新入生研修会
〈新入生研修会〉4月13日~4月14日火曜日~水曜日
そういえば、入学式の話をしていなかった。
学長の長い話と新入生代表スピーチ等……。
特に目立ったハプニングも無かった。
それだけマジなヤツが多いという証拠だろう。
マジじゃないのは自分ぐらい。
他よりいい物語を創る。
ダメなら、他よりいい会社に入る。
言いかえればそんなところだ。
自分は神代は自由と言った。
だが、物語を創ることだけが全てじゃない。
何をしてもいい。
その自由度が逆に困らせる場合もあるのも事実だ。
自由と言われても、何をすればいいのかわからないヤツはゴマンといるだろう。
【???】
「目にも留まらぬ速さで成長を求めれば、それだけ土台の寿命を縮めることになると思うんだが……」
と率直に思う。
一見正しく、美しいように見えるが、完全自由の課題はそこにある。
【???】
「そこ、うるさいぞ」
こういう怒られ方は存外嫌いじゃなかったりする。
どんな状況においても、自分の世界に浸れる自分でありたい。
入学試験じゃ腐るほど観てきた。
超ご都合物語の主人公によく見られる特徴そのものを。
しかし、現実はそうウマくいかないものだ。
でも本当はそうありたい。
【???】
「いいか、君達は将来この世界のトップになる可能性を秘めている」
【???】
「(くだらん……)」
トップでなくとも、創作家の需要は数知れずあるというのに、いきなりデカく出たもんだ。
【???】
「自分に磨きをかけるため、この先旅立つ者も現れるだろう」
【???】
「その時は、神代政府公認の学生証を提示しろ。どこに行っても優遇される」
【???】
「何を見て、何を感じて、何を思うかはそれぞれであるが、世界を知って自分を育め」
【???】
「そうすれば、自ずと道は切り開いてくれる」
【???】
「話は以上だ。何か質問は?」
【???】
「講義を受けて単位を取得しなければならないのに、旅に出る時間なんてあるんでしょうか?」
【???】
「ふむ。何か勘違いしているようだから言っておく」
【???】
「全ては自分次第だ。今から怠けてたら時間なんて作れないぞ」
【???】
「時間は自分で作る。どこにおいても限られた時間の中であることを忘れるな」
【???】
「大学を卒業すれば嫌でもわかることになる。肝に免じておけ」
要するに、始めのうちに必修単位と卒業条件単位数を満たしておけということ。
ということは、しばらく長期的な旅は難しいだろう。
当分は机に向かって、黙々と講義を受けることになる。
でもそれだけじゃ何も起こらない。
それでいて、起こる前にできることを今からやっとくべきだ。
情報を簡単に得るには、先輩様方と絡むのが一番手っ取り早い。
となれば、自動的に委員会もしくはサークルということになる。
【???】
「早急に見つけておかないとな」
学生証があれば、どこにでも入場できる。
たとえ入場を断られても、相手は拒否できない。
それがこの学生証の強みであり、受験生全員の第一目標であった。
最高責任者の意図は、何の障害もない自由な環境を金の卵達に提供すること。
磨いてみないと判らない無数の原石だからこそだ。
同時にそれはみんなの願いでもある。
誰かはなる。
いや、ならなければならない。
自分達は常に優等であり、現代の神だから。
研修は自然に囲まれたような清々しい場所で行われていた。
学部ごとに分かれ、自分も真剣な面持ちで話を聞いていた。
その後、交流会が始まり、周囲は溢れんばかりのざわめきで熱気を帯びる。
情報交換するモノ、互いを知ろうとするモノ――打ち解けた雰囲気は想像以上に上々だった。
そんな中、自分は大会場の隅で静かに辺りを観察していた。
【???】
「……はは、場違いにもほどがある」
すっかりこの熱っぽい雰囲気に呑まれていた。
それが原因でこんな隅っこにいるわけじゃない。
罪悪感を否定できなかった。
できるはずもない。
自分は物語を創ることを目標としていない。
自分に言い聞かせる。
それが全く持って無意味であることは知っていたが、どこか救われる気がした。
