もどかしさ
〈もどかしさ〉
あの後すぐに、青空は文連と広報へ意識を向けた。
自分は帰りを待っている間、いつのように考え事をしていた。
部員は楽である。行きたくなければ行かなくていい。
部長は違う。行きたくなくても行かなければならない。
この違いは大きい。
それはどこか、経営者と従業員に似ていて、本当は逆らいたいけどいつものように我慢する自分のよう。
自分の選択は間違ってなかった。
自分はそう思ってる。
一つ目の自分に言い聞かせてる。
そうやって今まで生きてきた。
そしてこれからもそうだ。
後悔が残る選択だけはしないと。
それはする前の自分との約束事。
どんな結果になろうと、それを受け入れる。
それは強さではない。
それは我慢でもない。
刺激である。
受け止める強さなんて持たなくてよい。
我慢なんて持たなくてよい。
その刺激を、赤子を抱き締めるように、しっかりと受け止めてもらいたいだけ。
それが、子の本当の願いなのだから。
親は、子の幸せを誰よりも願ってる。
【???】
「そうだよな?」
【???】
「んにゃ?自信満々の答えほど恐いものはないよね」
【???】
「お見事」
自問自答を一言でまとめやがった。
認めたくはないが、完全に見透かされている。
コイツは自分を自分より知った。
知ったというのに、なぜまだ関わるのか、自分にはわからなかった。
コイツの意図がまるで読めない。
何を企んでいるのか。
でもそれはそれで、自分にとってありがたいことに変わりは無い。
こうして、一緒にいれてるのだから。
いい距離間。同時にデリケートでもある。
求めれば、終焉を迎えてしまう恐怖。
でもこのままではいられない刺激を求める自分。
この絶体絶命な駆け引きが引き起こす刺激はもはや尋常じゃない。
いっその事、時間が止まってしまえばと、本気で思ってしまう。
できたら、見い出さなくて済む。
どれだけ楽なことか。
どれだけつまらない物語が出来上がることか。
願っても、現実にしてはいけない。
青空を相手する場合は、無意識の中に意識を持って向き合わないと。
【???】
「なぁ、なぜからむ?」
いてもたってもいられず、悪あがきの不意打ちを食らわす。
即答か、間が空くか、その答えが待たれる。
【???】
「急にどうした?孤独は辛かったか。よしよし」
間を空けることもなく、ごまかしの即答が返ってきた。
【???】
「いやいや、自分が選んだんだけどな」
【???】
「ところで、どうだったよ?何か収穫はあったけ」
【???】
「んにゃ。これといって。さすがに誰もが警戒ってところかな」
【???】
「訊くまでもなかったか。いきなり行って、いきなり遭ってきたわけだしな」
【???】
「うん」
これからは、お互い探り合いからおっぱじめることになる。
そう考えるとめんどくさい気もするが、始まりとはいつもそんなもんだ。
【???】
「とりあえず、お疲れさん。気分転換がてら、家まで付き添ってやるよ」
【???】
「気にくわないのは、他の物語で生かされることだ」
【???】
「他の個性がそのまま物語の個性へと向かうから?」
【???】
「どんな物語だって、必然的にそうなるだろう。この神代だって、誰かが創ったから存在しているわけで」
【???】
「要はこのまま生きても変わらない。これからどうすんの?『明け』の明星になるしか方法は無いよ」
【???】
「そうだな。お前がなってくれ」
【???】
「あぁんッ!?」
【???】
「し、仕方ねぇだろッ!自分は劣等なんだから……お前の方がなれる確率は断然高い」
【???】
「……子供か」
【???】
「子を持った時のあの感覚は自分には無いなぁ」
【???】
「……持ったことねぇだろ」
【???】
「な、何ていうか、自分じゃなくてさ。見た感じ。それにさ」
【???】
「それに?」
【???】
「自分は生涯子供だから、大人にはなれねぇ。なっちゃいけねぇ。それは経験して感じた」
【???】
「子供ってさ、個性の象徴だよ。わかりやすく一言で言えば」
【???】
「………」
【???】
「……そもそも、巫女ちゃんが認識を置く、大人と子供の境界線は何なのさ?」
【???】
「目の前のルールに疑問を感じる間は、まだ子供でいられてる証拠だ」
【???】
「お前も経験したから知ってるだろ。子供は嘘をつけない。なんでつけないと思う?」
【???】
「発達段階からして、ルールをまだ理解できないからじゃない」
【???】
「その段階ではまだ疑問にも思わない」
【???】
「………」
【???】
「……結局、何が言いたいの?」
【???】
「どうして、空は青いの?」
【???】
「………」
【???】
「どうして、高校に行かなくちゃいけないの?行く意味がわからない」
【???】
「何をするにしても、親は無難な道を勧める。でもそんなことわかってる。親が言ってることは正しい」
【???】
「でもどこか、しっくりこない。納得できない。そうして悩み、考え、一つの答えを出す」
【???】
「出した主人公は、大人へと進化する。足掻いても意味無いと、馬鹿正直に目の前のルールに従っていく」
【???】
「そしてそれが、人間物語のからくりであることも知らず。自分は著者でもないのにそれに見抜けた」
【???】
「……へぇ~、すごいね。私はとっくにだけど」
【???】
「もしかしていつもの天然が出ちゃった?全ては創る側の策略でしょ。知ってるよ、そんなこと」
【???】
「神代みたいに、子供にいきなり自立されたら、物語も成立しないし、個性も封じ込めない」
【???】
「大人には子供の個性を封じてもらう役目も担ってる。見事ハマってた」
【???】
「確か、二つ目の自分だっけ?巫女ちゃんが使う言葉。創る側にとって、それは邪魔者でしかないから、何かしらの弱みを付加させないとね」
【???】
「それがいわゆる創る側の見せどころ。醍醐味ってヤツよぉ、巫女ちゃん」
【???】
「………」
【???】
「生かされる側でいたくなかったら、それぐらい即座に見抜こう。というか、だからここに入ったんでしょ?」
【???】
「あはは、天然に付き合ってくれてありがとう」
【???】
「……はぁ~、何でこんな時に出るかな。せっかく家まで送ってもらう、このタイミングでッ!」
【???】
「それはない。まだ道とか街とか知らんし。この辺で帰った方がいいかな、はは」
【???】
「……出たッ!連続天然ッ!」
【???】
「けけけ、泊まってけ。これは癖でね。けけけ」
【???】
「遠慮しとく~♪明日は休みだから♪」




