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『明け』の明星(神代篇)  作者: どうしてリンコは赤いの?
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受験生(ライバル)達との再会

受験生ライバル達との再会〉

【???】

「………」

【???】

「……んで、何でついてくる?」

ガイダンスを終え、帰路を急ぐ自分の後ろを磁石のように離れようとしないコイツの真意は計り知れない。

いっその事、”瞬間”を使ってしまってもいいのだが、それでは今の光景を味わえない。

委員会やら、サークルの勧誘やらで賑わいを見せるこのキャンパスロードを。

どこも必死さがうかがえる。

それぞれの熱意が熱気と変わり、辺りを包み込んでいた。

【???】

「青空同好会だって。何するんだろ?」

自分の質問など気にも留めない。

すっかりこの場の空気も吸って、いつもの下りというわけか。

【???】

「じゃあな」

気休め程度に満足した自分は、面倒になる前に早々と切り上げることにした。

【???】

「お~い、神童」

そこへまた、行く手を阻むトンだ邪魔者が現れたのだった。

『現代篇:小比類巻 五右衛門 役(親友)』

【???】

「いきなり無視するなよ」

【???】

「わりぃ、周りが騒がしいから聞こえなかった」

もちろん明らかなウソである。

【???】

「まぁ無理もないか」

本当に納得してるのか、本当はしてないかはどうでもいい。

同時にウソという意味を知らないわけでもない。

入学試験の時からそうだった。

【???】

「ところで、何でお前ら一緒にいるんだ?」

もちろん、いずれこうなることは事前に予期していた。

【???】

「そういや、入学試験で仲よかったっけ。自分以上に」

悪気は無いんだが、この持っていき方はやはり嫌悪感を覚える。

【???】

「そうだな。だが、アレはさせられたんだ。自分も、青空も、認め合ってない」

過去に遡る。

少年と少女は高等を卒業した。ふと気がつけば評判や噂も消えていて、二人はこの町の『明け』の明星となっていた。

そんな二人が校門の先に咲き誇った無常の“桜”の下、幹に寄りかかりながら、青空を見上げていた。

「いつかは死ぬけど……私たちには『末裔を残すこと』が許されている」

「所詮じゃなく、私たちも(その創られたモノからいえば)絶対的になれる」

「そう、神に……」

これが、先に口を開いた少女の人間に対する最後のメッセージらしい。

「………?」

少女が不思議そうに少年を見つめる。

何を最後に残すのか、ある程度というより面白半分に期待していた少女。

「もどかしいな」

いったい、どれぐらいの月日が経ったのだろうか。

訴えたいことは山ほどあるのに、まさかのナルシスト発言。

でも、笑いは一切起きなかった。

でも、凝縮されて出た言葉がそれだった。

自分は何のために生きるのかを知りたいから、わざわざ生きてやっているのに、何の手がかりも見つからず、ただただ、もどかしさが募るだけの日々……。

……いや、手かがりはすぐ後ろにあった。

「というか、それが今の気持ちだろ」

五右衛門は自分より優等かもしれない。

鋭い親友の一言に図星の少年が苦笑いを見せる。

ふと、少女が周囲を見回す。

そして、満面の笑みを自分にプレゼントする。

少年も、すぐさま満面の笑みを返した。

今この瞬間がこの物語のクライマックスなわけだが、どうやら予め用意されていたシナリオどおりには進められそうにない。

受験をきっかけに恋に落ちたと思ってる、一期一会のライバル共が普段と同じようにアドリブで、少年と少女を取り囲む。

更に追い打ちをかけるように、少女の親友が不意にある歌を歌い始める。


 存在いる限り 今することはかわらない


 幸せと同じ


 くやしさもない はかなさもない 

   

