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『明け』の明星(神代篇)  作者: どうしてリンコは赤いの?
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対を成す症候群

〈対を成す症候群〉4月22日木曜日

【ソラ】

「ご、ごめんッ!ちゃっかり忘れとった」

【カズ】

「……なら素直に恭順の意を表せよ。今回は全面的にお前が悪いんだから。今日は普通に通学すっぞ」

【ソラ】

「話ならここでいいじゃん。ゆっくりしていきなって。瞬間使えば一発だし、何より最高のおもてなしをさせて」

【カズ】

「土産を忘れた。ここでは寛げない」

【カズ】

「ってなのは半ば事実だけど、つい今し方瞬間使用禁止令を発令したところでな」

【ソラ】

「ほらっ怒って、るんだね。無理も無いけど」

【カズ】

「有るから使うし、利用する。ならせめて、無駄な足掻きでもしてやろうかなと唐突に」

【ソラ】

「無理させる相手が違うような」

【カズ】

「いいからとっとと支度しろって。遅刻すっぞ」


【カズ】

「しかし、相変わらずだな。研究室みたいな部屋。昔と何ら変わらん。あれでよく生活できるよ」

【ソラ】

「あれ、招待状送ったことあったっけ?」

【カズ】

「無くても関係者は出入り自由なの。一応、お前の兄を演じさせてもらったんだから」

【ソラ】

「なら何で、そんなよそよそしい言い方するん?気分悪いなぁ」

【カズ】

「………」

【ソラ】

「前言撤回で。ついでにダメ出しも勘弁♪」

【カズ】

「自分とお前が兄妹関係?」

【カズ&ソラ】

「あははは」

【ソラ】

「……い、いや、巫女ちゃんは笑っちゃダメでしょ。私を妹にしたくせにさ」

【カズ】

「い、言っとくがなッ!お前が拒めば――」

【ソラ】

「よそうか。この話題。せっかくの現実に、水を差すのは一番やっちゃいけないよ」

【カズ】

「………」

【ソラ】

「あれからどうだった。当ては当たったの?」

【カズ】

「大当たりだよ。タマは自分に心を開いた」

【ソラ】

「やったね。本気でやればちゃんとできんぢゃん♪」

【カズ】

「……これでも驚かないんだな。三日。たったの三日だぞ。タマに出逢って」

【ソラ】

「正確に言えば二日だね。でも時間じゃないんでしょ?自分を否定、するの?」

【ソラ】

「解ってるってば。巫女ちゃんが聴きたい現実はちゃんと。驚きました。これで満足?」

【カズ】

「……こういう受け止めた方は釈然としないなぁ。素直に表現して欲しかったのに」

【ソラ】

「う、嬉しいッ!本当に良かったッ!タマが副部長を引き受けてくれてッ!」

【カズ】

「……まだそこまで進んでねぇって」

【ソラ】

「おいおい。また繰り返さなきゃわかんねぇのか」

【カズ】

「進捗状況を報告しただけだろ。勝手に決め付けるなよ。それにな、これには非常にデリケートな問題が絡んでいてだな」

【ソラ】

「そう。つまり言い訳をするから、とりあえず聴いてくれ。ってことかな?」

【カズ】

「上司――ど、どっちでもいいや。部長に相談を仰いでんのッ!」

【ソラ】

「何も言うな。部員の事情ぐらい何となく察しがつく。じゃなきゃこの椅子には座れない」

【ソラ】

「少し距離を置こうか」

【カズ】

「何故だ?」

【ソラ】

「相手の出方を伺うの。下手に動いて、もし罠でも張ってたら壊滅的打撃を喰らって建て直せなくなる」

【カズ】

「だが見当違いってこともある。時間を無駄にして、払い除けようしたらそれこそ建て直せなくなるかも。今差し伸べるべきなんじゃ」

【ソラ】

「その子供のように正直なところが、義務を擽ったんだねきっと。知ってしまった。なら尚更、距離を置くべきだよ。尚更、ね」

【ソラ】

「何かにお悩みなら、考える時間を与えた方がいいと思うなぁ」

【カズ】

「………」

【ソラ】

「何かを得るには、何かを捨てなければならない。それって必然でしょ?」

【カズ】

「お前……ってヤツは――そうだな。判断は任せてくれ。自分の担当なんでな」


【担当教授】

「『……あたしが、神代を神為的作品であると認めたのは、上神の存在が有ったからでは無い』」

【担当教授】

「『……自分の全てで、感じてきたから現代へ行くことを決めたのだ』」

【担当教授】

「『……現代がこんなにも美しいなんて、今まで一度も感じなかった』」

【担当教授】

