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『明け』の明星(神代篇)  作者: どうしてリンコは赤いの?
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上神

〈上神〉4月19日月曜日

【担当教授】

「講義を始める前に、皆さんに連絡があります」

【担当教授】

「ご存知のとおり、今年度の一般入試試験は人間物語でした」

優等でなくても、ここまで聴かされると答えを読める。

【担当教授】

「推薦で入学した学生については、他の課題を掲示板に掲示しますので、見落としのないようお願いします」

それを読んで、あえて言わない。

省くことによって、一つ飛ばせる。同時にそれは時間の短縮につながる。

【担当教授】

「人間物語が神為的作品であると、現代の主人公が確信を持てたとします」

【担当教授】

「まず、何を思いますか?」

こういう話題は得意中の得意ということもあり、真っ先に反応した。

【???】

「生きる意味を奪われた」

【???】

「一生知らなくていいことを知ってしまったのだから……ない。何も、ない。全て失われた。取り戻すこともできない現実に」

【???】

「怒りを露にするんじゃないでしょうかッ!?」

【???】

「巫女ちゃんも?」

【???】

「自分か?自分ならむしろ――」

【担当教授】

「そこを考えてもらいたいのです」

普段は引っ込み事案のくせに、こういう時だけでしゃばっても、優越感には浸れない。

あやうく、タチの悪い学生になるところだった。

【担当教授】

「短編でも、単なるやりとりでも、何でも構いません。神為的作品であると知った後の未来を考えてみて下さい」

【???】

「何も起きなかったら?」

青空の屁理屈は意図的だから困る。

【???】

「……何かは起きるに決まってんだろ。先生を困らせるのは試験だけにしろや」

レポート関係に苦手意識を持つ青空が、抜け道を見つけようとしていることはみえみえだ。

それによって挑むとなると、もちろんリスクを冒すことになるが、自分だから踏み出せる部分も正直ある。

【???】

「おぉ、そうか。でもどんな?」

【???】

「ん?そうだなぁ。世界各地の人間が同時に知ったとしたら、まずは誰もが自問自答すると思う」

【???】

「というより相談か……はは、はじめてだったりして。本当の自分と真っ向から向き合うの」

【???】

「自分は誰かが創った作品の中で、理由も知らされず生かされていたんだって」

【???】

「生きるではなく生かされていた。どう思う?」

【???】

「あわわ、何かヤバい空気になってきたね」

【???】

「知らぬ間に主導権を持ってかれたんだ。このまま終わるわけもないだろ。状況はもっと悪くなる」

【???】

「それでもいいと思う人間と、こんな世界は終わらせてやるという人間の争いが……悲しいことに。神代のせいで……うぅ」

【???】

「………」

【担当教授】

「………」

【???】

「にゃは♪よ、よくやったッ!巫女ちゃんは巫女ちゃんの役目をきっちりこなしてくれた。私はもう、満腹だ」

【???】

「に、人間を楽しんで欲しかったッ!純粋に……一人でも多く」

【???】

「……だからもういいって。しつこいと私まで――ちッ!途中で気付いたか」

【???】

「先生すいませんッ!私達には別の課題もお願いしますッ!」

試験の最中もやりやった、この似たようなやりとりを、青空は追加注文というオチで締めくくった。

【担当教授】

「茶番はもういいですか?では後ほど。講義を始めますよ」

それでも誰も動じず、沈黙が全体を維持する。

神代の優等は、拾うとか、構うとか、付き合ってやる等の蛇足的絡みを意図として好まない。

とはいえ、誰かはいる――と思っての、青空のさりげない探りだったとは誰も思わなかったはず。

結局は”はず”止まり。

つまり、その裏の裏をかいて、あえて無反応で対処したと自分は読む。

どうやら、今年度の新入生は優等生が揃ってるようだ。

偶然にも的中していたら、沈黙の解除命令はぐっと早まる。

そう言える根拠は、優等は物事を極端に考える傾向にあるから。

【担当教授】

「では皆さん。今日から本格的に始めていくということで、神代の始まりからみていきましょう」

【???】

「おぉーッ!始め尽くしだぁ~ッ!!」

青空と自分だけが喜びを露にしていた。

でもそれは、講義というイメージを払拭させたい為の言動ではない。

純粋に興味があるから喜びを表現した。

だが、他の学生は違う。

求めるのはただ一つ。『明け』の明星になること。

知り得ないルールを探求するより、決められたルールの中でどう生きていくかを考えた方がいいと思っているからだ。

神代も、現代もそれが大半を占める。

喜ばしいことに。

【担当教授】

「単刀直入にお尋ねします。皆さんは、神代の始まりをどういう風に考えていらっしゃいますか?」

【担当教授】

「そうです。自己生成を一番に終えた、優等な先駆者達が神代という土台を創った」

【担当教授】

「それが誰かなんて学ばなくて結構。その仕組み。そのルールはどうして存在するのかを。全ての現象には全て理由があります」

【担当教授】

「私達の上に存在する神……専門家の間では”上神”と呼んでいます」

偶然か。

それとも始まりだからか。

もしくは意図的にこの話題に触れたのか――今はどうでもよかった。

【???】

「……存在を認めると?」

【担当教授】

「知り得ないからといって、目の前のルールに何の疑問も抱かず、生きようとしても、実害はありませんが、どこか釈然としないでしょう」

【???】

「だからといって、他の学生を引き込めるとは……」

【担当教授】

「引き込もうとまでは思っていません。その意味を、その答えを、自分なりに考えて、決定付けて欲しいのです」

【担当教授】

「私は今、教授としての立場にいます。でもそれは少し、あなたたちより優等であったため。とは思っていない」

【???】

「………」

これでようやく、飲み込めた。

【???】

「妥協しない存在となれ。『明け』の明星を本気で目指すなら、誰よりも優等で在り続けろと……」

【???】

「……再確認ですか?」

【担当教授】

「あなたという学生は全く……教授殺しもいいとこです」

【???】

「そ、それでも上神のことが知りてぇッ!!」

【???】

「以下同文~♪」

【担当教授】

「わかりました。あなたたちには今日の放課後、お話致しましょう。他の学生も聴きたければ、研究室に来て下さい」

【???】

「……誰が行くか」

というような言葉が、どこからか聞こえてくるようだった。

【???】

「………」

【担当教授】

「お待たせしました。では本当の講義を始めます」

自分の取り越し苦労だろうか。

最初から上神への下りなど、どうでもよかったと感じるのは。

性格キャラなんぞ、誰でも演じられる。

自分の身を護るために、意図的に仮面を被るのは優等ならよくあることだ。

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