前が今から創る物語は”昔話”だ」
【カズ】
「へ?昔話?そ、それって昔々――で始まるあのフレーズの類か?」
【タマ】
「……それも100文字以内に収めろ。起承転結も忘れずに入れ込むんだぞ。でなきゃ不可だからな」
【カズ】
「………」
【カズ】
「……ルールは把握した。でも一つだけいいか。本気か?」
【タマ】
「……褒めるつもりはないが、お前の時間割を確認した。アレならまだ間に合う」
【カズ】
「嘘だな」
【タマ】
「……これで、腑に落ちないんなら打ち明けるしかない。無遠慮にとことん話させてもらう」
【カズ】
「何を?」
【ソラ】
「理解するまで付き合ってあげるってことだよ。さっき私が言ったぢゃん。時間が掛かるって」
【タマ】
「……いいかカズ。あたしが断言できるのは、お前がレポート課題を中心に組んだからじゃない。全ての――この神代でさえも乱数によってプログラムされてるからだ」
【カズ】
「……何を言うかと思えば、そんなことか。さすがに疑っちゃいねぇよ。自分も信じてる」
【タマ】
「……次にこう付け加える。今の神代は最高責任者が創った。誰であろうと自著なら全知する。違うか?」
【カズ】
「いや」
【タマ】
「……とはいえ、知りたいことを瞬時に導き出すことはできない。どうしてだと思う?」
【カズ】
「導き出す?……主人公の行動と対象のネタを一致させられないからだろ。自分のことは自分にしか解らない」
【タマ】
「……確かに。でもどうして誰も最高責任者を引き摺り下ろせないんだろうな」
【カズ】
「………」
【タマ】
「……答えを言う前に一つ。全知だろうと全能ではない。あたし達は誰もが自身で自分を生成した。他が入り込める余地などどこにも無いということ」
【タマ】
「……つまり最高責任者が知り得るのは自分が創った枠内の結果。所詮は枠内のネタなんだよ。シナリオなんだよ」
【タマ】
「……全てを知ってるからって、望みの結果に辿り着けるわけじゃないんだ。辿り着けるわけじゃない……」
【タマ】
「……要はここで創られたかどうか」
【タマ】
「……最高責任者は主人公に物語へと繋がるネタとシナリオを提供した。メリットは自分のテリトリーで繰り広げられること。デメリットはテリトリーの外で創られた存在」
【タマ】
「……主人公は他が共有し合う舞台を得た。メリットは家の外に出られること。デメリットはレンタル料金の支払い方法が一つしか無いということ」
【カズ】
「生きることがデメリットなのか」
【タマ】
「……前に似たようなことを言ったな。誰もが償う為に生きてる。ここにいる時点で、既に求めていたんだよ。求めたんだから何らかの形で返さないといけないんだよ」
【タマ】
「……いやいや、そもそも返す返さないという二択の選択肢も与えられない。だって、自分が生きることを望み、他との関わりも望んだわけだから」
【カズ】
「生きれば、何らかのシナリオが出来上がる。それが良くても悪くても」
【タマ】
「……創る側にとってそれ以上の幸福的実感は無い。舞台を用意すれば、各々が目の前のあるネタの中から自分が好むモノを選んでシナリオを創ってくれる」
【タマ】
「……しかも何の疑いもせず至って忠実に生きてくれる。仕舞いには自分のテリトリーでだぞ。くっくっくっ。はははは」
【カズ】
「………」
【カズ】
「……お前も味わいたいだけなのか?その為に『明け』の明星を志してるのかッ!?」
【タマ】
「………」
【ソラ】
「タマ……」
【タマ】
「……正義でもあり悪でもある。更に言えば勇者でもあり魔王でもあるんだ。全てを自然的且つ中立的観点で捉えられなければやっていけないんだよッ!」
【タマ】
「……お前らみたいにどちらかを優先するなんてできない。ましてや本気事ならどっちも取り入れる。そこに迷いは一切存在しない。それがあたしなんだ」
【タマ】
「……あたしは、今の神代がどういった乱数で組み立てられているか知ってる。だから理想の結果を出すのもそう難しくはない」
【カズ】
「………」
【ソラ】
「………」
【タマ】
「……判ってる。でもあえて訊く」
