烙印
『ふむ…こりゃぁ一雨きそうだな…』
身なりの良い男はそう呟くと、【その】カフェテリアを後にした。
カフェテリア、オレンジカーズ
そこは地元では有名なカーズメイカー達の集うカフェテリア。
1924年アメリカ
フェニックス州にある小さな村ズッタビー村
身なりの良い男は、その村の唯一のカーズメイカーだった。
カーズメイカー(呪いの作成者)
様々な呪いを作り出す、神をも恐れぬ暗黒の人間。
この年アメリカでは未知の奇病、白痛病が流行っていた。
白痛病、通称ホワイトペインは、感染すると全身が真っ白くなって死ぬ、恐ろしい奇病であった。
そんな白痛病の特効薬として考案されたのが、カーズメイカー達によるカーズ。
すなわち、新たに呪いをかけることによって、白痛病の痛みをなくしてしまうという…。
実に画期的なものであった。
しかし、呪いは呪い。
白痛病のかわりに受ける呪いは文字通り呪いである。
彼、身なりの良い男バスタ・ブルジェラも、白痛病にかかり、苦肉の策として自らにカーズをかけ、それこそ恐ろしい呪いにかかったのである。
バスタがかかった呪い
それは…
プリンを食べると死ぬ呪い
で、ある。
カーズメイカーとしてまだ未熟なバスタは、呪いを選ぶ選択権がまだ発生しておらず、結果、最低最悪な呪い。
プリンを食べると死ぬ呪いにかかったのである。
この呪いはプリンを食べなければ死ぬことはないという呪いである。
つまり極論を言うならば、プリンを食べなければ一般人と全く同じなのだ。
しかし、考えてみてほしい。
プリンという魅力的なスイーツについて。
普段日常生活の中でプリンが食べたくなるシチュエーションはそう多くはない。
だが
一番食べたいと思ってしまったら最後、口にするその瞬間まで、地獄のような喪失感に襲われるのである。
三度の飯よりもプリンが好きだったバスタにとって、それは地獄でしかなかった。
そして今日
今日、ついにバスタはみてしまったのだ。
オレンジカーズの店内で、うまそうにプリンアラモードをほうばる、浮浪者の姿を…。
バスタ『西か…』
カーズメイカー仲間のアヌビス・アルマムーンから、西に住む少数民族ミポポ族ならば、バスタのカーズを呪解できるという情報を得たバスタは、ひとり、そのミポポ族の住むというカドガン村へと向かっていた。
~カドガン村~
そこは薄暗く気味の悪い村だった。
村人は皆、バスタを見てみぬフリをし、頭には謎の帽子を被っていた。
バスタ『ん、これは…?』
バスタは左に長老の家を見つけた。
バスタ『ごめんください~』
静かな空気を割って入ったバスタを、長老は快く受け入れた。
長老『こんな村に何しにきただぁ?』
バスタ『実は…』
バスタはこれまでのいきさつを全て説明した。
長老『それはそれは…大変だったでしょう…』
バスタ『はい…』
長老『ですが私にはどうすることもできません』
バスタ『そんな…ここまできて…』
長老『私達の呪解はリスクが高すぎます。あなたのその呪いを解くためにはこの世界を巻き込まなくてはならなくなる…』
バスタ『それは、この世界を巻き込めば私は救われる、ということですね?』
ギロリ
バスタは長老を睨みつけそう言った。
悪い顔である。
長老『本当に良いのですね?』
バスタ『ああ、頼む』
長老『ならば発動させましょう、ミポポ族に伝わる伝説の呪解、グダンジャの烙印を!!』
バスタ『グダンジャの…烙印…』
一瞬にして、辺りは光に包まれた。
バスタを中心に光が広がっていく。
バスタ『長老…これは…!?』
長老『これは禁じられた呪解、グダンジャの烙印。この世界の全ての呪いを打ち消す力、その代償は、未来を生きる罪のない人々』
バスタ『未来の…』
長老『多くの人々がこの呪解の代償の犠牲になるでしょう。正直私自身にもわからない。しかし、あなたのその覚悟は本物!!さぁ、プリンを食べなさい』
スッ
どこから取り出したか、長老はバスタにプリンを差し出した。
バスタ『おお…おおぉ…』
それをゆっくりとスプーンですくって口へと運ぶ。
『おおおおおお!!』
プリンだ
紛れもなくプリンである。
バスタが待ち望んだプリンの味。
バスタ『う…うぐぅ…ぁああああああ』
バスタは泣き出した。
この時のためにずっと生きてきた。
その役目を終えたのである。
長老『いきなさい、バスタ・ブルジェラ。あなたにはその資格がある』
食べ終えたバスタは
もう前を向いていた。
曇りなき空の下
最高の笑顔で…。
完