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『明け』の明星(神代篇)  作者: どうしてリンコは赤いの?
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二足の草鞋

〈二足の草鞋〉4月25日日曜日

【警察官】

「この辺で一番美味しいコーヒーを堪能できる喫茶店?」

【カズ】

「昨日案内してもらったんですが、道順をすっかり忘れてしまって。本当にすいません」

【警察官】

「あそこじゃないですかね。今月になって平日はほとんど休みがちの、日曜は必ず営業するあの喫茶店。結構有名ですよ」

【カズ】

「多分合ってると思います。案内お願いできますか?」


【忍】

「さすが神童くん。来てくれるって信じてたよ。さあ早く中に入って入って」

【カズ】

「にしても驚いた。あの行列って全部お前の客だろ。並大抵の努力じゃこうはならないって絶対的に」

【忍】

「その努力が報われてボクは幸せ者だね。神童くんにも分けてあげるから楽しみにしててよ」

【カズ】

「……あ、ああ。覚悟は今の内にしとく。しとかないとヤバい気がするんで。うぅ~、緊張してきた」

【忍】

「そんなに強張らなくてもいいのに。だって開店時は、思ったほどパニックにならないから安心して慣れていけるかなって踏んでいるんだから」

【カズ】

「お前は慣れてるから簡単に言えるんだよ。あの行列が一気に雪崩れ込んできたら自分はたちまちパニックに陥る。これは予言できる。い、今言ったからなッ!?」

【忍】

「す、少し落ち着こう。理由はこれからちゃんと説明するから、ね」

【忍】

「まず振り分けから言うと、ボクはキッチンで神童くんはホール。応対の仕方とかマナーとかは特に気にしなくていいから気ままに。いつもの神童くんらしく接して」

【忍】

「ただ、相手を不快にさせるような言葉遣いと態度は厳禁。後来客順に注文を取ること」

【カズ】

「ちなみに、まだ選んでいる最中だったら、一言断りを入れてから次のお客様のところに行くこと。だろ?」

【忍】

「うん。でね、さっきの話に戻るんだけど、開店時に限り、奥から座って頂くシステムだから迷うことはないと思うよ」

【カズ】

「それを聴いて安心した。自分のペースで慣れていけそうだ」

【忍】

「解ってると思うけど、勝負は昼だからね。これから来客されるお客様はコーヒーやデザートが主だし」

【カズ】

「了解しやした。マスター」

【忍】

「ま、マスターってのは止めてよ。ボク学生だよ?神童くんと同じ」

【カズ】

「そう、それ。あのよ~、忍。前々から引っ掛かっていたんだけど、何でまた二足の草鞋を履いてんだ?」

【忍】

「仕事が終わったら話すよ。今はお客様に集中」

【カズ】

「……約束だぞ。ちゃっちゃと終わらせよう」


【客】

「おい、注文はまだか……って、そっちは今座った客だろッ!順番間違うなよ」

【カズ】

「い、いえッ!そうではなくッ!勝手に座られ――すぐお伺い致しますッ!少々お待ち下さいッ!」

【客】

「取ってからじゃねぇだろ。取る前に来るんだよ」

【カズ】

「も、申し訳ありませんでしたッ!なにぶん、今日入ったばかりの新入りでして」

【客】

「お前、客に対し言い訳すんのか」

【忍】

「がんばれ、神童くん」


【カズ】

「ふぃ~、終わったぁ~。何とか逃げ出さずにやり遂げられた。好きじゃなきゃ無償でなんか誰もやっていけないって、こんな仕事」

【忍】

「お疲れ様。そしてありがとう。淹れ立てコーヒー召し上がれ」

【カズ】

「おッ!サンキューッ!やっぱりこれに限るぜ。気分転換には一番」

【忍】

「ふふふ」

【カズ】

「何だよ、ニヤついて。気色悪いなぁ。そんなに自分の働きぶりが立派だったか」

【忍】

「飲んでみてよ。残り時間は持って2秒」

【カズ】

「なッ!待てッ!……ずずっ」

【忍】

「………」

【カズ】

「………」

【忍】

「どうかな?」

【カズ】

「美味いッ!というより癒される~。旨過ぎてどうにかなりそう……ほ、ホントに上手いなぁ。どうやったらこんなコーヒー作れるんだ?」

【忍】

「神童くんにならレシピを教えるよ。今日の給料という形になっちゃうけど」

【カズ】

「……いやいや、それじゃ釣り合わんだろ。1日――1年働いても割に合わない。ここは丁重にお断りする」

【カズ】

「でもさ、どうしてこんなに持続性が無いんだ?そりゃ冷めちまえば本来の良さを失うことになるが、それでも短過ぎるって」

【忍】

「飲食だって、主人公と同じ。一番輝ける時期がある。そこをボクなりに見つけただけだよ」


【忍】

「ボクだけでできると思って、先週挑戦してみたんだけど、まだ無理があった。集中砲火はキツイや」

【カズ】

「……いい加減にしろっての。注文取って、一から作ってたら回るものも回らない。おとなしく資格使えよ」

【忍】

「”生産”のこと?使わないよ絶対的に。お客様には常にいい気分でいてもらいたいから」

【カズ】

「……んで、来週はどうするんだ?」

【忍】

「GWを理由に休業にするつもり。再来週までに誰かを雇えればと思ってる」

【カズ】

「雇えるはずねぇだろ。希望的観測をして何になる。自分を慰めてるつもりか?」

【忍】

「今はそれでいいんじゃないかな?単なる先延ばしだけど、時間は稼げるし……」

【カズ】

「………」

【カズ】

「……ったくよ~、コウといい、忍といい、どうして自分の周りは沈んだダチが多いかね」

【カズ】

「ボランティア精神じゃ意味が無いんだ。本気で好きで、この仕事がやりたいって思う主人公じゃないと」

【忍】

「でもそういう神に限って、経営者を目指してるんだよね」

【カズ】

「もしくは現代を選ぶかだろうな」

【忍】

「頑張ってみるよ。雇えなくても、ボクだけで回せる方法を考えてみせる」

【カズ】

「……なぁ、いい加減止めねぇか。その雰囲気。今は自分と忍、だけなんだからさ」

意識をどこかに逸らし、再度意識を傾ける。

【忍】

「そうだな神童。これでボクも、張ってた気を緩めることができる」

【カズ】

「……あぁ、ボクは変わらないんだったな」

【忍】

「なに?」

【カズ】

「何で大学に行こうと思ったんだ?自分のやりたいことがデキてるのにわざわざ」

【忍】

「動機は単純だよ。神代政府最高責任者のメッセージがあったから」

【カズ】

「何だお前。それだけで受験したってことか?いくら何でも急過ぎるだろ。崇拝してても」

【忍】

「しかも今年は過去に例を見ない熱のこもった激励を受験生に送っていた。ボクはピンときた。これは何かあるんじゃないかなってね」

【カズ】

「………」

【カズ】

「危惧してんじゃねぇの。毎年毎年凶作続きで、いつまで経っても『明け』の明星の後継者が現れないから」

【忍】

「だったら、尚更ボクがなるしかないよね。これといって決まりも無かっただろうし、結果さえ出せば」

【カズ】

「………」

【カズ】

「……今は従来の忍が現れて欲しい。扱いづらいよ、ホント」

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