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『明け』の明星(神代篇)  作者: どうしてリンコは赤いの?
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運営委員会

〈運営委員会〉

部長様とは講義終了後、委員会やサークルの溜まり場となっているクラブハウスで待ち合わせすることになっていた。

なっていた。

しかし、一向に姿を見せる気配は無い。

自分はこの無駄な時間を埋めようと、今一度”姓”について考えてみた。

神代では、生まれながらにして、誰かに命名されることもない。

従って、名前を持つかどうかは全て、自由なのである。

便宜的にあえて持つ主人公。

呼ばれたからそれにした主人公。

先を見越して、前もって決めておく主人公。

カモフラージュの為に名前を持つ主人公。

理由は様々である。

そして今は、創る側の立場にスポットを当ててみようと思う。

『明け』の明星を目指す主人公は、誰しも固有の名前を持ちたがらない。

良い意味でも、悪い意味でも、名無しの方が何をするにしても、動きやすいから。

といっても、それは無理な話。

結果を出せば出すほど、世間から脚光を浴びることになり、結局は誰かに名前をつけられ、浸透してしまう。

さらに言えば、それだけ敵の数も増える。

かといって、自重し過ぎれば、有権者からの信頼は得られない。

誰しもが、この難しい駆け引きを強いられる。

自分を除いて。

自分は”青空”

青空は巫女ちゃん”

と、神代でも呼び合ってることから、そのまま踏襲しても問題は無いだろう。

【???】

「………」

【???】

「……にゃろう。いつまで待たせる気だ」

クラブハウスの出入口での待ちは、色んな部員とすれ違いになる。

そのたびに挨拶を交わさなきゃいけない。

全くもって、面倒くさい。

【???】

「……やっと来――何で瞬間使わねぇんだよ」

青空を視界に捉えて、すぐ飛び出したぼやき。

【???】

「おっ、みんな揃ってるな。んじゃ早速、お化け屋敷に入るぞ」


やっとこさ、中に入れた。

入って感じたことなんだが、自分が思ってた以上の賑わいを見せていた。

【???】

「なるほど。瞬――」

【???】

「……んで、お前は早々何をしてるんだ?」

【???】

「部員の有無チェック。見りゃわかるっしょ」

【???】

「……まぁな。お前は部室がどうしても欲しい。よーくわかった」

【???】

「解ったから、そのボケは止めろッ!第一印象を悪くしても――」

【???】

「ちょっとあなたたちッ!そこで何してるのッ!?」

見つかってしまった。

後はこれが、青空の意図だと願うばかりだ。

【???】

「あなたたち……新入生でしょ?盗み聞きなんていい度胸ね。しかも運営にケンカを売るなんて」

どうやら、願いは届いたようだ。

自分と青空は、運営委員会に行くつもりだった。

【???】

「入部希望なら堂々と――ちょっと待って。ケンカ?そしてこの感覚……」

青空が、自分に対して満面の笑みを送ってきた。

【???】

「もしかしてあなたたち、神童兄妹?」

【???】

「そうでしょ。いやそうだわ。お目にかかれて光栄」

つまり、こういう展開になると、最初から見抜いていたわけだ。

だから遅刻した。その上で、

【???】

「(ど、どういう出会いにするかを選べるなんて、贅沢過ぎる……)」

【コウシ】

「申し遅れました。運営委員会の委員長をしていますコウシです」

少し興奮気味に自己紹介を済ませるも、こちらに時間を与えることはしなかった。

【コウシ】

「にしても、あの桜の木の下のクライマックス。あれには感動しちゃったな。あんな結末、台本にはなかったから」

具体的な内容にまで及んでいることから、サクラとして認識してもいいだろう。

【コウシ】

「で、どうなの仲は?深まったのかしら」

【???】

「……いや、それがなかなか。ご覧のとおり、かなりの奥手で」

【コウシ】

「うふふ、何となくわかる気がするなぁ。でも大学は始まったばかり。焦ることはないと思うわ」

【コウシ】

「話は伺ってる。とにかく部室にいらっしゃい。話したいことがたくさんあるの」

そのまま、運営委員会の部室へと案内される。

【コウシ】

「そうそう、話を戻して悪いんだけど……」

【コウシ】

「意図的でも、盗み聞きは今後しないように」

【???】

「………」


【コウシ】

「話というのは大きく分けて二つあるの。一つは副部長の不在と部室が無いということ」

【コウシ】

「あくまで形式的なことだから、副部長不在のままだと、こちらとしても認めるわけにはいかないのよ……」

活動は認められても、存在を認めてもらえなければ意味が無い。

【???】

「なら自分が副部長になればいいだけの話。この問題は解決でしょう」

【コウシ】

「でも隣の部長さんは納得してないみたいよ」

【???】

「え……?」

【???】

「副部長は探します。まだ始まったばかりですし、新入生の誰かに頼んでみるつもりです」

【???】

「(このやろう。この期に及んでも、まだわがまま言ってやがる……)」

何が何でも、上にはいかせない魂胆らしい。

【コウシ】

「そ、そう。部長さんがそう言うんであれば、お任せします」

【???】

「自分で見つけろよ。自分は一切手を貸さん」

【???】

「始めからそのつもり」

【???】

「ただ、気違いは連れてくるなよ。クリクリみたいなヤツは特に」

【コウシ】

「あら、あなたが差別?あの頃は非審美主義だったのに」

【???】

「いやだな、今もそうですよ」

【???】

「単に警告を発しただけです。青空みたいなヤツが増えると、どうなるか……わかるでしょ?」

【コウシ】

「だそうよ?」

【???】

「いいざあんしょ。その条件は呑んでやるッ!私は、なーんて寛大なんだッ!かっかっかッ!」

この異常なテンションはどこか引っかかる。

クリクリはこの大学に合格したということなのか……?