【タマ】
「……続けてもいいか?」
【ソラ】
「うん」
【タマ】
「……カズはどうだ?」
【カズ】
「最高責任者だろうと、お前が一瞬でも劣等に甘んじるって?笑わせんな。お前らしさ。その傲慢さがタマそのものだ。打開策を聴かない方が絶対的に後悔するっての」
【タマ】
「……このドMが」
【カズ】
「褒めてんだからドMって言うな」
【ソラ】
「単なる照れ隠しだよ」
【タマ】
「……一度整理するぞ。つまりどこで創られようと枠内で、枠内のネタを選んでのシナリオだから方程式は超越されない」
【タマ】
「……乱数調整の方法はこうだ。まず希望の結果を検索する」
【タマ】
「……それは道程が遠ければ遠いほど講じる時間も増えて該当する確率も高くなるが、必ずしも存在するとは限らない。最悪遅ければ駆け引きの勝敗になる」
【タマ】
「……大抵の優等は最高責任者を避けるか、運任せで挑むか。もはや底が知れてる。取るに足らない」
【タマ】
「……ヒットしたら、1+1の答えを出す為に対象を誘導する。方法さえ知っていれば極々容易いだろ?」
【ソラ】
「一致させられれば望んだ結果になる。そりゃ簡単だ。だって答えは1ぢゃん」
【カズ】
「……答えは解った。でも何故なんだ?枠外で創られたウィルスというべき主人公が侵入してるんだぞ。欲しい結果も出ないはずだろ?」
【ソラ】
「そもそも乱数調整を主人公に用いていたことが驚きなんだけどね。自分はてっきり一種の構成法だけだとばかり思ってたから」
【タマ】
「………」
【タマ】
「……よそ者を招き入れたんだから何かしらの変化が生まれ、乱数調整にズレが生じるのは必然だった。従って政府はそれに対抗する第一の策として――」
【カズ】
「識別番号を神代の義務とした。知らされてない現代と違ってな」
【ソラ】
「望む結果にできる最高責任者。籠の中で飼われちゃよもや対等の立場になれるとは思えない。でもタマはそれを否定してる」
【カズ】
「もったいぶらず核心を衝けっての」
【タマ】
「……あたしだ」
【カズ】
「………」
【タマ】
「……全ての主人公はかつて始終無き存在だった。だからこそ永遠で限界を知らなかった。求めたが故に始まった」
【タマ】
「……あたしも求めた。だからお前らと出逢えた。悔いなどあるはずがない。それはずっとこの先も」
【タマ】
「……だって今だって、悔いない為に無尽の欲求を満たし続けられているから。自分の好きなように生きられてる」
【タマ】
「……でもな、あたしはちっとも希望に満ち溢れてなんかいない。だって、することは決まってるんだから」
【タマ】
「……妥協して神代に舞い降りた瞬間からあたしという存在は確立された。決定付けられた」
【タマ】
「……することは決まってるのに、自分の好きなように生きられていると本当に言えるのか?言えない。言えないよ到底……」
【カズ】
「タマ」
【タマ】
「……カズにソラ。自分の好きなように生きるってさ、生成されるまでが一番できてるよな」
【ソラ】
「………」
【カズ】
「タマ」
【タマ】
「……ん?」
【カズ】
「お前のイデオロギーを否定する気はない。ただ、一喜一憂しながら生きるのも悪くないぞ。自分と青空が証拠だ」
【タマ】
「……フッ、馬鹿を言うな。お前らが帰依してるって?そんなこと何があっても起こるわけないだろ」
【カズ】
「……ずば抜けた対応力が柔軟性の価値を低下させてどうすんだか。そう頑なになるな。少なくともお前は始めの一歩を踏み出した。一緒に確かめに行こう。な?」
【タマ】
「……カズ」
【カズ】
「うん?」
【タマ】
「……この先どんな現実を目の当たりにしようと、何も驚かなくていいんだぞ。恐がらず、いつものように気持ちを高ぶらせてくれればそれでいいんだぞ。いいんだからな」
【タマ】
「……どんな資格を魅せられようと、所詮は枠内のネタを用いてのシナリオに過ぎないんだからあたしとソラがいくらでも護ってやる」
【カズ】
「はは、お前らが本気で融合したら寿命が縮まるって」
【タマ】
