ガイダンス
~ストーリー~
始まりが有れば、必ず終わりが有って、同時に終わりは始まりでもある。
しかし、終わりの後の始まりが有るかは絶対的ではない。
それが私達の生きる世界(物語)。
ただ…
…始まりなど根本からして無い。
…終わりなど根本からして無い。
始終が有るのは永遠なき物語で、始終が無いのは始終なきモノである。
その始終なきモノが永遠なき物語を創造する。
そして始終なきモノの正体は主人公たちで、
“神”のように全知全能で、
主人公たちの真の正体。
………。
“優等は劣等をも演じることができるが、劣等は優等を演じることができない”
・
・
・
明け―― 『前の“物語”が終わり、新しい“物語”を迎えること』
例として、新しく始まる“物語”が明るく、希望に満ちている時に使われることが多い。
今、希望に満ちている……。
~神物紹介~
???(カズ)(AMUの学生)『現代篇:神童 巫太郎 役』
「物語の終わりに立ち会うより物語の始まりに立ち会う方がよっぽど価値がある」
一般入試組。一言でまとめればナルシスト。当然、優等でもなくむしろ劣等。合格できたのは入試の課題のおかげ。
大学のレベルについていけるかははっきりいって無理に等しい。
???(ソラ)(AMUの学生)『現代篇:神童 恋(戀) 役』
「『明け』の明星になれるなら魔王にでもなれる。なんてたって、わたしゃ咬ませ犬♪にゃは♪」
一般入試組。一言でまとめれば掴み所を与えない。当然、優等でもなくむしろ劣等に含まれると思われる。
しかし見抜く力は一級品。
???(タマ)(AMUの学生)
「……あたしは目の前にある無数のネタの中から自分が好きだと思う物を選んで生きる生き方は始めからしていなかった」
推薦組。孤高で無口が元来かは不明。そのせいで、決して寄せつけないオーラを放つ。ただ、超がつくほどの優等に変わりなく、その証拠に去年の『明け』の明星コンクール高等の部優秀賞者。作品名『対と三竦』
〈ガイダンス〉4月12日月曜日
永遠なき物語の中で生きる私達は、常に二つの自分を持っている。
一つ目の自分とは、その世界に存在する無数の環境や出来事を経験することで、変化していく自分。
二つ目の自分とは、何があっても絶対的に影響されない本当の自分。
一つ目の自分は、二つ目の自分とどのように接し、どうやって向き合っていくべきかをさりげに考えている。
言いかえれば、親が子を育てるような感覚だ。
二つ目の自分が挫けそうになった時は、一つ目の自分が慰め――その繰り返しをして、誰もが今日に至っている。
そうやって、私達は支えながらこの永遠なき物語を生きている。
けれど親の心が折れたら、そこで終わりを意味する。
生きていれば、自分で自分をコントロールできない場面に直面するのは必至だ。
しかし、そこをどう乗り切るかなんて、今はどうでもいい。
生きるモノは生き、死ぬモノは死ぬ。
その結果には全く興味が無い。
その要因には興味が有る。
自分は存在している。
その要因は一体何か。
考えられずにはいられない。
多分、ずっと……。
それが、二つ目の自分なんだと思う。
一つ目の自分がそう言ってる。
続けて、こうも言ってる。
一つ目の自分は、誰かによって干渉された存在。
だからといって、拒まれても困るとも。
二つ目の自分が妥協することは絶対的に無い。
本当の自分だから。
だからこそ、護るのだと……。
自分で言うのも何だが、一つ目の自分の言い分はしかと受け取った。
つまり、一つ目の自分がこれからどのように変化し、現段階での考えが変わるかは、前に進まないとわからないということ。
………。
始終なき物語は絶対的に存在しない。
全てにおいて、始まりが有れば、必ず終わりが有る。
ただし、唯一一つを除いては……。
一番価値のあるモノ。
それは”永遠”であるが、それは誰もが持っている。
永遠なき物語でしか生きられない一つ目の自分と違って、二つ目の自分は永遠に無くなることは無い。
なぜならそもそも、始まりも、終わりも無いのが二つ目の自分だから。
神代はそれを、始終なきモノと呼称する。
たとえ、終わりを迎えても、再び始まりを繰り返し、誰かが永遠なき物語を創造している。
私達は永遠なき物語の中でしか生きられない。
そう、始終なきモノによって創られた物語でしか。
