圭太との会話 その2
圭太からの誘いに戸惑いながらも同意した拓海。池のほとりで拓海は圭太から突然の報告を受ける。そして、圭太はおもむろに自分にとんでもないことを言うのであった。
二人は大学の池のほとりの小道を歩いていた。秋の澄んだ空気と、木々についている緑葉が二人だけの空間を作っていた。
「拓海ならオレが官僚として生きていくことになぜ納得いかないかわかってくれると思ったんだ。」
拓海は立ち止まった。歩きながらする話ではないと思った。
「あそこのベンチで話そう。」
拓海の目線の先には、目のまえの池の手前にある一つのベンチがあった。それは池を鑑賞するために特別に作られたとでも言わんばかりのものだった。
二人はベンチに腰を掛けて、池を眺めた。圭太を振り返ると、圭太の横顔は真剣な表情になっていた。
「実はおれ、親に官僚になりたくないって打ち明けたんだ。」
拓海はその唐突な告白に驚いた。圭太の告白は尋常ならざるものがあった。
「その理由にたいして親は切れたんだ。」
拓海はあえてその理由を聞こうとはしなかった。拓海は圭太の次の言葉に耳を傾けた。
「おれが官僚になりたくない理由てのはな、」
その時、拓海は圭太の目が高速に揺れていること気づいた。圭太は、なにか恐ろしいことを言う時の表情をしていた。
「自分が官僚になったら、自分の一生がそれで決まってしまうと思ったからなんだ。」
拓海は愕然とした。それは理由が具体的ではなかったからだった。官僚になりたくない理由が、まったく漠然としたものだった。それは拓海にとって不気味で末恐ろしいことだった。漠然としているものがこの世界を侵食しているような気配。
「親は、そんな理由で官僚を辞める人なんてどこにもいないっていうんだ。」
圭太はさらに続けた。
「おれはこの大学に入った時から、官僚になってこの国を変えることを目指してきたんだ。だけど、だんだん官僚になることがこの国を変えるという目的から最も遠い位置にいると思えてしょうがなくなってきたんだ。」
そういうと、圭太は一息ついた。
圭太は池に目をやった。
「おれって少しおかしなこといってるのかな。やっぱり・・・」
拓海は何も話さなかった。
「おれたちは、どこに向かっているんだろうな。」
言いようのない不安が拓海を襲った。
少し言うべきか言わないでおくべきか迷って圭太はこういった。
「なんか拓海ってさ。将来革命家になってそうだよな。」
拓海はその言葉にドキッとした。
「冗談だよ笑」
拓海は革命家という言葉にノックアウトされた。革命家という言葉は、拓海にとってジンやリキュールだった。その言葉はどこまでも退廃的で、どこまでも拓海に付きまとってきそうだった。拓海の中では、酒と血の匂いが「革命家」という言葉だった。
「でも、オレも普通の官僚になれないかもしれないなぁ。」
圭太はちょっと気を遣っているようだった。
その時だった。
拓海は急に初めて圭太に自分の心の内を全て打ち明けたくなった。その衝動はもう止められなかった。
「あのね、圭太。」
「どした?」
圭太は不思議そうに拓海の顔を見た。
拓海は今から言う言葉のピュアさに恥じらいを感じた。
「おれは、この世でもっとも大切なものは何か探している。」
そのあまりにも純粋な言葉に圭太は言葉を失った。どこまでもその言葉は宙に浮き、空間をさまよった。その永遠とも思える空間に、拓海はこう続けた。
「この世界で最も大切なものが存在するとしたら、それはひたすら個人的で、それなしでは自分の存在価値すらわからなくなる、そんな類のものだと思ってる。」
圭太は呆気にとられて、ただ拓海の顔を見ていた。
「だからおれにも圭太の気持ちがわかるよ。」
その突拍子もない同意の表明は、なぜか真理の命題と寸分の違いもなかった。