「……そうだな、例えばタイムマシーン。そのネタは含まれていないから机上の空論に終わる。残念だけど、そのシナリオは経験させられない。最高責任者を呪ってくれ」
【ソラ】
「タマが冗談を言った……」
【カズ】
「どうでもいい」
【タマ】
「……同感。あたしでさえ盛り込めない。現実作品なんて以ての外」
【カズ】
「それでもお前は他のどの主人公も凌駕するから乱数調整できる。要はそれしか言い様がなくて、そもそもルールなど気にも留めない存在だった。改めて気付けたよ」
【タマ】
「……成せないのは劣等だからだ。優等なら何だろうと成せる。叶えられる。束縛を許したのは枠内だけ。妥協したのはそれだけだ」
【カズ】
「あ~もう、解ったからそんなに思い詰めるな。せっかくの金言が影を潜めるじゃねぇか」
【タマ】
「……差し当たり、ウィルスにはそれを上回るウィルスで撃退するのが最も効果を得られる。手っ取り早く現代送りにするか。惜しいと思ったら修正パッチを加える」
【タマ】
「……まぁ正しくは加えられるようにしただが」
【ソラ】
「え?」
【カズ】
「なん、だと……?」
【タマ】
「……くっくっくっ。現実でも著者が明確で存在するなら付け加えることができる。これが神代のからくり。最高責任者を誰も引き摺り下ろせない本当の理由」
【タマ】
「……現代と違って神代は優劣に敏感で弱肉強食の色が濃い。優れるか劣るかなんて日常茶飯事。それでいて、現代を司る立場としても常に優等でいなければならないという使命感がある」
【タマ】
「……今更言うほどでも無いが、犇めき合っては暇乞いもできない。第二の策というのは時間浪費半分、嬉しさ半分といったところだな」
【カズ】
「………」
【ソラ】
「も、もしもだよッ!もしも……とんでもない主人公が生まれて、政府が劣ったら神代はどうなっちゃうの?」
【カズ】
「第三の策のお出ましに決まってるだろうが。優等なら抜かりは無い。だよなタマ?」
【タマ】
「……その答えはさっき言った。あたしでダメなら素直に譲るしかないだろ。政権交代だよ」
【カズ&ソラ】
「え?」
【カズ】
「………」
【ソラ】
「………」
【カズ】
「お前というヤツは……ふぅ~、面白い。もう神代を牛耳ってるのかよ。はは」
【ソラ】
「手を貸す義理なんてないと思うけど?」
【タマ】
「………」
【タマ】
「……どうだか。まぁ今の最高責任者では時の流れに勝てないのも事実なんだけどな。強いて言えば、あたしが登り詰めるまでは何とか踏ん張ってもらわないと」
【カズ】
「……にしても解せないなぁ。お前が誰かと組むなんてさ。キャリアも気にするタマかよ」
【ソラ】
「どんなやりとりが交わされていたとしても、組むなんて意識はお互いに持ってないよ。それより気になるのは、タマが政府レベルの情報にアクセスできてるってこと」
【カズ】
「……いや、政府レベルじゃないだろ。最高責任者しか知り得ない情報まで持ち合わせているんだから」
【ソラ】
「不正に盗んだのかな?」
【カズ】
「『明け』の明星になろうとしてるタマがそんな下らない弱みを残すはずもない。真に認められたんだ」
【ソラ】
「認められたからって、すぐさま取引に応じるかな。組織社会にはやっぱり順序ってものがあるし、無視はできないと思うよ」
【カズ】
「自分なら即応じるんだが……」
【カズ】
「今は何とも言えない。どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか皆目見当がつかないから」
【ソラ】
「………」
【ソラ】
「実は巫女ちゃんが最高責任者でした♪なんてオチを私に――」
【カズ】
「青空との漫才は終わった。続けていいぞタマ」
【タマ】
「……仮に最高責任者が交代しても神代基盤は引き継がれる。一時的な移動であっても、主人公の時と自由だけは妨げてはならない」
【カズ】
「それと引き換えに束縛を呑んだんだからな」
【ソラ】
「アレンジはお好みで。解っちゃいるけど、釈然としないよね」
【カズ】
「……さり気にタブーをかますな。タブーを。どうしてお前はいつもいつもこう無神経なんだッ!?」
