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『明け』の明星(神代篇)  作者: どうしてリンコは赤いの?
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コウの苦悩

〈コウの苦悩〉4月24日土曜日

タマさんの正体。

皆さんもご存じのとおり、『明け』の明星コンクール高等の部優秀賞者。

その輝かしい功績の内容とこれまでの軌跡に関しましては、私の所属する青空報道同好会の部長が書き上げた記事が全てであります。

【ソラ】

「タマだったり、タマさんだったり、大忙しな文章だね~。批判も割り込んじゃったみたいだし。ここは一つ止揚してみたら?」

【カズ】

「……って、いきなり破るかお前。いやいい。この局面はどうみたって、自制心を信じるべきだった」

【ソラ】

「いやいや。遅かれ早かれいずれは反省するんだから、嘆くより繰り上げされたことを喜ぶべきだってそこは」

【カズ】

「ってことは、これで通るわけ?いいのか。他に触れるんだぞ、この内容」

【ソラ】

「いいのいいの。巫女ちゃんに推敲なんて言葉は似合わないし、意味だって解りっこないんだからこれで」

【カズ】

「……まぁ所詮、サークル活動だから何とでもなるが、それでも誤字脱字ぐらいはチェックすべきだろ」

【ソラ】

「それは私がやっとく。巫女ちゃんは止揚の為の愛称を考えてて」

【カズ】

「止揚っておい。タマでいいだろそこは」

【ソラ】

「ツンデレ」

【カズ】

「何だって?」

【ソラ】

「ちょっと黙ってッ!まだ全部読み終わってないんだから」

自分にとってタマの残した眩し過ぎる軌跡など、始めからどうでもいいのですから。

【ソラ】

「………」

【ソラ】

「お、お前はこの特集そのものを潰す――いや、それはいい。タマがどうなろうと知っちゃこっちゃない」

【ソラ】

「……見過ごせないのは、迚もかくても私の努力は無駄だったと言いたいこと。しかも最後に持ってくるところが否応にも悪意を感じる」

【カズ】

「本音に他の入る余地は一切ない。それにな、この企画を考案した部長兼編集長であるお前の責任だ」

【ソラ】

「………」

【カズ】

「フッ、何も言い返せまい。今回ばかりは自分の勝ちかな」

【ソラ】

「ま、まだ突破口はあるッ!」

【カズ】

「読めよ。抜かりは無い」

タマと永遠の契りを交わす。それ以外何があろうというのか。

何もない。

実を言うと、あの天上天下唯我独尊のタマこそが、自分の好みのタイプだったりする。

【ソラ】

「………」

どこの誰かさんと違って囂しくないし、普段は寡黙で、決して多くを語らないところもそそられる。

かといって、タマしか見えてないのも嘘になる。それだけは伝えておく。

【ソラ】

「ここでこんなフォロー要らないって……思いっきり卑怯。最悪。私の今の立場を考えてよ」

【カズ】

「もう一回言わせたいのか?いいから黙って読み終えろ」

お前が会話のやりとりで、一瞬だけ間を持たせる意図はしっかり掴んでる。

全勢力の中から光の如く検索をかけ、悔いの残らない自分が納得できる言葉を瞬時に導き出していることを。

特に意味はない。ただ単に何でそんな煩わしい真似をする必要があるのかと思っただけだ。

心の奥底に深く、どこまでも深く眠らせた本当のお前が、他に対し、表面上でくっきりと見える状態で、求めることがあるとするならば。

自分は全てを懸けて、お前を、本当のお前を引き摺り出す。

今や、お前じゃなきゃダメなんだ。

青空報道同好会所属 専属取材記者よりタマへ。

【ソラ】

「………」

【ソラ】

「……ってラブレターかよッ!わ、私だって一度も貰ったことないのに。くっそ~、タマッ!この恨み、いつか晴らしてやる~ッ!」

【カズ】

「……第一声はやっぱそこに食い付くのな。覚悟はしていたがさて。何て切り返そう」

【ソラ】

「うぅ……私も欲しかったなぁ。こうなるんだったら私の特集にするんだったよぉ~」

【カズ】

「あ、それ頂き♪お前の特集なんて誰も見ねえっての」

【ソラ】

「よし決めたッ!タマ特集は打ち切りにして、神童兄妹特集にすり替えちゃおう」

【カズ】

「編集長の決定は絶対的だもんな。悪くても逆らえないし、指示には素直に応じるよ」

【ソラ】

「今日はやけに絶口調だね?」

【カズ】

「おかげさまで。お前が絶不調で本当に良かった」

【ソラ】

「あ……」

【カズ】