どちらにしても、何かある。

【コウシ】

「とりあえず一つ解決ね」

【???】

「満室なら仕方ないでしょう。講義館の教室で構いません」

先手を打つと同時に、ちらっと青空に意識を向ける。

【???】

「追い出すとか、いいんじゃねぇ?おんどりゃッ!ここを、どこだと思ってやがる。ってな感じで♪」

【???&コウシ】

「論外」

【???】

「んじゃ教室でいいです。機材類は全て、巫女ちゃんが運ぶってことで手を打ちます」

【???】

「……おいおい」

【コウシ】

「解決ってことでいいのかしら……?それじゃ二つ目の問題に移るわね」

【コウシ】

「といっても問題という問題じゃないから心配ないわ」

【コウシ】

「ところで、文化団体連盟って知ってる?」

知っているという方向で、話を進めて頂いた。

【コウシ】

「これからあなたたちは、文連さんの下で活動を行っていくことになるわ。早い話、文化サークルの責任者的存在ね」

まとめるとこうだ。

運営委員会がトップに君臨し、その下に体育会系本部と文化団体連盟本部と分かれる。

他にも代議員会、会計監査委員会、学園祭実行委員会、広報委員会、常任委員会といった難儀そうな委員会が多々あるようだ。

【コウシ】

「これからは、ココより文連さんとの関わりが増えてくる」

【コウシ】

「何かわからないことや困ったことがあったら、気軽に文連さんを頼るといいわ。センパイ達が優しく教えてくれるはずよ」

【コウシ】

「話は以上になるんだけど、最後に一つ。センパイからのアドバイス。文連さんと広報委員会さんには挨拶ぐらい行った方がいいわ」

【コウシ】

「特に広報委員会さんッ!これで問題はわかったかしら?」

確かに文連は、これから何かとお世話になるだろうし、向こうもどんなサークルなのか把握しておきたいはず。

広報委員会に念を押したのは、活動が被るからだろう。

向こうは主に、年度四回の新聞発行をするらしいから、記事を書く技術や取材の段取り等は心得ている。

つまり、相応のプライドをお持ちだということ。

最初はお手並み拝見といったところだろうが、こちらの活動成果次第では、対抗意識を燃やしかねない。

どうなるかは全て、青空がどこまでやる気なのか。

今言えることは、本当の目的はもっと別にあるということ。

青空のことは、自分が一番知っている。

そこにどこまで尽くしてくれるのか、自分にも想像し難い。

【コウシ】

「なんてね。これで話は終わりだけど、他に質問とかある~?」

【???】

「どうしてコウシと呼ばれてるんですか?」

こういう幼稚な質問しかできない自分って、何か情けない。

【コウシ】

「知りたい~?」

【???】

「い、いや、やっぱり結構です」

【コウシ】

「ならしないッ!センパイをおちょくると痛い目みるよッ!」

思いっきり見下してるなら、そのまま仮面を取って欲しいものだ。

【???】

「コウシセンパイは、旅に出られないんですか?」

【コウシ】

「う~ん……役職を持っちゃうと、代替えまでは辞められないのよ」

【コウシ】

「いま2年でしょ。だから――」

【???&???】

「え?」

【???】

「い、いや、自分らはてっきり3年生とばかり……な?」

【???】

「う、うん」

【コウシ】

「3年にもなれば、ほとんど旅に出てるわよ。それで帰ってくるのは大体4年の半ば過ぎぐらいかな」

こういう話は、いくら聞いても損はない。

こんなにも早く、入学から卒業までの流れを知ることができたのだから。

とはいえ、全ての学生がそれに当てはまるとは限らない。

あくまで、傾向の話だろう。

【コウシ】

「帰ったら、大抵の学生は卒論と就活を両立しないといけない。まさに地獄ね」

【???】

「なら中にはいるんじゃないですか?それ以上ひどくならないように、早めに切り上げる学生も」

【コウシ】

「いるにはいるけど、ここにいる学生はほとんど往生際が悪いから」

【???】

「………」

【???】

「あの、自分の勘違いでなければ、あなた以外は劣等だと?」

【コウシ】

「それぐらいの自信が無ければ、『明け』の明星になれっこないわ」

【コウシ】

「いい?重要なのは、戦利品を持ち帰ってくること。次につながる道を創ることが旅の本当の目的なの」

【コウシ】

「神代を知ろうなんて、もう遅いのよ」

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