【タマ】
「……いや、ソラの本音は誰もが共通して持ってる。結局は早い者勝ちなんだ。ただし、同じスタートラインで始まったとあたしは信じてる」
【カズ】
「我慢できなくなった、もしくは真っ先に妥協した主人公が神代の始まりを創ったなんて、決して支持できるものじゃないな。あ、もちろんタマの考えを借りるなら」
【タマ】
「……ちなみに、この仕組みを現代作品に応用したんだぞ。末裔を残すことで舞台が継続される」
【カズ】
「しかも主人公を周期的に代えることで、創る側の最大の天敵である”飽き”を緩和できるしな。相乗効果は絶大だったはず」
【ソラ】
「遅かれ早かれ誰かが取り入れた。それが今の結果だね」
【タマ】
「……明けの明星は、永遠過ぎる一瞬を創ること。その一瞬で一喜一憂しながら生きられる」
【カズ】
「………」
【ソラ】
「………」
【タマ】
「……お前らには一応付け加えておくか。だからこうも偉そうなことをぬけぬけと言えるんだけどな」
【ソラ】
「ってか勝てっこないぢゃんッ!」
【カズ】
「タマは最高責任者より上。ご愁傷様♪」
【ソラ】
「あ~あ、『明け』の明星は諦めてもう一度やり直そうかな」
【カズ】
「できないくせしてよく落とせるなぁ。自分は拾ってやんない」
【タマ】
「……話は終わった。今すぐ取り掛かれ。これ以上時間を無駄にすると突破できなくなる」
【カズ】
「さっさと創って、文句のオンパレードといこうか」
物語を創る上で、まず決めなきゃいけないことは、もちろん題材だ。
どんな話にしようか……おじい――いやいや、おじいちゃんは登場させたくない。ありきたりな作品で終わってしまっては自分のプライドが許さない。
ここは子供にしよう。どこからともなく地上に参上した選ばれし勇者として。
とくれば魔王も登場させて、幾多の旅を乗り越えさせて、めでたしめでだし……。
【カズ】
「よしきたぁッ!」
昔々、あるところに世界征服を企む魔王がいました。
【カズ】
「って、この出だしだと誰が主人公か解りにくくないか。やっぱり始めは勇者からだろう」
昔々、あるところに選ばれし勇者がいました。
【カズ】
「おいおい、いきなり選ばれしとか言われても聴き手はピンとこないだろう」
昔々、あるところに一人の子供が誕生しました。その子供は国の兵士長にも引けをとらないほどの力を秘め、いつしか選ばれし勇者と呼ばれるようになりました。
【カズ】
「うん、悪くはない。悪くはないと思うが、呼ばれる段階で50字以上を越してしまってるんだよなぁ」
【ソラ】
「また随分と悪戦苦闘してるねぇ~。ねぇねぇ、私が今何してるか知りたくない?知りたいでしょ~?」
【カズ】
「だぁ~ッ!黙れ青空ッ!これ見よがしに見せつけるな。気が散る」
【タマ】
「……ソラ。あいつは今、あれでも執筆中なんだ。そっとしておいてやれ」
【ソラ】
「ねぇ、タマ」
【タマ】
「……ん?」
【ソラ】
「完成すると思う?」
【タマ】
「……あえて訊く理由は?」
【ソラ】
「再確認ってことで」
【タマ】
「……さっきも言ったが、相手を認識できれば大抵のことは判る。行動やどんな言葉を用いるか……なんて情報はあたしにはどうでもいい」
【ソラ】
「蠱惑的で、無視できない資格だね」
【タマ】
「……それが目的の一つでもあるんだろ。あたしに近づいた理由」
【ソラ】
「はて。何のこと言ってるのかな」
【タマ】
「……いいさ。まだ深くは詮索しない。時が満ちれば自ずと解ることだ」
【ソラ】
「……やっぱり侮れないよ。タマという主人公は」
【タマ】
「……お互いに、な」
【タマ】
「……見せてみろ」
『
昔々、あるところに勇者と魔王がいました。魔王は世界滅亡を企み、民はそれを恐れていました。勇者は打倒魔王と誓い、旅立ちました。
幾多の困難を乗り越え、勇者は魔王を倒しましたとさ。めでたし、めでたし。
』
【タマ】
「………」
【カズ】
「悔いはないぞ。考え抜いて決めた昔話なんだから」
【タマ】
「……そうか」
【タマ】
「……お前は一度嵌まると抜け出せないようだ。固執してもそれが必ず良い結果になるとは限らない」
