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『明け』の明星(神代篇)  作者: どうしてリンコは赤いの?
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事実は小説よりも奇なり

〈事実は小説よりも奇なり〉4月30日金曜日

【カズ】

「お前らには何が何でも刮目してもらいたくてな。だから呼んだ」

【サヤ】

「………」

【コウ】

「……はは。笑いしか出てこねぇ。ソラの幸せを何だと思ってやがんだ」

【カズ】

「それでいい。せっかくの歓迎の席を台無しにされちゃたまらん。お前らは隅っこでこの雰囲気を噛み締め」

【コウ】

「この雰囲気?自分でさせといて何言ってやがんだお前。あ~あ、少しでも期待した自分が馬鹿だったよ」

【コウ】

「おいサヤ、黙ってないでお前も何か言ってやれよ。虫の居所が悪いままで帰れないだろ」

【サヤ】

「これが、夢にまで見たタマの……間近で感じると……許されるというの……?」

【コウ】

「……ってお前というヤツは。この状況で怒りの矛先を間違うなんて――ッ!?」

【サヤ】

「許せない。横取りはさせられない。いくらあなたが相手だとしても、必ず止めてみせる」

【サヤ】

「『明け』の明星を諦めてでもね……」

【タマ】

「……諦めるも何も、そもそも目指してもいないだろ」

【サヤ】

「ッ!?」

【コウ】

「へ……?そ、そうなのかサヤ……おい」

【コウ】

「なら何でここに来た……聴きたくはないが、もしかしてお前も誰かの駒なのか?特攻隊とでも言うのかよッ!?」

【ソラ】

「これだから魅せられない」

【カズ】

「何のことだ?」

【タマ】

「……誰もが誰かを求める。その後は求める中で自分が一番好むモノを選びたがる。そして打って付けはこれだ」

【タマ】

「……コウ、だったっけ?お前の姓名。お前もアレか。初対面のあたしの言葉の方を信じるのか」

【コウ】

「……タマ。それは違う。自分はサヤを一番に信じてる。もちろんコイツも同様にな。好き合ってて裏切りなんて絶対的に無い。絶対的に」

【タマ】

「……そこまで心を通わせてるなら、どうしてわざわざ否定してもらう必要があるんだか。あたしには解せない。お前らの価値観が。お前らの幸せの形が」

【コウ】

「よかったなぁ。呼ばれたくても、自分とサヤが食い止めるから略奪者とは呼ばれない。その辺にしとかないと、本気で怒るぞ」

【タマ】

「……まだ、飲み込めないのか?」

【コウ】

「ん?お前は何を言って……?」

【タマ】

「……こっちはどうかな。カ――」

【ソラ】

「いやぁ~、コウとサヤには”バツ”が悪い思いをさせちゃったね~。元々当事者同士で解決して然るべき問題だってのに。ごめんごめん♪」

【コウ】

「好きでやってたこと。気にするな。だが後はお前らで何とかしろ。自分達のお節介もここまでだ。それより」

【コウ】

「………」

【タマ】

「……さて、あたしの役目は終わった。帰るぞ。他意はないよな?」

【サヤ】

「………」

【コウ】

「なん、だと……?役目?何のこと言ってるんだ」

【カズ】

「タマ。一体どういうことなんだ?説明するまで帰らせん」

【サヤ】

「タマにとっても、第三者の介入は避けたかったってこと」

【カズ】

「………」

【タマ】

「……お前はこうなることを知っていた。だから本当は連れて来たくなかった。見え透いた挑発に乗ると確信してたから。けれどコウに嘘はつけなかった」

【サヤ】

「もし、私だけが来たとしてたらどうしてた?」

【タマ】

「……正しい選択をしたんだ。訊くまでもないだろ」

【サヤ】

「……はは、噂は本当だったね。敵うはずもない。私の先の、どこまでも先を行ってる」

【タマ】

「……飲み比べ対決に挑んでも無駄な時間を過ごすだけだからな。まぁこれでよかったんじゃないか」

【サヤ】

「ふふっ、お見事」

【コウ】

「お、おいサヤッ!これはどういうことなんだ……」

【カズ】

「う~ん、話が全く見えん……」

【タマ】

「……お互い、馬鹿を持つと難儀になって退屈しないな」

【サヤ】

「退屈だったの?」

【タマ】

「……まだそんな、無意味な余力を残してるなら、ちっとはソラの姿勢を参考にしたらどうなんだ」

【タマ】

「……お前は心に鍵を掛けてるが、ソラは施錠しないままだ。明らかに誘ってる。物怖じしてない」

【サヤ】