 あるのはいとまごい


 いつかは消えてなくなるから


 それが今日でもいつだろうと


 かわりはしないきっと同じだ


 君との出逢いも――。


歌姫を演じるというより、ならざるおえない紅里子の歌声は瞬く間に周囲の共感を集める。

そんな中、少年が制服の左ポケットから慌ててある紙切れを取り出す。

それは推敲に推敲を重ねた歌詞付きの楽譜で、少女が作った自分の中にいる自分に対して訴えたかった気持ちそのものだった。

どんな状況に置かれようとも、いつも冷静沈着に対応してきた二人だったが、今回ばかりは動揺して自分を制御できなかった。

これほどまでにも臆病者だったのか、と叱ってやりたいぐらいに“勇気”を欲した。


 今は精一杯


 生きているから私は幸せ


 愛されたいのなら言いて

        

 今好きな人に…言いって

自分的な意味で、試験の最終問題は、こんな感じだった。

自分がその後、どうしたかはもはや障害じゃない。

【???】

「どうりでぎこちなさを感じるわけだ。掘り下げが足りなかったのかな」

【???】

「……何が言いたいんだ?」

その言葉に、何か裏があるとすぐ予感した。

コイツはいつも平然とした様子でいるが、本心をいきなりぶっこんでくるヤツだ。

少なくとも、自分より優等だということは入学試験で確認済みである。

【???】

「そろそろ来ると思うんだが。ここに呼んだから」

【???】

「……呼ぶなよ」

何となく結果を予想していると、アイツらが”瞬間”を使って目の前に現れた。

【???】

「”瞬間”とは便利なもんだな」

【???】

「……同感だ」

『現代篇:自尊 幸之助 役(ライバル的存在)』

【???】

「あれだけ注目を浴びたんだから、一般組ならほとんど認識していると思う」

『現代篇:望月 沙耶香 役(幸之助の彼女)』

入学試験の時も四六時中一緒だったが、まさか入学しても同じことが起きてたとは正直予想外であった。

【???】

「(つまり、だから差し向けたんだな。自分に魅せつけようと)」

コイツらも一緒になった。

だからお前らも一緒になるべき、と無言の伝言を受け取った気がした。

それは一方的で、自分はすこぶる機嫌を悪くした。

でも原因はそれだけじゃなかった。

絡みのある連中ばかりをこの場に集結させたのは誰かの意図だったから。

おそらく、青空の。

【???】

「………」

ちょうどいい機会だ。

気分を変えるため、神現を混同させないため、自分の生きる神代について、少し語ろう。

神代は生まれながらにして、自由である。

そう断言できるのは、親の存在。

神代では、誰もが生まれながらにして、孤独から始まる。

現代のように――いや、

要は、自分が自立するまで、誰かの生き方に左右されないということだ。

左右されて、振り回されて、気付いたらふと疑問に思ってて、その意味を考えて、それをどう乗り切るのか、を確認するなんてことも無い……。

そのルールを聴かされて、どう感じるは勝手だが、自分としては、始まりから好きなようにできる今の設定ルールには満足している。

ここは神代。

自分が生きたいと願ったからここにいて、それでいて創る側で、また生かされる側でもある。

個々の能力は皆同等と一般的には言われているが、そんな簡単な話では無い。

というのも、ここに来る前の、自己生成で育んだ貯金の存在が有るからだ。

誰だって、妥協したから神代にいる。

自分はどうあるべきか。

その答えを出した主人公のみが、他との関係を許される。

自分達の真の正体とされる始終なきモノは、有りも、無しも、始まりも、終わりも無い存在なのだ。

有りは始まりで、

始まりが有るから終わりも有って、

終われば無に還る。

そう、言われている。

【???】

「………」

本当のことを言うと、自分のことなのに、どういう過程を辿って今に至ったのか、完全には覚えてないのだ。

だから神代では――いや、今は止めとこう。

話を戻すと、つまり何も知らない状態から神生が始まる。

だから当然、右も左も判らないわけで、まずは目の前に広がる光景を理解しようとする。

現代に例えるなら、神代で”知る”ということは、お金以上の価値になるということ。

だからといって、何でも知ろうとすることはないが……。

流れる時間は違っても、”時間”だってちゃんと存在する。