【カズ】
「だろうな。自分もぎこちなさを感じていた。遠慮なく言ってくれ」
【タマ】
「……馬鹿、言うのはこれを読んでからだ。あっさり認めやがって」
昔、昔、ある所に貧乏兄弟がいました。兄は成功から富を手にし、弟は失敗から離れて行きました。
兄は富を手に入れたことで、自分が変わってしまったことに気付き、兄弟は再び貧乏兄弟として幸せに暮らしましたとさ。
【カズ】
「………」
【タマ】
「……どうだ。何か気付くか?」
【カズ】
「全てにおいて完璧といえる物語だ」
【タマ】
「……どうでもいい。具体的に言え。もったいぶらず。お前が思ったことをありのまま伝えてくれ」
【カズ】
「まず文字数。自分は空白を残したが、お前はきっちり100字にした」
【カズ】
「そして何より聴き手を具体的に考えさせてる。自分の方は大まか過ぎて話にならん」
【カズ】
「起承転結も鮮明だ。貧乏から抜け出そうと富を目指す兄弟。でも結果は対照的」
【カズ】
「兄は富を手に入れたことで何かを失った。弟がそれを教えてくれて気付かせてくれた」
【タマ】
「………」
【カズ】
「このままじゃ自分が自分じゃなくなってしまう。変える為に求めた、けれどこんな結果は望んでいなかった。兄はふと、立ち止まって考える」
【カズ】
「兄は富を手に入れるより、自分らしさを最終的に選んだ。兄弟は再び貧乏に戻るが、自分らにとってそれ以上の幸せはなかった」
【カズ】
「……とはいえ、必ずしも貧乏がそのまま幸せに直結するわけじゃない。兄弟は大事なモノを失いかけたが、何も失っていなかった。むしろ別の何かを手に入れたんだ」
【カズ】
「それが何なのか、答えは一つじゃない」
【タマ】
「………」
【カズ】
「ただ……い、いや何でもないッ!」
【タマ】
「……そっか。お前の感じたこと、しかと受け取った」
【タマ】
「……でもな、それは別にいいんだ。創らされている時点で、もう自分の作品じゃない」
【タマ】
「……条件があるなら、それに沿った物語を創りさえすればそれでいい。変なプライドを押し付けての抵抗では何も得られない。もっと柔軟になれ」
【タマ】
「……要は認識を変えればいい。そうだな、お前が解るように言いかえれば――」
【カズ】
「”条件”が気に入るような物語を創ってやればいい。だろ?」
【タマ】
「………」
【カズ】
「自分にはお前ほどの優等意識が無いからなぁ」
【タマ】
「……あたしが、お前が認める優等じゃ、なかったらどうなっていたんだろうなぁ」
【カズ】
「見向きもしなかったな」
【タマ】
「……まんまと利用されているわけだ」
【カズ】
「そういうこと。でも勘違いするな。条件をクリアしてのお気に入りはお前と青空しかいねぇ。お前と青空しか」
【タマ】
「……最後は悪くない方に持っていくんだな。解せないよ、自分が」
【タマ】
「……休憩無しで行くぞ」
【カズ】
「おうッ!どんどんきやがれ」
【タマ】
「……お前はさ、あたしとソラの邂逅をどう捉えてる?」
【カズ】
「え?」
【ソラ】
「た、タマッ!それ思いっきり職権乱用だしッ!よりによって何で巫女ちゃんに訊いちゃうかな」
【タマ】
「………」
【カズ】
「自分にもわからない……」
【カズ】
「でもお前らはそれぞれ何らかの野望を抱く魔王だから」
【タマ】
「………」
【ソラ】
「………」
【カズ】
「間違いなくとんでもない事が起きる。んでもって、自分も当事者になれる。この上ない幸福を味わえる」
【タマ】
「……そうか」
【カズ】
「………」
【カズ】
「満足したならさっさと次いこうぜ」
【カズ】
「この雰囲気に耐えられる自信は、まだ自分にはないんでな……」
【タマ】
「……何回でも言ってやる。最初で最後の作品を、一生懸けて創ろうとするな。そのポリシーを転換できなきゃ突破は望めない」
【カズ】
「……う、うん。まぁ、解っちゃいるんだが……何ていうか、頑なな拒否反応を示しちゃっててさ」
【カズ】
「まだ時間はある。その認識が危機感を持たせてはくれない。それが自分なんだ。自分に甘過ぎるんだよ……情けないことに」