「『……初期から限界までの道程が極めて狭く、個体値、種族値、努力値といった目には見えない数値で生かされるなんて耐えられるはずも無かったというのに』」

【担当教授】

「『……そう、思ってた』」

【担当教授】

「『……あたしは目の前にある無数のネタの中から自分が好きだと思う物を選んで生きる生き方は始めからしていなかった』」

【担当教授】

「『……従って、自分以外の全ての他について、とやかく論ずることはできない』」

【担当教授】】

「『……現代に一番乗りしたあたしにとっては猶の事』」

【カズ】

「………」

【ソラ】

「………」

【担当教授】

「誰の課題かはあえて伏せます。敵は、多い方がいいに決まってますから」


【ソラ】

「ふぃ~、今日もお疲れ~。ゼミは特に窮屈だったね」

【カズ】

「……同感だな。課題内容は多少異なっても、自分だって登場人物は自分だけにしたのに。なのにどうして取り上げられない」

【ソラ】

「……そういう展開がお好みなら仕方ない。愚痴、付き合うよ」

【カズ】

「この課題はかなりの勇気が必要だった。満たしても、満たされても、そのタブーを破ることは断じてできない。他を登場させるなんて以ての外だった」

【ソラ】

「本当は説得できてるくせに、よくまぁ抜け抜けと」

【カズ】

「まぁな。同じ物で比較されちゃ誰だって、一番デキが良い物を選ぶ。二者択一ならここまで深刻にはならなかった」

【ソラ】

「虚栄心を擽ってるつもり?言っとくけど、こんなんじゃ一向に笑えない。こんなところで、終わらせない」

【カズ】

「じゃなきゃ困る」

【ソラ】

「………」

【ソラ】

「気紛れを起こす前に。ほい、タマに関すると思われる資料。ざっと百は超えてるかな」

【カズ】

「……い、いや、思われるって。せめて信憑性のある物を揃えろよ」

【ソラ】

「今日は一緒に教室という名の部室に閉じ籠もって、地味に活動といきますか。巫女ちゃんだけ休みってのは、何かね」

【カズ】

「……どうでもいい。この短期間でこの情報量を集めてくるお前って何者ッ!?」


【カズ】

「なぁ、青空」

【ソラ】

「ん~?」

【カズ】

「強がるのはいいが、弱音を吐いてもいいんだぞ?自分を巻き込め。自分だけで抱え込もうとするなよ」

【ソラ】

「………」

【カズ】

「そんだけだ。地味な作業は自分に合ってるのかもな」


【カズ】

「『遅咲きの神童。彗星の如く『明け』の明星界に現わるッ!?』」

【カズ】

「………」

【カズ】

「……この記事だけ信憑性が感じられないな。タマなのか、タマじゃないのか、どっちか判らん」

【カズ】

「青空。これ……」

【ソラ】

「……ん?ああ、それ。見出しに疑問でも抱いた?そのくらい巫女ちゃんでも気付けるか。記者のくせに曖昧な言い方だしね」

『明け』の明星界に彗星の如く現れたこの子の正体はわからない。

神代なら誰もが知る名高いではもはや言い表せない『明け』の明星コンクールの前哨戦といえる大会で私は存在を認識した。

その大会の方式は、主に制限もなく誰でも参加することができた。いわば、本大会に向けた調整の場といえよう。

私は某出版社に雑誌記者として勤めながらも、今回も審査員という立場で、終わりの見えない無数の作品にくまなく目を通していた。

変化の見ない時間が淡々と過ぎていく中、突然不意打ちをくらったかのように、一つの作品が私の目に留まった。

ジャンルからして決して他が好む内容ではなかったが、どことなく主人公に共感を得てしまうような結末の創りだった。

現代送りにされると自覚していながらも、及ばずながら梗概を示すことにした。

構成は全体的に義憤を感じさせる展開になっている。

ほんの些細ないざこざが余計火に油を注ぐことになり、誰もが争いに駆り出される。

ついに見かねた主人公。果たして、どんな答えを最後に示すのか。

もっとも、作品を創るだけでなく、この子は演じてみせた。

脚本と主演、両方を受け持った。

私の想定されているところでは、この子は実際には作品を創っていないのかもしれない。

全ては成り行きでの選択。

事実作品は創ったが、この子の中では作品を創ったという認識はないということ。

私はすこぶる震えが止まらなかった。

無意識の中に、意識を持つことは可能なことだろうか。

こんな遅咲きの、しかも『明け』の明星最有力後継者が存在すると知っていたら、最後まで見届けたかった。

対を成す症候群が、この作品をこんなにも成り立たせてるなんて誰も予期できないだろう。

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