そして、その始終なきモノの正体は主人公たちで、
“神”のように全知全能で、
主人公たちの真の正体。
………。
だから私達は、どの物語でも主人公であるのだ。
とはいえ、必ずなりたい主人公になれるとは限らない。
永遠なき物語の中の私達は絶対的でなく、確率的に生きなければならないからだ。
人間物語を例として挙げるなら、人間としての物語を始め、その他様々な生き物の物語が存在する。
つまり、どの物語を体験するかは確率次第ということ。
そうやって、成り立たせてきた。
そして、これからもそうだ。
全知全能の私達は、あえて、劣等になって永遠なき物語を楽しんでいるのだから。
大半は思う。
全知全能物語を生きるより、遥かに無知無能物語を。
しかも成長変化付き且つリセット無しで、生きる方が選択肢が無限にあって面白いと。
先に何が待ってるのか、誰もわからない。
これこそ、現代冥利に尽きる究極の物語である。
だが、忘れてはならない。
冷静に考えれば、何かが見えてくる。
結局は、どの物語も、ご都合物語であるということ。
現代の主人公は確証を持てないのが、宿命であるが……。
【???】
「とにかく、自分なりに楽しめってことだな。うん、納得」
最後は何が何でも納得して終わる――いや、終わりたい。
それは遠い昔に決めた自分との約束事。
でないとずっと考えてしまって、何も手につかなくなる。
【???】
「お~い、話は終わったか~?ナルシスト♪」
その言葉に、自分が教室内の視聴率を集めていたことに気付く。
【???】
「コホン。君、入学試験は終わったんだ。そろそろ役から離れたらどうだ」
【???】
「プププッ!」
【???】
「……何がおかしいのかね?」
【???】
「い、いや、何て言ったら一番適当か。離れることは一生できないかと」
【???】
「なんせ神童巫太郎ですから……」
【???】
「……神童巫太郎を演じたのではなく、神童巫太郎だったから、入学試験も合格できた」
【???】
「自分の偏差値と大学の偏差値を見比べて多少厳しいと思っていても、受けさえすれば合格できると思っている」
【???】
「というか、多少どころじゃないッ!?」
【???】
「私の推測からして、この大学へ入学できたことに驚いてはいないでしょうね」
【???】
「……いやいや、驚いてるって」
【???】
「なぬッ!?」
【???】
「そりゃそうだろ。誰が受験生かもわからんし、皆ライバルと思って必死に受けてた」
今に至る経緯を話せば長くなるからここでは割愛するが、要は大学の入学試験を受けて合格したからここにいる。
【???】
「でもでも、必死に受けてるんだから絶対的に受かると思ってたよね?」
としつこく同意を求めてくるコイツも自分と同じ入学試験を受けて合格した。
人間物語で、『現代篇:神童 恋(戀) 役』を見事なまでに演じきっていたのは自分が一番よく知っている。
自分がたまたま『現代篇:神童 巫太郎 役』だったから尚更だ。
【???】
「自分は劣等。お前が一番知ってるだろ」
と否定しつつも、実は満更でもなかったりする。
【???】
「ふむ。君にとって、打ってつけの試験内容だったというわけか……」
どうも、歯切れが悪い。
【???】
「しかし、創れるのだろうか」
【???】
「ご心配には及びませんッ!能力は皆同等と言われています。あとは創造力とヤル気の問題ですッ!」
両者の間に入る気が全く起きないこともあり、ここはおとなしく傍観する。
【???】
「まぁ、そうであるな。君は君しかいないし、私は私しかいない」
【???】
「はい」
互いに無表情で見つめ合う。
入学早々、勝手に納得されては色々と面倒なので、空気を変えるついでにひとり言を呟くことにした。
【???】
「……創れる創れないじゃない。要は創る気があるかどうかだと思うんですけどね」
【???】
「ッ!?」
【???】
「……君は何を言いたいのかね?」
【???】
「いえ、何でもありません」
【???】
「失礼しました」
【???】
「……ん?何か廊下が騒がしいなぁ。他のクラスはガイダンス終わったのかな」
自分で作り出したこの空気を変えるべく、それでもそれは決して巧みとはいえず、とぼけたように廊下に意識を向けるのだった。