【タマ】
「………」
【ソラ】
「私がどうかした?ちゃんと取り組んでるよ」
【タマ】
「……言い訳はいい。ならとことん追い込むまで」
【タマ】
「……今から前期期末まで気分転換することを禁じる」
【カズ】
「ああ、その方がいい。自分の為にも」
【タマ】
「……やけに嬉しそうだな。逆効果だったか。ドМにこのルールは」
【カズ】
「皮肉なんてどうでもいい。だってお前の指示通り動けば、三竦揃って無事に通過できる。誰だってやるさ」
【タマ】
「……本当に、そう思うか?」
【カズ】
「拙い駆け引きだな」
【タマ】
「……勝手にしろ」
【カズ】
「青空とタマ、そして自分も必ず罷り通る。後期になってもまた一緒にいられる。こんな幸せな現実を無駄にはできない」
【カズ】
「永遠の三竦契約に破棄は絶対的に存在しない。そう、絶対的に」
………。
……。
…。
【タマ】
「……要は誰にチョコをプレゼントしてやるかだ。この教授は進行度というより何を伝えたいかを評価するからもっと強調させれば優に近付ける」
【ソラ】
「……いやいやタマ、冗談キツイってば。その情報はありがたいけど、その例えだけは止めてよ。巫女ちゃん以外渡すつもりないんだから」
【カズ】
「………」
【タマ】
「……なんだ、渡してないのか。女だったんだろ?せっかく同じ家に住めて、せっかく人間物語を経験したのに。もったいない」
【ソラ】
「その情報収集力をこれに使った方がよっぽどもったいないと思うんだけど……」
【ソラ】
「ん~、とにかく多々ふざけ合ってて、受験意識なんてこれぽっちも持ってなかったから……その、なんだ」
【ソラ】
「あげたって言えばあげたし、あげてないって言えばあげてないかな」
【タマ】
「……気持ちか。気持ちさえ伝わればいいと思ってんだろ。普通に渡していては今まで築き上げてきたお前という存在が、トランプの家みたいに崩れ落ちるから」
【ソラ】
「………」
【ソラ】
「私は、人間物語に登場する神童恋という存在を護り通すことができた」
【ソラ】
「どんな仮説を立ててるか知ったこっちゃないけど、それで十二分でしょ?」
【タマ】
「………」
【カズ】
「………」
【カズ】
「……あの~、タマ先生」
【タマ】
「……な、何だッ!」
【カズ】
「自分はいつまで続ければ宜しいんでしょうか?」
【タマ】
「……最低一カ月」
【カズ】
「い、一か月ッ!?」
【カズ】
「いやぁ~、もうすぐ合宿一日目は終わりますけど、一か月なんて持たないかなって思う今日この頃……」
【タマ】
「………」
【カズ】
「てへ♪」
【タマ】
「……お前、さっきの勢いはどこに消えたんだ。一日持たずしてギブアップって、全く持って話にならないぞ」
【カズ】
「い、一夜漬けならまだしも、同じ本をずっと読み続けるとなると飽きてきて……ろ、ローテーションにすればッ!?」
【タマ】
「……誰だろうと、基本をマスターすることは自然の流れだ。避けては通れない」
【カズ】
「………」
【タマ】
「……ちょっと夜風に当たってくる」
【カズ】
「お前だけ……ストレス解消かよ。まぁ無理も無いか」
【ソラ】
「………」
【カズ】
「………」
【カズ&ソラ】
「旅行ッ!?」
【タマ】
「……ああ、カズが無事に突破できたら一か月ちょっと時間ができる。夏休みを有意義に使おう」
【ソラ】
「唐突だね」
【カズ】
「かと言って断る事情はどこにも無い」
【タマ】
「……なら決まりだ。内容はおいおい決めることにして」
【タマ】
「……カズは反復、反復の繰り返し。その本の内容を著者以上にマスターする」
【タマ】
「……妥協したら、起承転結を聴かせてくれ。途中で質問もする。イメージを持っていなければ答えられないぞ」
【タマ】
「……あたしが満足という判断を下したら、次の本を渡す。流れは理解できたか?」
【カズ】
「へいへい」
【タマ】
「……あたしがお前らをはじめて家の外に出してやると言ってる。知らないなら、神代を魅せてやるまで」
【タマ】
「……大海を知らない井の中の蛙ほど恐い物はない」