「それを組ませるには、どうしても罷り通らない致命的な盲点があるよな。それが条件だ」

【ソラ】

「投了で」

【ソラ】

「あッ!そろそろ講義始まるって」

【カズ】

「先読みで逃げるのはいいが、お前もちゃんと書けよ……な」


【コウ】

「でさ、その子がこう言うわけ。『ならどうしてこの大学に入ったの?』って。だから自分はこう答えた」

【コウ】

「サヤがどうしても入りたいっていうから。あいつは一度言い出したら誰の意見も聞かないつむじ曲がりなんだって。そしたらこう切り返してきた」

【コウ】

「『言いなりはそんなに幸せ?あなた本当は優等なんだから、もっと利用することを覚えようよ。そういうの、宝の持ち腐れって言うの。知ってるでしょ?』」

【コウ】

「どうして神代の主人公はここまで上にいたがると思うカズ?プライドはいつか自分を滅ぼすのに、ちっともそれに気付かねぇ。落胆しての現代行きはそんなに正当か」

【カズ】

「……神代がそういう性質だから、そのルールに従順なだけだろ。根本的な義務でもあるし、どうもがいても変えられねぇよ」

【コウ】

「確かに変わると何もかもが機能しなくなる。そうなれば、自分がサヤに内緒で立ててる現代行き計画が破綻という末路を辿ることに。考えただけで寒気がしてきた」

【カズ】

「……よくもまぁ、サヤの逆鱗に触れるような発言をぬけぬけと吐けたもんだ。行きたくても行けないから出任せに委ねやがって」

【コウ】

「お前には理解できないだろうが、もう考えてんだよ。先のこと。神代が在る限り永遠は保たれるけど、それは裏を返せば終わりが無いってことで」

【カズ】

「え?なに?いいじゃんそれで。それ以上の幸せがどこにある。贅沢にも程があるってもんだぞ」

【コウ】

「違う違う。何にも解っちゃいねぇな。いいか。終わりが見えてるから永遠なんて言葉を、軽々しく使えんだよ。特に現代はな」

【カズ】

「現代は今関係無いだろ。いちいち比較対象にすんなよ」

【コウ】

「わりぃ。つい八つ当たりしてしまった。でもな、現代行きを欲してるのかね。神代でパートナーを作ることがこんなにも自分を悩ますとは思いもしなかったよ」

【コウ】

「実のところお前だってそうなんだろ?ソラとパートナーになるのを躊躇してる障害は」

【カズ】

「おいおい勘弁してくれ。自分がいつパートナーになるって言った?一回も言ってねぇだろうが」

【コウ】

「うん。その方が無難かもな。自分は手遅れだけど」

【カズ】

「いや、そうじゃねぇだろ。信じてやれよ。サヤのこと。本気マジなら間違っても言っちゃいけねぇ。手遅れなんて」

【コウ】

「お前にはまだわかんねぇよ。同じ日々、同じ生活。ましてや同じことをしていれば、どちらかが必ず妥協する。それがイヤなんだ。気持ちが冷め切って現代に行くことが」

【カズ】

「………」

【カズ】

「……なら今すぐ行くべきだ。そこまで同じ気持ちで終わりたいなら、現代に行って死を迎えた方がいい」

【コウ】

本気マジに次は無い。この意味解るだろ?」

【カズ】

「……試験の時もそうだったけど、案外はっきりしないヤツだな。何を優先したいッ!?風習かッ!?自分かッ!?サヤかッ!?」

【コウ】

「八方ふさがりなんだって。それでいて、全部を優先したいと思ってるからタチが悪い」

【カズ】

「答えは出たな。お前は神代でサヤと一緒になるべきだ。なーに、お前らは別にややこしい関係でも何でも無い。意地を張り合いながら先に進んで行けばいいと思う」

【コウ】

「………」

【カズ】

「こうも付け加えよう。とりあえず信じて進んでみろって。進めば、優先順位が付けられるようになっから。今はできなくても」

【コウ】

「カズ……」

【カズ】

「今の気持ちと未来の気持ちは同じでありたい。けど同じであるなら、こんなにも悩まない……そうだろ?」


【カズ】

「……あのやろう。もぬけの殻じゃねぇか」

【カズ】

「………」

『仕事が終わらなくて今日は直帰します。夕飯はレンジで温めてね♪にゃは♪』


【カズ】

「……ん?なんだ、忍か。懲りずにまた誰か待ってるのか。でもな、待ち伏せは印象悪くするだけだぞ~。自分はされても大歓迎だったけど」

【忍】

「神童くん。ううん、そんなんじゃないよ」

【カズ】

「ならどうしてここに――用が無いなら帰るだろ」

【忍】

「用はある。それでいて、誰かを待っていた。君だよ、神童くん」

【カズ】

「へ……?」

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