本音を漏らしても、悪いという気持ちは無いに等しいのに。
【???】
「おそらくこれは――」
【???】
「……大丈夫?」
誰かに遮られた。
想定どおりの展開に、自分は躊躇いもなく、即座に意識を返した。
【???】
「ああ、大丈夫。ちょっと雰囲気に圧倒されて。しばらくしたら慣れると思う」
【???】
「わかるよその気持ち。この雰囲気尋常じゃないもんね」
【???】
「私はね、誰もが笑顔で過ごせる物語を創りたい。幸せと思えることが全てに優先すると思うんだ」
【???】
「物語の設定と個々の個性の融合は決して容易じゃないけど、それでも追い求める価値は十二分にある」
【???】
「その為には一つでも多くを知って、自分の理想とする作品に一歩でも近づけたい」
【???】
「………」
【???】
「……君は本気で、『明け』の明星になれると思ってる?」
【???】
「……はは、それは何とも。でもこの場にいるみんなはなれることを信じて前に進んでる」
【???】
「なれなくてもいいんだ。なれなくても」
【???】
「”明け”はみんなの願い。だからこそ」
【???】
「多少の犠牲はやむをえないと思ってる」
【???】
「これで撤回してもらえるかな?」
【???】
「もちろん」
既に覚悟はできているようだ。
恐い気もするが、幾多の紙一重をどれだけ生き抜けるかどうかの世界だ。
そもそも、揺るがない覚悟と自分を持っていなければ、この場にはいれないだろう。
【???】
「……って、自分の話ばかりでごめん。君の――」
【???】
「時間だ」
割り振られていた部屋に戻ってみると、いきなりルームメートが暇な時間を埋めようと、探り目的の自己紹介をしていた。
こういう雰囲気に合わせることもなく、自分だけ外に意識を向ける。
【???】
「おい。一時的な感情に惑わされるな。必ず高ぶりはおさまる」
【???】
「………」
……誰が言った?
そんなことはどうでもいい。
気にいらないのは、挑発して探りを入れようとするところ。
だが、まだそれは許せる。
本当に気にいらないのは、自分にしか知りえないことを自分は見抜いてる前提で話を進めるところ。
自分は優等でも何でもないのに。
【???】
「同感だ。誰もが演技しながら生きている」
そうやって生きてきた。
決して見られたくないから。
知ってもらいたい部分と知ってもらいたくない部分は誰にもあることだ。
だから誰もが演技する。
【???】
「社会に出たら、その演技により磨きがかかるかもしれないが、同時に限界も感じるはずだ」
【???】
「………」
誰が見たって、レベルが違い過ぎる。
まるで、世界一入学が難しいと言われる大学に、世界一デキの悪い大学志望者が入学できて最初に味わう感覚みたいな……。
【???】
「(……って、事実か)」
【???】
「どうでもいい」
【???】
「この先何があろうと、自分のしたいことをする。手段は問わない」
【???】
「失うものは何も無いッ!」
柄にもなく、つい感情的になってしまった。
【???】
「元々気分が悪かったんだよ」
バタンッ。
【???】
「………」
【???】
「……ふぅ」
空気が美味しい。
【???】
「いきなりため息ですかい?」
瞬間は使っていないようだ。
わかる。意識は保っていたから。
【???】
「報告しますッ!」
【???】
「つばめちゃんは不合格でもサクラでもなく、この大学の職員でした♪」
【???】
「………」
面白い。
このタイミングでの、この驚愕の事実。
【???】
「報告ご苦労。もう下がっていいぞ」
空気が美味しい。
今度は別の意味で。
【???】
「『一時的な感情に惑わされるな。必ず高ぶりはおさまる』か……」
先ほどの高ぶりは静まったが、別の高ぶりが生まれようとは思いもしなかった。
『現代篇:月乃森 つばめ 役(家事の神様)』
簡単にいえば、入学試験で我が家のメイドをしていた。
確か両親はどこかの雪国に暮らしている設定で、家事全般を行っていた。
【???】
「にしても」
【???】
「………」
【???】
「……この流れ。何となく覚悟が必要だな」