どの代にも共通して言えることだが、時間の使い方が上手いヤツほど得をする。

ちなみに、自分は思いっきり下手である。

最後に一つだけ。

神代の主人公達は、自分のバイオリズムを基本的には表に出さない。

理由は単純だ。

創る側だから。

ここにも、何かしらの常識は嫌でも居座る。

………。

話をまとめよう。

『明け』の明星――すなわち、最高責任者になることこそが最大の栄誉であり、神代の存在意義でもあるのだ。

その為に何をすべきかを考え、それに向かって努力をする。

かといって必ずしも、全ての主人公が当てはまるとは限らない。

そういった風習に嫌気がさして、自ら現代を選ぶ主人公も数少なくない。

それでも時間の経過は変化を生む。

悲しいことに。

神代は広いだろう。

広さの話じゃない。

自分の想像を遥かに超えてる。

【???】

「へへっ、何かわくわくしてきた」

【???】

「って、こうして久しぶりにみんな揃ったのに、いつまで待たせるんじゃいッ!」

ペシッ!

横から入学試験以来のツッコミが入るが、どことなく違和感を覚える。

【???】

「う~ん……何かしっくりこんなぁ」

【???】

「うんうん」

それはみんな同じようだ。

【???】

「でも、忘れてないか」

幸之助のその一言に、自分も思い返してみる。

『現代篇:坂爪 忍 役(学園のアイドル)』

語弊を招かない為に言っとくが、男の方である。

【???】

「……あぁ、残念なことにアイツは受からなかった」

【???】

「………」

【???】

「……そうか」

自分はサクラだと思っていたが、どうやら読み間違えたらしい。

【???】

「お~い、みんな~」

【???】

「フッ……なるほどな」


家に着いた。

ヤツは二つの顔を持っている。

表の顔は純粋そのもの。何も知らないようなその素振りは周囲を虜にする。

裏の顔は本音そのもの。本当は言いたくて言いたくてたまらない。

表の顔を演じる度にストレスは溜まっていく一方であったが、ちゃんとはけ口もあった。

だから裏の顔は自分しか知らない。

別に自分へ発散していたことなんてどうでもいい。

肝要だったのは役に関わらず、周囲を惹きつける能力に長けていたことだ。

確信は持てていた。

とはいえ、誰かを抱き込んでまで入学した真意は何なのか、自分程度では考えても予想がつかなかった。

【???】

「明日から研修会かぁ……」

学部学科が違ったとしても、いずれどこかでまた会うことになるだろうから、かつてのライバル達への興味は徐々に薄れていった。

【???】

「………」

【???】

「……見つけないとな。あるべき生き方を」

結局、誰だろうと創られた世界の中でしか生きられない。

そして、誰もが疑問に抱く。

生きるとは何か。

今言えるのは、他を巻き込むのは論外であることだけ。

ただし、条件付きだが……。

【???】

「………」

【???】

「自己紹介しよう」

名前はない。名無しである。

自分達は最高責任者率いる神代政府が創った世界の中で生きている。

誰だろうと世界なんぞ創ることはできるが、創ったところで何の意味も持たない。

もはや、この続きは不要だろう。

最近になって止めどなく流れる政治関連のニュースを見ていると、”神現バランス”という言葉をよく耳にする。

神代に生きる割合と現代に生きる割合のことだ。

その割合が仮に現代に傾いたとすれば、それだけ神代に魅力を感じていないことを意味する。

そういう現実を何かで知って、在りたい場所を、現代に移す有権者も中にはいる。

それは極めて大きな決断である。

神代政府はどっちに転んでも、持てる力全てを使って、建て直すだろう。

ただ、誰だって限界はある。

断崖絶壁は永遠なき物語だけじゃないから。

神代も、現代も、欲深い。

同じ状態が続くって、どんなに自分を安心させてくれて、どんなに楽なことか……。

……知ってるはずなのに、誰もが先に進みたがる。

”飽き”もそれを後押しする。

だから、誰かがまたなる。

この舞台の創作者に。

そうやって、権限は定期的に変わっていく。

それを自分達は、“明け”と呼ぶ。

【???】

「………」

明日になるのを待とう。

静かに。

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