「それは考え方の違いじゃないかな?罠を張ってるからって、要す時間はあまり変わらないと思うけど」

【タマ】

「……自分を信じる気持ちと相手に与えるメッセージだよ。駆け引きであたしに挑むんであれば、少なくとも後者は絶対的条件だ」


【ソラ】

「……ほらね。タマを誰かに紹介すると、いつだってこういうオチになっちゃう。まったくとんでもないペットを飼ってしまった」

【カズ】

「そういうなって。お前の時もそうだったろ?何かとグダグダになる。第三者はこれ以上増やさないからそれで機嫌直してくれよ」

【ソラ】

「数少ない巫女ちゃんの友達だったんだよ?それを、タマはいとも簡単に家の外に追い出しちゃったんだよ?排除すべき存在は見境も無くだよ?」

【ソラ】

「物事には全て順序があるから物語が成り立ってる。先に待つ山あり谷ありを気長に待って楽しむべきなのに、いきなり谷底に突き落とさなくてもいいぢゃんか」

【カズ】

「……何最もらしいこと言ってるんだ。鳥肌が立ってきたぞ」

【カズ】

「それにさ、自分は青空とタマさえいてくれればそれでいい。ダチも何者ももはや必要無い」

【ソラ】

「ああ言えばこう言うってね。巫女ちゃんはいつまで経っても若いね~。本当は裏切られるのが恐くて作らないだけなのにさ~」

【カズ】

「………」

【カズ】

「……た、タマッ!」

【タマ】

「……ん?」

【カズ】

「自分らに構ってる暇があったら、もっとお互いの未来に目を向けろッ!」

【カズ】

「お、お前のしたことには、そういったメッセージが込められてたんだよな?」

【ソラ】

「むッ!に、逃げるなんて卑怯なッ!子供なら子供らしく正々堂々戦って犬死にしろ~ッ!」

【カズ】

「へへっ、イヤなこった。ませたガキだっていんだよ」

【ソラ】

「自分がガキだってことは素直に認めるのね。ってか今認めたよねッ!?」

【カズ】

「や、やべぇッ!やはり織り交ぜていたか。手の込んだ真似を。こうなれば」

【カズ】

「………」

【カズ】

「……そういえば帰ってないな。お前」

【タマ】

「……あたしは」

【タマ】

「……あたしはクラシックは大好きだが、歌詞付きの曲は大嫌いだ」

【タマ】

「……なぜかって?理想を別の方法で表現しようとする行為自体がそもそも受け入れ難い。本当はそう思ってる。だげど現実はそんな簡単な物では無いんだと」

【タマ】

「……なんだそれ。全然理由になってない。創れないからって、そこで妥協するのか?それで満足なのか?気休めに過ぎないだろ」

【タマ】

「……事実は小説よりも奇なり。知ってるだろ?」

【タマ】

「……創ってやろう。創る側を凌ぐ現実をさ。あたし達だけでも」

【カズ】

「………」

【ソラ】

「………」

【タマ】

「……どうしたお前ら。質問に答えてやった。あたしの気持ちも、今回ばかりはちゃんと伝えた。もっと喜んでいいはずだろ」

【カズ】

「それ、昨日の質問……」

【タマ】

「……え?い、いや悪いッ!同じ質問を繰り返したか。今で言うと――」

【カズ】

「何も考えるな。今日は自分が付き添っててやる」

【ソラ】

「へ?」

【カズ】

「へ?じゃねぇ。お前の家に泊まるんだよ。一緒に看病してやんの」

【カズ】

「っと、お前も嫌だとは言わせないぞ。なんせこんな醜態を晒してしまったんだからな」

【タマ】

「……今更反論しても無駄だけど、一応しておく。どこも悪く無い」

【カズ】

「はいはい。素直じゃないのはいつものことだから。自分は医者じゃないけど、恐らく精神的疲労が原因だろう」

【タマ】

「……だ、だからあたしはどこも悪くないッ!それでもこのまま敢行する気なら、それは一方的な勘違いだッ!」

【カズ】

「あ、ああ。わかってるよ。だから落ち着けってとりあえず」

【ソラ】

「ね♪ツンデレでしょ?タマって。そそられた?」

【カズ】

「お前の時よりずっと気分はいいぞ。演技だけど、演技になってないところが特に」

【ソラ】

「……せっかく褒めてあげようとしたのに、私への悪口でマイナスだ」

【カズ】

「タマ、だからな。仮病使ってもまだ許される」

【ソラ】

「うんうん。途中経過は私が優勢か。まぁ当然といえば当然なんだけど」

【カズ】

「猛追してます」

【ソラ】

「え?」

【カズ】

「その証拠が今です」

【タマ】

「……あたしを無視するとは肝が据わってるな。カズ」

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